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蝶は蜜を求めて異世界に舞う  作者: おりょ?
第2章 出会いの集う街
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19話 どこにでも湧く、嫌な奴[2]

 「お待たせ、リン」


 水鏡に雫を垂らすが如く、ベルの声が響きます。

 私も含め、皆が動きを止めていました。

 誰もが私に振るわれると思った凶拳を掴み止めたベルの登場には、それだけの力がありました。


 「リン、怪我してない?」

 「えっ…あ……うん。大丈夫だよ…」

 「そっか。良かった〜」


 その中、ベルは私に聞いてきました。ベルの登場にはとても驚きましたが、私は大丈夫だと伝えます。

 ベルは空いている方の手で、ほっと胸を撫で下ろしました。


 「おいっ!!テメェ…何が『良かった〜』だ!離しやがれ!!!」


 ここで、ようやくゴルラドは動き出しました。

 自分の拳が、突然現れた少女に片手で止められたという現実をやっと認識できたのか、顔を赤くし激昂します。

 腕に力を入れ、ベルの手を振り解こうと試みていますが、全く成功する気配はありません。


 「クソ!何で、離れねぇんだ!!!」


 叫ぶゴルラド。

 それをベルは冷めた目で眺めています。


 ふと、ベルはまた私を振り返りました。


 「そうだ。そもそも、リンは何でこいつに手を上げられそうになってたの?」


 ベルは事の経緯を尋ねました。

 ベルが駆け付けてくれたのは、事態が既に動き始めた後。ハンターギルドに来てみれば、何やら物騒なことになっていたのですから、驚いたことでしょう。


 「ベル、あのね。わた…」

 「へっ!こいつがなめた真似をしただけだよ!」


 私の言葉を遮るのは、ゴルラドの声。

 ベルは小首を傾げます。


 「なめた真似?」

 「そうさ!俺が親切心でアドバイスしてやろうとしたら、こいつ…人のことをバカにしやがって!そんな奴にはなぁ、言葉で言っても意味ねぇんだよ!だから、目上の者として教育してやろうとしたんだよ!Eランク風情が調子に乗るなってな!」

 「なっ?!そ、それは?!」

 「ふ〜ん…」


 ゴルラドのあまりの主張に目を見張りました。

 私の態度が悪いと言っても、あんな絡まれ方をされたら仕方がないでしょ!しかも、言うに事欠いて『親切心』や『教育』だなんて…!

 ベルは自分は全く悪くないと言うような顔をしたゴルラドと、ゴルラドを睨み付けている私を交互に見比べると、ジト目に変わりました。


 「あー……なんとなく察したよ、何があったのか」


 ベルはゴルラドの方へ顔を向けます。


 「つまり、あんたの主張は自分は悪くない。反抗した生意気なリンが悪いと?」

 「お、おぉ。わかってんじゃねぇか。へへっ…だ、だから、とっとと腕を離しやがれってんだ」


 ゴルラドはニヤリと笑います。

 しかし、それは一瞬のことでした。


 ゴルラドを見るベルの目には、軽蔑が浮かんでいました。

 ベルは静かに言います。


 「どんなこと言ったか知らないけど…あんたは、自分より格下なら、反抗するなって言ってんだよね?そう言うことだよね?」

 「…そ、それが…どうしたって言うんだよ…?」


 「じゃあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「は?…なっ?!」


 一瞬のことでした。

 目に映ったのは、頭と足の位置が逆さまになった男の姿。もちろん、ゴルラドです。

 ベルは掴んだゴルラドの腕を捻り、その場で横回転させたのです。


 「グウェッ…!」


 ゴンッという音と共に、カエルが潰されたような声を出して、体を打ち付けました。

 受け身も取れない状態だったので、すごく痛そうです。


 さらに、ベルはゴルラドに馬乗りになり、肩と頭を押さえ込みます。

 ゴルラドは引き剥がそうとじたばたしますが、ベルの力の方が上です。


 「クソッ!クソッ!!」

 「はいは〜い。暴れない、暴れない」

 「お、おい!お前ら!突っ立ってないで、早く俺を助けろ!」


 そ、そう言えば、ゴルラドには仲間がいたんだった!

 いくら、ベルでも3人掛かりは危険です。

 守ってもらってばっかりじゃダメだと思い、一歩踏み出そうとしましたが、それは無駄に終わりました。


 「……あっ…」

 「…まあ、これぐらいはしねぇと面目丸潰れだからな」


 2人の男は、既にバルトンさんと他のハンターに取り押さえられてました。全く気付きませんでした…。

 そんな仲間の現状を見て、ゴルラドは目を真ん丸としています。


 「ありゃりゃ。あんたの仲間はダウン中のようだよ」

 「…………」

 「おい、ベル。お前はこれ以上、手を出すなよ。こいつと一緒になっちまう」

 「わかってるよ、も〜。ちょ〜っと、常識のない脳筋に教育してやろうと思っただけじゃん」

 「なら、良いが……」


 バルトンさんはゴルラドを睨みます。


 「おい、お前。どう落とし前つける気だ?」

 「な、なんだよ!ぁあ!?」

 「この状況でも威勢がいいなぁ。…はぁ、いくらハンターの諍いは当事者解決が基本とは言え、自分より下位のランクのハンターに対する強引な行為は頂けないな。しかも、暴行未遂ときた」

 「ぼ、暴行はしてねぇじゃねぇか…」

 「私が止めなかったら、リンを殴ってた」

 「…だそうだ」

 「……………」

 「Cランクハンター様なら、当然ハンターのルール…わかってるよな?」


 ゴルラドは歯を食いしばった後、ガクリと力を抜きました。

 ベルに力で押さえられ、仲間も拘束、バルトンさんの追及により、遂に観念したようです。


 バルトンさんが合図を出すと、受付嬢の人が縄を持って来ました。そして、ゴルラドと仲間は縛られて、ギルドの奥へと連れて行かれました。

 こうして、この1件はあっさりと幕を引いていきました。



 「…あ、あれ?」

 ふっと足の力が抜けて、その場にへたり込んでしまいます。


 「り、リン?!大丈夫?」

 「ベル…うん。なんか、ほっとしたら力が抜けちゃって…えへへ……」


 ベルが駆け寄って来て、助け起こしてくれます。


 体の力が抜けたのは、安心したからでしょう。こんな体験は初めてでした。

 この世界に来てから、魔物の敵意を受けたことはあっても、同じ人間…厳密に言えば私は魔物ですが、自分とほとんど変わらない姿をしたものから悪意を受けるのは、また違う怖さがありました。

 今でも、少し心臓はドキドキしています。


 「ありがとう、ベル。それと、ごめんね。迷惑掛けて……自分でなんとかしなくちゃいけないのにさ…」

 「うん、どういたしまして。でも、謝らなくて良いよ、リン」

 「あぁ、そうだ。謝らなくて良い。謝るのは、むしろこっちだ」

 「バルトンさん?」


 私とベルの元に来たのは、ゴルラドを連れて行ったバルトンさんです。

 でも、『謝るのは、むしろこっちだ』とはどういうことでしょうか?


 私が考えていると、バルトンさんはバッと頭を下げました。


 「すまなかった!」

 「え?!ちょっ、バルトンさん?!どうして、謝るんですか?!」


 バルトンさんは顔を顰めたまま話します。


 「…君が絡まれている時に間に入らなかったからだ」

 「でも、ハンター同士の諍いは当事者で解決するのが基本なのですよね?」

 「そうだ。だから、君があいつに絡まれた時も動かなかった。と言うより、良い教材になると思った」

 「教材ですか?」

 「あぁ、君はまだ初心者だ。ハンター相手の揉め事も経験しておくべきだと思ったんだ」


 バルトンさんは首を横に振ります。


 「ただ、あの男があそこまで短気だとは思わなかった。判断ミスだ。何かあれば、止めに入れば良いと考えていながら、結局君を助けたのはベルだからな」

 「バルトンさん…」

 「すまなかった」


 もう一度、バルトンさんは頭を下げます。


 「…わかりました。謝罪を受け入れます。だから、顔を上げてください。ね?」

 「ありがとう」


 バルトンさん一瞬躊躇った後、顔を上げます。


 「はい。私も、今度は自分1人でも対処できるように頑張ります!」


 私がバルトンさんの目を見て言うと、バルトンさんはニカッと笑い、ギルドの奥へと戻って行きました。

 どうやら、この後も連れて行った人達とお話をするそうです。


 その後ろ姿を見送った後、ふと思い出しました。

 「あっ、そう言えば、バルトンさんに聞くの忘れてた…」

 「ん?聞くって?」

 「あのゴルラド達に会った時ね、見ない顔だなーって思ったんだ。もう1週間以上ここに来てるけど、一度も見掛けたこともないからさ。これって、偶然出会う機会がなかっただけかな?」

 「あー、なるほどね。確かに1週間もあったら、あんな素行の悪い奴がいたら、話ぐらいは聞くよね。普通は」

 「…うん」


 今まで、ゴルラドもその仲間も見たことありませんでした。

 このルメイラでは、ハンターの悪い噂はありませんでした。私の知っている限りでは。

 ゴルラドのような者がいたら、問題を何かしら起こしていると思います。


 私がう〜んと不思議がっていると、同じように考えていたベルはポンッと手を打ちました。


 「あぁ、そういうことか〜」

 「え?どういうこと、ベル?」

 「簡単な話だよ、リン。あいつらはルメイラのハンターじゃないんだよ。私も見たことないし。それに…」

 「それに?」


 ベルは人差し指を立てて、言います。


 「王都から行商人がたくさん来たからだよ」

 「行商人?」

 「うん、行商人。朝、リンと別れてポーションを買い足しに行った時、大通りがやけに賑わっていたんだ。聞いたら、王都から来たって。たぶん、あいつらはその護衛依頼を受けて、ルメイラに来たんだと思う」

 「なるほど!」


 ベルの説明で、納得いきました。

 それなら、私やベルの知らない人がここにいる理由もわかります。


 疑問が1つ晴れてスッキリとしたら、今度は別の疑問が生まれました。


 「ねぇ、ベル」

 「今度はどうしたの?」

 「王都って?」


 私の言葉を聞くと、ベルはポカンとした顔をします。

 私は慌てて言葉を付け足します。


 「えっと…王都の意味はわかってるよ。国の中心だよね」

 「え、まあ、そうだよね」

 「私が聞きたいのは、ここの王都の存在自体と言うか…」

 「……存在?………嘘?!リン、この国の王都を知らないの?!」

 「うん……と言うか、この国の名前自体も知らないと言うか……えへへ〜」

 「えへへ〜…じゃない!リンは、一体どこの未開の地から来たって言うの?!」


 ベルは私の肩を掴んで、揺さ振ります。

 ごめんなさい!未開の地と言うか、そもそも生まれは違う世界です!

 なんて、言えないよ!!


 ベルは顔を私の顔に近づけると、宣言します。


 「リン。今日は、一般常識について教えようと思います!」

 「…は、はい……よろしく…お願いしますぅ………」


 今日の予定が決定された時でした。

悪い子には、バルトンによる☆オシオキ☆と再教育が待っています

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