17話 胃袋の中にブラックホールがあるかも…
「………」
「ベルと一緒に行動するようになってから、もう1週間かぁ〜」
ベルとパーティーを組んでから、早7日。ベルと共に受けた、初めての討伐依頼から6日経ちました。
こっちの世界でも、1週間は7日間なんですね。
あのラプター討伐を皮切りに、討伐系の依頼を私達は受注していきました。
1日に1つだけですが…。急いで、Lvを上げている訳でもありませんしね。
ベルの助けもあって、特に危険はありませんでした。結局、一番緊張したのは最初のラプターだけでした。
今日までの討伐で、Lvも順調に上がっていき、現在はLv.56となっています。やっと、『転生者』の称号の効果を実感できています。
今は何をしているかと言うと、私とベルは『ゆりかご亭』の1階の食堂にて、朝食の真っ最中です。
「ねぇ、ベル〜。今日はどうする?この後はとりあえず、ギルドに行く?」
「………」
3日前からですね。一緒に朝食を摂ることになったのは。
ハンターギルドに集合してから、その日の予定を決めるよりかも、朝食を食べながら一緒に決めた方が得だと考えたからです。
これにはベルも賛成してくれました。『ゆりかご亭』の料理はとても美味しいそうなので、断る理由もなかったそうです。
そして、今日もベルと予定を話し合おうと思っていたのですが…。
「…あの〜、ベル?ベルさん?」
「………」
「…ど、どうしたの?私の顔に何か付いてる?」
何故か、ベルはじーっと私を見ています。
私…何かしちゃったかな?
やがて、ベルはフォークを置き、口を開きました。
「……リン…。ずっと思ってたんだけどさ…」
「な、何…?」
ゴクリッ。思わず生唾を飲み込みます。
「リンって…………少食過ぎだよね?」
「………?」
うむ…。聞き間違いかな?
「えっと〜、今、少食って言った?」
「うん。言った」
どうやら、聞き間違いではないようですね。
「あの〜、ベル?突然、何を言い…」
「だって、心配になるんだもん!いっつも、いっつも、いっつも!」
「ひえぇっ?!」
バンッとテーブルを叩き、立ち上がるベル。
そして、私…ではなく、私の持つ果実ジュースの入ったグラスを指差します。
「最近、リンと一緒に食事するようになったからわかったけど…朝はジュース1杯。昼は瓶に入った飲み物と現地採取した木の実を数粒。夜はジュースと一口サイズのパン。一回だけなら、食欲ないだけかと思ったけど…それを何日も続けられたら、そりゃあ心配にもなるよ!」
「なっ?!…そ、それは……」
つい、目を逸らしてしまいます。
突然、何を言い出したかと思えば、私の食生活について。
いつか言われるだろうなぁ〜と思っていましたが、まさかこのタイミングとは…!
だって、本当に蜜…と言うか飲み物だけで充分なんだもん…!なんて、言えませんよ!
「で、でも…ほら!一応、ちゃんとパンとかも食べてるじゃん。ね?」
「『ね?』じゃない!普通の人…ううん。普通の女の子でも、もっと食べるよ!それに、今『一応』って言ったよね?『一応』って!」
くっ!私としたことが、ベルに追求材料を与えてしまった…!
あくまで、ちょっとは食べてますよアピールしていましたが、効果がなかったようです。
だって、味がしないし、腹にも貯まらない物を食べても意味ないじゃないですか!
ここ数日、液体以外の物を食べて気がついたことがあります。
初めて固体の食べ物を食べた時、お腹が膨れないなぁ〜と感じていました。
その後も、固体の食べ物を食べる機会がありましたが、やはりお腹が膨れる気配はありませんでした。しかも、排泄もされないのです!
そして、ある日のこと…正確にはラプターの余った肉を処理している時のことですが、私は気がついたのです。
肉を食べた瞬間、自分のMPが少し回復するのを。
最初は、見間違いかな?と思いましたが、やはり咀嚼して飲み込んだ瞬間にMPが回復していました。
これは予想ですが、液体と違って固体を摂取した場合、そのままMPへ変換されるのだと思います。
種族的な体質なのか、それとも別の原因なのか不明ですが、この予想が正しければ、お腹が膨れない理由もわかります。
「べ、別に食べられない訳ではないけど……」
「けど?」
うがぁ!どうしよう!ベルを納得させられる言い訳なんて思いつかない!
だって、MPが回復するとはいえ、味がしない物なんてわざわざ食べたくないじゃないですか!
なので、ここ最近は蜜ばっかりで食事を済ませていましたが…ベルを心配させてしまうとは……。
でも、このことを言っても、はぁ?ってなるだけでしょうし…。
う〜………よし!こうなったら、勢いでいこう!勢いで!
「ほ、ほら!人には人の適した量があるって言うじゃん!」
「まぁ、それはそうだけど…」
ベルはまだ納得できていないようですが、仕方ないでしょう。だって、適した量と言っても、限度がありますから。
ですが、退いてはいけません!もっと、押し込まなくては!
「そういうものなの!ベルにはベルの適した量。私には私の適した量。それが偶然、私は超超少なめだったっていうだけ!」
「…むぅ〜」
「……うぐっ」
ベルはじとーっと私を見ます。
ま、負けてはなりません!もう少しです!
「そ、それに普通の量じゃないって言うなら、ベルだってそうじゃん!」
「え?私?」
突然、矛先が自分の方へ向いたので、ベルは目を瞬かせます。
「私は超少なくて心配なら、ベルは超多くて心配だよ!」
「…んな!?」
私はベルの目の前に置かれた物を指差します。
それは、5枚も積み重なった大皿でした。
そうです。ベルは朝食の時点で5人前は平らげているのです。
「私は心配だよ。そんなに食べてベルのお腹が破裂しないか…」
「な、な、リン!私のことは関係ないでしょ!話題をすり替えるな!」
くっ!失敗したか!
「こら!失敗したか…みたいな顔をするんじゃない!」
「…ぐぅぅ……」
「本当にまったく……」
ぷくーっとベルは頬を膨らませた後、シュッと真剣な顔に戻し、私を見ます。
「リン。本当に大丈夫なの?満足に食事を食べられないぐらい、具合が悪かったりしない?」
その顔、その声からは、嘘偽りなく私を心配してくれていることがわかりました。
さすがの私でも、それぐらいは気づきます。
「私は…大丈夫。大丈夫だよ、ベル」
なので、顔を上げ、ベルの目を見て言います。
顔を俯けながら言っても、説得力などありませんから。
「本当に?本当に無理してない?」
「うん。無理なんかしてないよ。心配してくれて、ありがとう」
ベルは10秒程、しっかりと私の目を見ます。
そして、ふぅ〜と息を吐くと、席に座りました。
「わかったよ、リン。大丈夫って言うなら、それを信じる」
「!ありがとう、ベル!」
良かったぁ!信じてもらえた!
私がほっと胸を撫で下ろしていると、ベルはやれやれと苦笑します。
そして、もう一度、真剣な顔をして私に言いました。
「でも、リン。もしも、本当に体調が悪くなってたりしたら、ちゃんと言ってね?」
「もちろんだよ!その時は、無理なんてせずにベルを頼るから」
私はベルに片手を突き出し、小指を出します。
正直、この世界にも同じ風習があるかわかりませんでしたが、これを見て、ベルも小指を出してくれました。どうやら、あるみたいですね。
私とベルは、小指を絡ませます。
「「約束!」」
そして、お互いの顔を見ていると、なぜか自然と笑みが溢れてきました。
…この秘密も、いつか打ち明けれたらいいな。
リン「ところで、ベル。…まだ、食べるの?」
ベル「もちろん!だって、まだお腹一杯じゃないもん!」
リン「(ベルの食べっぷりを見てるだけでも、お腹が膨れるよ…)」(目を逸らす)
ベル「???」




