22話 出発
ルメイラの王都へ向かう方向の門の外、その少し開けた場所に5台の荷馬車がありました。
大きい荷馬車もあれば、小さい荷馬車もあります。
これが今回の護衛を依頼した人達です。
それにしても、荷馬車かぁ〜。
前世では、荷馬車なんてほとんど見なくなった物です。
それが5台も並んでいるのを見ると、さすが異世界って感じですね。
私が荷馬車を眺めていると、横で歩くベルが肩をちょんちょんと叩き、5台の内の小さい荷馬車を指差しました。
「ねぇ、リン。あれじゃない?」
ベルが指差した荷馬車には、依頼の内容に書いてあった、目印となる鉄で作られた羽飾りと商品が見えます。
そして、荷馬車の点検をする男性1名。
「あれが……私達が護衛する……」
「そう、私達の依頼主」
実は、私達はまだ依頼主と顔を合わせていません。
今回、私達が受けた依頼の条件は、『ハンターランクD,Cまたは、B以上のメンバーがいるのならEも可。上限3人まで。面接なし』というものです。
面接なしというのは、文字通りに面接をせずに雇うことで、ハンター側が依頼を受領すれば即決まりとなります。
勿論、面接ありと記載して、ハンターを吟味してから雇うこともできますが、こちらは人を選ぶ分お金が増えます。
逆に面接なしならば、条件さえ満たしているのなら、誰でも受けることができるので、人も集まりやすく、お金も少なくて済みます。ただ、受けたハンターの質が良いか悪いかは保証されませんが…。
この依頼の条件は、小規模の商人が出す典型的な依頼のようで報酬も少ないです。しかし、私達の目的は報酬ではなく、王都へ行くことなので、正に打って付けの依頼と言う訳です。
朝早くからハンターギルドで待機して、この依頼を勝ち取ってくれたベルには、感謝しないといけません。
「じゃあ、早速だけど挨拶しに行こっか」
「うん!」
私達が近付くと、男性も私達に気付き、片手を上げました。
「やあ、初めまして。君達が護衛依頼を受けてくれたハンターさんかな?」
「そうだよ。私はベル、よろしくね」
「リンです。よろしくお願いします」
「シンドだ。こちらこそ、よろしく」
シンドさんは、中肉中背でメガネを掛けた優しそうな人でした。あぁ…何か売ってそうな人だなぁ、と思える人でした。
ふと、商人という存在がどのようなステータスをしているか、気になった私はシンドさんに『鑑定』を使います。
ーーー
〜ステータス〜
名前:シンド
種族:人
性別:男
年齢:25歳
Lv:10
HP:470
MP:30
STR:50
VIT:45
INT:100
MND:45
AGI:60
〜スキル〜
交渉(Lv.4) 観察眼(Lv.6) 短剣(Lv.1) 狩猟(Lv.1) 言語理解(Lv.4)
〜称号〜
ーーー
戦うことを生業としていない人は、やっぱりステータスが低いですね。
でも、Lvが10もあるというのは、少しでも魔物と戦った経験があるということでしょうか?
いくら護衛を雇うと言っても、最低限は自分も戦えるようにしないといけないとか?
まぁ、私達の仕事は護衛です。その護衛対象が自ら戦うような事態になってはいけないので、頑張らないといけませんね!
「いやぁ~、今度のハンターさんはまじめそうで良かったよ」
私が心の中でエイ!エイ!オー!とやっていると、シンドさんが何やら言い出しました。
ベルは小首を傾げて、尋ねます。
「…と言うと?」
「あー…実はね、王都からルメイラまでの間を護衛してくれたハンターは……その…ちょっとアレだったんだよ。面接なしで依頼を出してるから、仕方が無いっちゃ、仕方が無いんだけどね…。大きなトラブルは無かったとは言え、帰りも一緒だと思うと、少し憂鬱だったんだ」
シンドさんは苦笑します。
なるほど。シンドさんは、運悪く面倒な人を引き当ててしまったようですね。
えっと…確か、王都からルメイラまでは馬車で3日です。その間、面倒な人とずっと一緒とは、大変でしょうね。
「あっ……ねぇ、シンドさん。もしかして…そのハンターって、3人組でリーダーっぽい奴の頭がつるつるだったりした?」
「おや?よくわかったね」
ベルの質問にシンドさんは少し驚いて、頷きます。
「え?ベル、何で知ってるの?」
「ん~……知ってるも何も、つい最近会ったと言うか…ほら、思い当たる奴がいるでしょ?」
「私も知ってる?」
私の疑問にベルは、私も知っていると言いますが、そんな人いましたっけ?
えっとぉ……ちょっとアレで…3人組で…リーダーの頭はつるつるで…王都から来たハンターで……。
昨日はベルと買い物をして…特に何もありませんでしたし、一昨日は…………あ…。
「あ……ゴリ…じゃなくて、ゴルラド!」
思い出しました!一昨日に私に絡んできたハンターです。
確かに、彼らならシンドさんが出会ったハンター達と合致しますね。
「あの人達…あっちこっちで迷惑かけてたんだね……」
「あはは…あの性格を考えると目に浮かぶね」
私とベルは顔を見合わせて、苦笑します。
ハンターは、良い人ばかりじゃないとは知っていますが、いざ実際に迷惑を受けた人を知ってしまうと、同じハンターとして申し訳なく思ってしまいますね。
シンドさんはそんな私達を見て、うんうんと頷きました。
「君達を見て、なんとなくだけど、何があったかはわかったよ」
「まあ、あいつらも今や再教育中だしね。良き、良き」
ベルがやれやれだぜと言うように肩をすくめます。
それを見て私とシンドさんから、くすくすと笑いが漏れました。
一頻り笑うとシンドさんは、咳払いをして、姿勢を正します。
「さて、改めて。今回の護衛依頼、よろしく頼むよ。ベルさん、リンさん」
その言葉に、私達の背筋が伸びます。
横を見ると、ベルが頷きました。
そして、返事は自然と重なります。
「「任せてね(ください)!」」
シンドさんと握手していると、後ろから声が掛かりました。
「おーい!そこのお嬢ちゃん達!話し合いするから、こっちに来てくれないか!」
私達を呼んだのは、がたいの良い男の人でした。
ベルは片手を挙げて答えます。
「わかった!今、行く!」
男の人も片手を挙げて返事します。
その周りには、他にも人がたくさんいました。服装から見て、皆さんハンターのようです。
「じゃあ、シンドさん。私達は呼ばれてるし、行ってくるね」
「あぁ、僕はこっちで待ってるよ」
「わかった。リン、行こ」
「う、うん」
私はシンドさんに会釈すると、ベルに手を引かれて、たくさんのハンターが待つ場所へ向かいます。
でも、どうして呼ばれてるのでしょう?
「ねぇねぇ、ベル。今から、何しに行くの?」
「話し合いだよ。ちょっとした作戦会議みたいなものかな。こういう合同で行う依頼は協調が大事だからね」
「なるほど〜」
確かに、王都へ戻るのはシンドさんだけではありません。
いくつかの商人が一斉に依頼を出し、護衛が集まり次第、一斉に出発します。
今回の荷馬車は5台。つまり、私達の他に4組のパーティーがいるということです。
一緒に行動するのですから、話し合いは必要でしょう。
私達が着いた時には、4組に分かれて人が集まっていました。
どうやら、私達が最後だったようですね。
全員揃ったのを確認すると、1人の男の人が前に出ました。
先程、私達を呼んでいた人です。
「初めまして、シューゲルだ。早速で悪いが、ランクを教えてはくれないだろうか?」
私達の方を見て、尋ねます。
ベルは気にしたようでもなく、答えました。
私もそれに続きます。
「Bだよ」
「Eです…」
それを聞いたシューゲルさんは顎に手を当てて、う〜むと唸りました。
「君はBかぁ……今回のメンバーで一番高いランクはBなんだが、3人いてなぁ。リーダーのことなんだが…」
「あ、リーダーに関しては任せるよ。指揮とか、性に合わないから」
ベルはシューゲルさんの言葉を最後まで聞かずに答えました。
シューゲルさんは顔をほころばせます。
「そうか!そう言ってくれると、ありがたい」
私はベルとシューゲルさんの遣り取りがわからず、ベルに尋ねます。
「ごめん、ベル。今のは、どういう遣り取りなの?」
「今回みたいな複数のパーティーで行動する時はね、リーダーを決めるの。そして、リーダーは基本的にはランクが一番高い人、つまり一番経験がある人がなる。でも、一番高いランクの人が1人じゃなかった場合、その人達の我が強かったら、揉めるんだよね〜」
「その通りだ。普通は行きと帰りのメンバーは同じだから、最初に決めたリーダーが続行するんだが…今回は1組入れ替わったからな。新しく入ったパーティーと揉めたら、どうしようかと思っていたんだ」
「す、すみません…教えてもらって……」
シューゲルさんも説明してくれました。
うぅ…Eランクだからって知らなさ過ぎですね、私……。ベルだけでなく、他の人にも手間を掛けさせてしまいました……。
私はぺこりと礼をすると、ベルの後ろに引っ込みます。
それを見て、シューゲルさんは微笑みましたが、咳払いをすると、今度は全員に向かって話し始めました。
「では、改めて自己紹介を。俺の名前はシューゲル。今回のリーダーを任せてもらうことになった。短い間だが、よろしく頼む!」
シューゲルさんは、大きな声で、活力に満ちているような人でした。
シンドさんは商人のステータスが気になって鑑定しましたが、シューゲルさんもシューゲルさんで気になりますね。
何せ、ベルと同じBランクハンターです。どのくらい、強いのでしょうか?
私はベルの後ろから、ちらっとシューゲルさんに『鑑定』を使いました。
ーーー
〜ステータス〜
名前:シューゲル
種族:人
性別:男
年齢:27歳
Lv:90
HP:8067
MP:4003
STR:5710
VIT:5051
INT:1660
MND:2030
AGI:1889
〜スキル〜
狩猟(Lv.8) 大剣(Lv.7);『斬鉄』 指揮(Lv.3) 危機察知(Lv.5) 頑強(Lv.5) 拳術(Lv.3) 強化魔法(Lv.3);『肉体強化』,『治癒能力増加』 言語理解(Lv.3) 毒耐性(Lv.1) 隠蔽(Lv.2)
〜称号〜
ーーー
ほぇ〜、やっぱりすごいです。
ベルはスピードタイプですが、シューゲルさんはパワータイプのようですね。
それに、『大剣』 のスキルには…『斬鉄』。これは、技なのでしょうか?
私の『蜜の奇跡』の中の『白蜜の奇跡』と同じような感じでしょうか?
私がふむふむとしていると、シューゲルさんは言いました。
「じゃあ、最初のリーダー命令と言うことで。初めましての仲間もいることだし、全員自己紹介をしようか!」
「えっと……リンです。まだ、Eランクなのでわからないことも多いですが、その……よ、よろしくお願いします!」
あの後、私達は順番に自己紹介をしていきました。
そして、私の番が今終わったところです。私が一番最後でした。
周りからはパチパチと拍手が送られます。
うぅ〜…あの笑みは何でしょうか!?新人後輩を見る優しい笑みでしょうか?それとも、プ〜クスクスというような笑みでしょうか?前者なら、まだ嬉しいです……。
私の不安が通じたのか、ベルが私の頭をポンポンと撫でました。
ベルの顔を見ると、うんうんと頷いています。ただ、目がちょっと笑ってます。
……ベルぅ〜。慰めてくれるのは、嬉しいけど…絶対、善意100%じゃないでしょ〜…。
私がむぅと頰を膨らませていると、荷馬車の方から声が掛かりました。
「ハンターさん達!こっちの用意はできたから、よろしく頼むよ!」
それを聞いて、シューゲルさんはパンッと手を打ち鳴らします。
私だけでなく、他の皆さんが真剣な顔になりました。
「よし!商人さんらも準備できたみたいだ。特に作戦なんてものはないが…重要なことは1つ!助け合うこと!わかったか?」
「「「了解!!!」」」
声が重なります。
さあ、いよいよ初めての護衛依頼が始まるのです。
それを考えると、今更ながら緊張してきました。
思わず、自分の拳を握りしめてしまいます。
私は自分を落ち着かせようとします。
すると、私の腕にそっと手が添えられました。
ベルです。
今度は、真剣な目でした。
私を見ています。私もベルの目を見ました。
目と目を合わせていると、不思議と緊張が解れてきました。
1秒、2秒……気が付けば、すっかり緊張は解けていました。
ベルはにこっと微笑みます。
「……あっ」
私はさっとベルから顔を背けます。
うぅぅ……私、いつまでベルと見詰め合ってたんだろ…!?……恥ずかしいぃ……。
何故だか、顔が熱いです。
ベルの方を向くのが恥ずかしいです…。
しかし、これだけは言わないといけません。
「……ベル」
「なぁに?」
「……ありがと」
「うん♪」
こうして、護衛依頼の1日目が始まりました。
リン「…よ、よろしくお願いします!」
ハンターA「(可愛い)」
ハンターB「(昔の自分を見ているようだ……)」
ハンターC「(よっしゃあ!ゴリラが美少女に変わったぜ!)」




