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蝶は蜜を求めて異世界に舞う  作者: おりょ?
第3章 かつて不可能だった青
23/25

22話 出発

 ルメイラの王都へ向かう方向の門の外、その少し開けた場所に5台の荷馬車がありました。

 大きい荷馬車もあれば、小さい荷馬車もあります。

 これが今回の護衛を依頼した人達です。


 それにしても、荷馬車かぁ〜。

 前世では、荷馬車なんてほとんど見なくなった物です。

 それが5台も並んでいるのを見ると、さすが異世界って感じですね。


 私が荷馬車を眺めていると、横で歩くベルが肩をちょんちょんと叩き、5台の内の小さい荷馬車を指差しました。


 「ねぇ、リン。あれじゃない?」


 ベルが指差した荷馬車には、依頼の内容に書いてあった、目印となる鉄で作られた羽飾りと商品が見えます。

 そして、荷馬車の点検をする男性1名。


 「あれが……私達が護衛する……」

 「そう、私達の依頼主」


 実は、私達はまだ依頼主と顔を合わせていません。

 今回、私達が受けた依頼の条件は、『ハンターランクD,Cまたは、B以上のメンバーがいるのならEも可。上限3人まで。面接なし』というものです。

 面接なしというのは、文字通りに面接をせずに雇うことで、ハンター側が依頼を受領すれば即決まりとなります。

 勿論、面接ありと記載して、ハンターを吟味してから雇うこともできますが、こちらは人を選ぶ分お金が増えます。

 逆に面接なしならば、条件さえ満たしているのなら、誰でも受けることができるので、人も集まりやすく、お金も少なくて済みます。ただ、受けたハンターの質が良いか悪いかは保証されませんが…。


 この依頼の条件は、小規模の商人が出す典型的な依頼のようで報酬も少ないです。しかし、私達の目的は報酬ではなく、王都へ行くことなので、正に打って付けの依頼と言う訳です。

 朝早くからハンターギルドで待機して、この依頼を勝ち取ってくれたベルには、感謝しないといけません。


 「じゃあ、早速だけど挨拶しに行こっか」

 「うん!」


 私達が近付くと、男性も私達に気付き、片手を上げました。


 「やあ、初めまして。君達が護衛依頼を受けてくれたハンターさんかな?」

 「そうだよ。私はベル、よろしくね」

 「リンです。よろしくお願いします」

 「シンドだ。こちらこそ、よろしく」


 シンドさんは、中肉中背でメガネを掛けた優しそうな人でした。あぁ…何か売ってそうな人だなぁ、と思える人でした。

 ふと、商人という存在がどのようなステータスをしているか、気になった私はシンドさんに『鑑定』を使います。


ーーー

 〜ステータス〜

 名前:シンド

 種族:人

 性別:男

 年齢:25歳

 Lv:10

 HP:470

 MP:30

 STR:50

 VIT:45

 INT:100

 MND:45

 AGI:60

 〜スキル〜

 交渉(Lv.4) 観察眼(Lv.6) 短剣(Lv.1) 狩猟(Lv.1) 言語理解(Lv.4)

 〜称号〜

 

ーーー


 戦うことを生業としていない人は、やっぱりステータスが低いですね。

 でも、Lvが10もあるというのは、少しでも魔物と戦った経験があるということでしょうか?

 いくら護衛を雇うと言っても、最低限は自分も戦えるようにしないといけないとか?

 まぁ、私達の仕事は護衛です。その護衛対象が自ら戦うような事態になってはいけないので、頑張らないといけませんね!


 「いやぁ~、今度のハンターさんはまじめそうで良かったよ」


 私が心の中でエイ!エイ!オー!とやっていると、シンドさんが何やら言い出しました。

 ベルは小首を傾げて、尋ねます。


 「…と言うと?」

 「あー…実はね、王都からルメイラまでの間を護衛してくれたハンターは……その…ちょっとアレだったんだよ。面接なしで依頼を出してるから、仕方が無いっちゃ、仕方が無いんだけどね…。大きなトラブルは無かったとは言え、帰りも一緒だと思うと、少し憂鬱だったんだ」


 シンドさんは苦笑します。

 なるほど。シンドさんは、運悪く面倒な人を引き当ててしまったようですね。

 えっと…確か、王都からルメイラまでは馬車で3日です。その間、面倒な人とずっと一緒とは、大変でしょうね。


 「あっ……ねぇ、シンドさん。もしかして…そのハンターって、3人組でリーダーっぽい奴の頭がつるつるだったりした?」

 「おや?よくわかったね」


 ベルの質問にシンドさんは少し驚いて、頷きます。


 「え?ベル、何で知ってるの?」

 「ん~……知ってるも何も、つい最近会ったと言うか…ほら、思い当たる奴がいるでしょ?」

 「私も知ってる?」


 私の疑問にベルは、私も知っていると言いますが、そんな人いましたっけ?

 えっとぉ……ちょっとアレで…3人組で…リーダーの頭はつるつるで…王都から来たハンターで……。

 昨日はベルと買い物をして…特に何もありませんでしたし、一昨日は…………あ…。


 「あ……ゴリ…じゃなくて、ゴルラド!」


 思い出しました!一昨日に私に絡んできたハンターです。

 確かに、彼らならシンドさんが出会ったハンター達と合致しますね。


 「あの人達…あっちこっちで迷惑かけてたんだね……」

 「あはは…あの性格を考えると目に浮かぶね」


 私とベルは顔を見合わせて、苦笑します。

 ハンターは、良い人ばかりじゃないとは知っていますが、いざ実際に迷惑を受けた人を知ってしまうと、同じハンターとして申し訳なく思ってしまいますね。

 シンドさんはそんな私達を見て、うんうんと頷きました。


 「君達を見て、なんとなくだけど、何があったかはわかったよ」

 「まあ、あいつらも今や再教育中だしね。良き、良き」


 ベルがやれやれだぜと言うように肩をすくめます。

 それを見て私とシンドさんから、くすくすと笑いが漏れました。


 一頻り笑うとシンドさんは、咳払いをして、姿勢を正します。


 「さて、改めて。今回の護衛依頼、よろしく頼むよ。ベルさん、リンさん」


 その言葉に、私達の背筋が伸びます。

 横を見ると、ベルが頷きました。

 そして、返事は自然と重なります。


 「「任せてね(ください)!」」



 シンドさんと握手していると、後ろから声が掛かりました。


 「おーい!そこのお嬢ちゃん達!話し合いするから、こっちに来てくれないか!」


 私達を呼んだのは、がたいの良い男の人でした。

 ベルは片手を挙げて答えます。


 「わかった!今、行く!」


 男の人も片手を挙げて返事します。

 その周りには、他にも人がたくさんいました。服装から見て、皆さんハンターのようです。


 「じゃあ、シンドさん。私達は呼ばれてるし、行ってくるね」

 「あぁ、僕はこっちで待ってるよ」

 「わかった。リン、行こ」

 「う、うん」


 私はシンドさんに会釈すると、ベルに手を引かれて、たくさんのハンターが待つ場所へ向かいます。

 でも、どうして呼ばれてるのでしょう?


 「ねぇねぇ、ベル。今から、何しに行くの?」

 「話し合いだよ。ちょっとした作戦会議みたいなものかな。こういう合同で行う依頼は協調が大事だからね」

 「なるほど〜」


 確かに、王都へ戻るのはシンドさんだけではありません。

 いくつかの商人が一斉に依頼を出し、護衛が集まり次第、一斉に出発します。

 今回の荷馬車は5台。つまり、私達の他に4組のパーティーがいるということです。

 一緒に行動するのですから、話し合いは必要でしょう。



 私達が着いた時には、4組に分かれて人が集まっていました。

 どうやら、私達が最後だったようですね。


 全員揃ったのを確認すると、1人の男の人が前に出ました。

 先程、私達を呼んでいた人です。


 「初めまして、シューゲルだ。早速で悪いが、ランクを教えてはくれないだろうか?」


 私達の方を見て、尋ねます。

 ベルは気にしたようでもなく、答えました。

 私もそれに続きます。


 「Bだよ」

 「Eです…」


 それを聞いたシューゲルさんは顎に手を当てて、う〜むと唸りました。


 「君はBかぁ……今回のメンバーで一番高いランクはBなんだが、3人いてなぁ。リーダーのことなんだが…」

 「あ、リーダーに関しては任せるよ。指揮とか、性に合わないから」


 ベルはシューゲルさんの言葉を最後まで聞かずに答えました。

 シューゲルさんは顔をほころばせます。


 「そうか!そう言ってくれると、ありがたい」


 私はベルとシューゲルさんの遣り取りがわからず、ベルに尋ねます。


 「ごめん、ベル。今のは、どういう遣り取りなの?」

 「今回みたいな複数のパーティーで行動する時はね、リーダーを決めるの。そして、リーダーは基本的にはランクが一番高い人、つまり一番経験がある人がなる。でも、一番高いランクの人が1人じゃなかった場合、その人達の我が強かったら、揉めるんだよね〜」

 「その通りだ。普通は行きと帰りのメンバーは同じだから、最初に決めたリーダーが続行するんだが…今回は1組入れ替わったからな。新しく入ったパーティーと揉めたら、どうしようかと思っていたんだ」

 「す、すみません…教えてもらって……」


 シューゲルさんも説明してくれました。

 うぅ…Eランクだからって知らなさ過ぎですね、私……。ベルだけでなく、他の人にも手間を掛けさせてしまいました……。

 私はぺこりと礼をすると、ベルの後ろに引っ込みます。


 それを見て、シューゲルさんは微笑みましたが、咳払いをすると、今度は全員に向かって話し始めました。


 「では、改めて自己紹介を。俺の名前はシューゲル。今回のリーダーを任せてもらうことになった。短い間だが、よろしく頼む!」


 シューゲルさんは、大きな声で、活力に満ちているような人でした。

 シンドさんは商人のステータスが気になって鑑定しましたが、シューゲルさんもシューゲルさんで気になりますね。

 何せ、ベルと同じBランクハンターです。どのくらい、強いのでしょうか?

 私はベルの後ろから、ちらっとシューゲルさんに『鑑定』を使いました。


ーーー

 〜ステータス〜

 名前:シューゲル

 種族:人

 性別:男

 年齢:27歳

 Lv:90

 HP:8067

 MP:4003

 STR:5710

 VIT:5051

 INT:1660

 MND:2030

 AGI:1889

 〜スキル〜

 狩猟(Lv.8) 大剣(Lv.7);『斬鉄』 指揮(Lv.3) 危機察知(Lv.5) 頑強(Lv.5) 拳術(Lv.3) 強化魔法(Lv.3);『肉体強化』,『治癒能力増加』 言語理解(Lv.3) 毒耐性(Lv.1) 隠蔽(Lv.2)

 〜称号〜


ーーー


 ほぇ〜、やっぱりすごいです。

 ベルはスピードタイプですが、シューゲルさんはパワータイプのようですね。

 それに、『大剣』 のスキルには…『斬鉄』。これは、技なのでしょうか?

 私の『蜜の奇跡』の中の『白蜜の奇跡』と同じような感じでしょうか?


 私がふむふむとしていると、シューゲルさんは言いました。


 「じゃあ、最初のリーダー命令と言うことで。初めましての仲間もいることだし、全員自己紹介をしようか!」





 「えっと……リンです。まだ、Eランクなのでわからないことも多いですが、その……よ、よろしくお願いします!」


 あの後、私達は順番に自己紹介をしていきました。

 そして、私の番が今終わったところです。私が一番最後でした。

 周りからはパチパチと拍手が送られます。

 うぅ〜…あの笑みは何でしょうか!?新人後輩を見る優しい笑みでしょうか?それとも、プ〜クスクスというような笑みでしょうか?前者なら、まだ嬉しいです……。


 私の不安が通じたのか、ベルが私の頭をポンポンと撫でました。

 ベルの顔を見ると、うんうんと頷いています。ただ、目がちょっと笑ってます。

 ……ベルぅ〜。慰めてくれるのは、嬉しいけど…絶対、善意100%じゃないでしょ〜…。


 私がむぅと頰を膨らませていると、荷馬車の方から声が掛かりました。


 「ハンターさん達!こっちの用意はできたから、よろしく頼むよ!」


 それを聞いて、シューゲルさんはパンッと手を打ち鳴らします。

 私だけでなく、他の皆さんが真剣な顔になりました。


 「よし!商人さんらも準備できたみたいだ。特に作戦なんてものはないが…重要なことは1つ!助け合うこと!わかったか?」

 「「「了解!!!」」」


 声が重なります。


 さあ、いよいよ初めての護衛依頼が始まるのです。

 それを考えると、今更ながら緊張してきました。

 思わず、自分の拳を握りしめてしまいます。

 私は自分を落ち着かせようとします。

 すると、私の腕にそっと手が添えられました。


 ベルです。

 今度は、真剣な目でした。

 私を見ています。私もベルの目を見ました。

 目と目を合わせていると、不思議と緊張が解れてきました。


 1秒、2秒……気が付けば、すっかり緊張は解けていました。

 ベルはにこっと微笑みます。


 「……あっ」


 私はさっとベルから顔を背けます。

 うぅぅ……私、いつまでベルと見詰め合ってたんだろ…!?……恥ずかしいぃ……。


 何故だか、顔が熱いです。

 ベルの方を向くのが恥ずかしいです…。


 しかし、これだけは言わないといけません。


 「……ベル」

 「なぁに?」

 「……ありがと」

 「うん♪」



 こうして、護衛依頼の1日目が始まりました。

リン「…よ、よろしくお願いします!」


ハンターA「(可愛い)」

ハンターB「(昔の自分を見ているようだ……)」

ハンターC「(よっしゃあ!ゴリラが美少女に変わったぜ!)」

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