2話 初めての蜜の味 (挿絵あり)
決意の後、早速ですが問題が起こりました。
「お腹…空いた……」
はい、空腹です。急に来ました。まあ、半年も蛹の中で眠っていたのでお腹が空くのは当然のことですけど。
魔物な私ですが、種族説明には『主食:蜜』と書いてあったので、花を探しに行くことにします。主食が人肉とかじゃなくて良かったです。本当に良かったです。
「それにしても、神秘的な森だなぁ」
現状整理で忙しく、今までしっかりとはこの森を見ていませんでした。しかし、よくよく見てみると、私の知っている森との違いがわかります。
1つ1つの木がとても大きい上に、それが奥の方までずっと続いている。青白く発光している茸がところどころに生え、紫色のうねうね動く草は点在し、根元から水晶が出ている木もある。…うねうね動く草は神秘的ではありませんね。
改めて、ここが異世界なんだなと思わされます。これなら花もすぐに見つかるでしょう。
「おっ!発見〜」
少し歩くと、鈴蘭に似た白い花が群生している場所を見つけました。木々の間、木漏れ日も相まって、その場所だけが純白に染まっているようでとても綺麗です。近づいてみると、薄っすらとですが心地よくも甘い香りがします。
「蜜って、そのまま吸えばいいのかな?」
ここにきて、肝心なことに気づきました。私の体はほとんど人なので、普通の蝶と違って楽には吸えそうにありません。それに、お腹いっぱいにしようと思っても、ここに咲いている分では足りない気がします。
さて、どうしようか……考えること約10秒。
あ!そういえば、あれがあったじゃないですか、『抽出』スキルが!『抽出』スキルは、対象に含まれるものを取り出し、Lvに応じて取り出したものの量を増やすという効果。つまり、花に含まれる蜜を取り出せます。しかも、量も増やせる!完璧ですね!
何で持っているのか不思議だったスキルですが、ここで使うんですね。
成る程と手を打ちつつ、早速花にスキルを使います。
手を合わせて器を作ると、その中に金色に光り、トロ〜っとした液体が溜まり始めました。香りがフワリと広がります。
ですが、その香りを嗅いだ瞬間、私の中に抑え難い衝動が駆け巡りました。
あぁ…飲みたい……この液体を早く自分の中に注ぎたい…、という衝動が。
ゴクッ。思わず生唾を飲み込んでしまいます。自分が蝶の魔物だからでしょうか?この蜜が欲しいという気持ちが高まります。
突然な心の変化に、私自身驚いていますが、自制という言葉が熱い波に洗い流されるようです。
うぅ…飲みたくて、飲みたくてたまりません。なぜか、この蜜を見ていると頰が紅潮します。
あぁ、もう…ダメです。我慢できません!
零さないように。零さないように。ゆっくりと口を近づけます。
そして、チュゥ〜…コクンッ。チュゥ〜…コクンッ。少しずつ、少しずつ、じっくりと味わいながら飲み始めます。
チュゥ〜…コクンッ。チュゥ〜…コクンッ。手の器程度の量、すぐに減ってしまいます。
…ペロリ。そして、最後の最後、手に一雫も残さないように舌を使って丁寧に舐め取ります。
「ふわあぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!!!!!!」
甘い!甘い!甘いっ!何これ、甘いよ!花の蜜がこんなに美味しいなんて、知らなかったよ!
舌を伝い、喉を流れる度に全身が歓喜に打ち震える。その初めての感覚に、私は出したことのない声を上げてしまいました。
たかが、花の蜜のはずなのに、痺れるような快感が駆け巡ります。
「ハァ…ハァ…フゥ〜……」
危ないです。意識を持っていかれそうになります。
逸る鼓動を宥めますが、あの気持ち良さはなかなか消えません。病み付きになりそうです。
「ふぅ……」
深呼吸を繰り返していると、落ち着いてきました。まだ少し顔が熱い気もしますが、大丈夫でしょう。
「…甘かったなぁ~」
今なら、さっきよりは冷静に味を評価できます。
甘さはそれこそ溶かした砂糖…いえ、それ以上でした。それ程の甘さなのに、飽きを感じさせないのです。飲む度に、頭がポーッとし、胸はじんわり温かくなる。飲んだことはありませんが、お酒のほろ酔いに近いのではないでしょうか?
それと、コップ一杯程を飲んだだけなのに、私のお腹はいっぱいになってしまいました。
前の人間の胃袋で考えればおかしいですが、今の私の胃袋は小さいのでしょう。たぶん…。
「それにしても、美味しかったな~。また、飲みたいな~。…あ、でも他の花の蜜も気になるな。ちゃんと違う味かな?すごく美味しいかな?ふふっ、楽しみだな~」
今回の体験で、他の花への期待も高まります。まさに食欲ですね。
「……そういえば、この蜜を飲み込んだ瞬間、ピロリンって聞こえたような…」
あ…完全に忘れてました。蜜の衝撃が激しすぎて、記憶の彼方へ飛んでいました。
あの音はゲーム内でお知らせがある時に、聞いたことがあります。この世界でゲームと言えば、ステータス関係でしょう。
早速確認します。
すると、そこにはある一文が表示されていました。
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『白蜜の奇跡が解放されました』
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リンは、ビクンッと体を振るわせた