16話 ハンター(仲間ができて、狩りもする)生活
「ラプター?」
「そう、ラプター。それが今回の討伐対象」
今、私達はルメイラを出て、街道沿いを並んで歩いています。
歩き始めてすぐに、今日の目的である依頼の内容を聞いていなかったことを思い出して、ベルに尋ねました。
「ラプターって言うのは、トカゲが二足歩行したような魔物なの。牙も爪も鋭くて、すばしっこいし、おまけに4匹ぐらいで群れてるから、油断しないようにね」
ベルの説明から、推測すると………恐竜でしょうか?いや、もっとファンタジーっぽい何かかもしれません。
見てのお楽しみとしましょう。
それより、気になるのはラプターの注意点です。
「あの…ベル?私って、ランクEだけど…大丈夫?聞いた感じ、強そうだけど…」
「う〜ん……まあ、大丈夫でしょ」
「ベル、ちょっと適当すぎない…?」
「大丈夫、大丈夫。危なくなったら、私が守ってあげるから…たぶん」
「最後の一言が余計だよ!」
もしもの時は、障壁で何とかなるけどさぁ…。
本格的な戦闘は、あのカマキリ以来ですので、少し不安です。
私の持つスキルで攻撃的なのは、火弾,毒,麻痺毒。防御的なのは、障壁,自己修復,精神強化,帯電です。灯火と結晶化はサポート系ですね。
そう言えば、私ってまた新しい『蜜の奇跡』を解放していましたね。
いろいろとあり過ぎて、いままで忘れていましたが、あの時…蜜酒を飲んだ時に私はピロリンッの音を聞いたのを思い出しました。
「…『秘蜜の奇跡』?」
「ん?リン、何か言った?」
「ううん。なんでもないよ」
「そう?なら良いんだけど」
危ない、危ない。少し声に出してしまっていたようですね。気をつけないと。
気を取り直して、ステータスを確認しましょう。
ーーー
『秘蜜の奇跡』現在、使用可能な効果:蜜月
『蜜月』
月下の刻。赤い糸は絡み合う。輝くあなたに、私の思いは募っていく。
ーーー
は?
あっ、いえ…思わず、『は?』となってしまいました…。
流石にこれは、口に出さなくて良かったです。事前に意識しておいて正解でした。
それはそうと、何ですかこれは?
まず、『秘蜜の奇跡』です。秘密ではなくて、秘蜜。もはや、色関係ないじゃないですか…。
次に、『蜜月』。これが、一番の謎です。
説明文が意味不明ですよ。私って、Lv.6の『鑑定』を持っているはずなのに、表示された効果を理解できません。
蜜月って、ハネムーン、つまり新婚旅行の意味ですよね?もしかして、新婚旅行できる効果とか?……絶対に違いますよね…。
う〜ん…自分のスキルなのに、どんな効果かわからないなんて怖いですね。
使わないでおきましょう。『鑑定』のLvが7になったら、何かわかるかもしれませんしね。
「リン、着いたよ」
ベルの声で、私は考え事を一旦、終了させました。
「え?ここ?」
しかし、着いたと言われても、目の前に見えるのは野原です。
「街道を歩くのは、ここまでってこと。ここから、奥に見える森の中へ向かうの」
「あー、なるほど。森の方ね」
距離はおおよそ1kmぐらいでしょうか。
「そうだよ。でも、今から油断禁物だよ。街道から逸れるってことは、魔物も出始めるってこと。定期的に掃除してるけど、出る時には出るからね」
「それをハンターである私達が、見つけたら倒す」
「その通り!討伐対象じゃなくても、部位を剥ぎ取ってギルドで提示すれば、お金が貰える。まぁ、魔物に出会わないに越したことはないけどね」
これまでの私は、魔物と出会えば極力戦わないようにしていましたが、自分のLvを上げるのなら、呑気なことは言ってられません。
なんだか、緊張してきました。
ベルは、どうなんだろ?
ふと、ベルのことが気になりました。
やっぱり、ベテランですので余裕なのでしょうか?
横をちらっと見ると、ベルは紐を取り出して、髪を結んでいるところでした。
「ベルって、髪結ぶんだ」
「ん?あー、まあね。私って髪が長いでしょ。私の戦闘スタイルって、動き回るから髪が邪魔になるんだよ」
確かに、ベルのメイン武器はナイフです。腰まで伸びたベルの髪は邪魔になるでしょう。
どうするのか見ていると、ベルは髪型をポニーテールに変えました。
「こうすると、大丈夫。正直、髪なんて切っても良いんだけどね……」
「え〜!もったいないよ!」
「それ、いろんな人に言われるんだよね〜」
う〜ん。悩みどころですね。
ベルの言う通り、後衛ならともかく、前衛であるベルにとって髪は切っても良いものでしょう。ただ、同じ女の子である私としては、やっぱりもったいないという思いが出てきます。
髪は女の命とも言いますからね。
「ベルの髪は綺麗だから、切って欲しくはないけどなぁ…」
「ん〜……リンがそう言うなら、このままでいようかな」
「えっ…そんな理由で良いの?」
「うん!だって、リンは私に髪切って欲しくないんでしょ?」
「そ、そうだけど…」
「なら、切らないということで!」
そんな適当な…。
しかし、肝心のベルは気にした様子はありません。
「さあ、リン。準備は良い?緊張してる?」
ベルは、装備をチェックし終わると私に聞いてきました。
「準備はできてるけど、緊張してる…」
「素直でよろしい。何かあったら、私が助けるから」
ベルは腰に手を当て、胸をぽんっと叩きました。
「じゃあ、頼りにしてるよ。ベル」
「任せてよね!」
さあ、ラプター討伐の開始です!
私達は、森へと歩き出しました。
森に入るまでの間、幸か不幸か魔物は現れませんでした。
森に入る前に、もう一度装備の確認をします。
私はベルと違って、武器を持たないので、靴やローブの点検のみです。まあ、その靴やローブも『幻惑』で作り出した物なので、点検のまねをしてるだけですが…。
それが終わると、ベルから作戦を伝えられました。
「それじゃあ、本日の作戦を発表しま〜す!」
「パチパチパチ」
「拍手ありがとう!…っとまあ、冗談はさておき。まず、私もリンも『隠密』を使いながら地道にラプターを探す。そして、見つけたら私が叩く。リンは、その援護ね。最後に、無事に帰る。以上!」
「はい!ベル先生!注意点はありますか?」
「もちろんだとも、リンくん。前も言ったのじゃが、ラプターは基本的に4匹で行動しているので、見えていないところにも潜んでいる可能性があるのじゃ。だから、リンの援護も重要なんだよ」
「なるほど。よし!頑張る!」
「頼りにしてるよ、リン」
そして、ベルは存在感を薄くして、歩き始めました。
私も『幻惑』を使って、後に続きます。
森の中を進むこと、約5分。
前を歩いていたベルは、何かに気づくと前方に倒れている木まで小走りに近づき、その幹に隠れるようにしゃがみました。そして、私を手招きします。
私も、小走りでベルの元に向かいます。
「いた?」
私の問いに、ベルは無言で頷くと、木の向こう側を指差しました。
木の幹から少し顔を覗かせて、ベルの指差した方向を見ると、茂みの奥に何やらモゾモゾと動いているものがありました。2匹いますね。
茶色の肌に、ギョロリとした目、口から鋭い牙をチラつかせているトカゲ頭。あれが、ラプターでしょう。
え〜っと…完全にヴェロキラプトルですよね、あれ。前世に、病室で見た映画に登場したものと、よく似ています。
「じゃあ、私が今見えてるラプター仕留めるから、リンは潜伏してるやつをお願い」
「わかった。…でも、2匹も任せて大丈夫?」
「ふふん。Bランクハンターを舐めないでよ」
20秒後に斬りかかる、と一言残してベルはラプターの側面に回り込むため、移動しました。
私は、いつでも対処できるように周囲を窺います。
そして、そろそろ20秒が経つという時に、ラプターの左側面から銀の風が飛び出しました。ベルです。
ベルは前のめりに突っ込んだかと思うと、ラプターの首に纏わり付き、ナイフを滑らす。
一拍遅れて赤い飛沫が舞い、1匹目は絶命。一瞬のことだった。
「?!ッグギャァォ!!」
2匹目は、仲間が首から血飛沫を上げて、ようやくベルの存在に気がつく。
しかし、ベルは既に死体から離れ、地面に片膝をついたところだった。
両者が動き出したのは、ほぼ同時。いや、ベルの方が早い。
ベルはバネの如く、ラプター目掛け飛び上がった。ナイフの先端をラプターと垂直になるように構えながら。
ドスッ。ナイフはラプターの体深くまで潜り込む。その勢いは、ベルの突撃によってラプターの体が宙に浮く程だった。
そして互いが静止すると、ベルはナイフを捻りながら、引き抜いた。
支えを失った死体は、その場で倒れるしかなかった。
「す…すごい……!」
一瞬の攻防でした。
瞬く間に2つの死体ができあがりました。
ですが、まだ油断なりません。
潜伏の可能性がまだ残っています。
辺りを素早く見渡します。
すると、ベルから少し離れた奥の茂みが、微かに揺れているのが見えました。
「ベル!後ろに約1匹!」
私の声と同時に、ラプターが1匹、ベルに突っ込んでいきます。
ベルはすかさず反応し、それをひらりと避けると、流れるようにラプターの背中と尾の付け根を切り裂きます。
ベルとラプターに距離が空きました。
私は『赤蜜の奇跡』の火弾を発動します。
「いっけー!」
ベルに気を取られていたラプターは火弾を避けることができませんでした。
炎がその体を焦がし、内部を焼きます。
痛みでのたうち回るラプターは、数秒で動かなくなりました。
私とベルは、再度周囲に目を向けます。
基本的に4匹で群れているらしいので、普通に考えると、残り1匹です。
しかし、数十秒経ってもラプターが現れる気配はありませんでした。
「リン〜。たぶん、もういないと思うから、こっちに来ても大丈夫だよ〜!」
「わかった!今行く!」
ベルが大丈夫だと判断したなら、大丈夫なのでしょう。
私は、ベルの元に向かいます。
「お疲れ様!」
「お疲れ様!ベル、やっぱりすごいね。一瞬で倒しちゃうんだもん」
「えへへ。ありがと。でも、リンもしっかりサポートしてくれたじゃん」
「私、サポートできてたかな…?」
「ばっちりだったよ!」
「そう?なら、良かった」
ベルにそう言ってもらえると嬉しいです。
「あっ…そうだ、リン。Lv上がったんじゃない?」
「え?Lv?……本当だ!上がってる!」
ベルに指摘されて確認すると、本当に上がってました。
戦闘の興奮で、Lv が上がった音が聞こえなかったのでしょうか?
ーーー
〜ステータス〜
名前:リン
種族:イリュージョン・バタフライ(変異種)
性別:雌
年齢:2歳
Lv:44(+8)
HP:1900(+900)
MP:5000(+980)
STR:53(+15)
VIT:71(+26)
INT:3100(+1056)
MND:1200(+390)
AGI:93(+25)
〜スキル〜
蜜の奇跡(Lv.10);『白蜜の奇跡』,『赤蜜の奇跡』,『紫蜜の奇跡』,『黄蜜の奇跡』,『秘蜜の奇跡』 鱗粉(Lv.4) 飛行(Lv.1) 幻惑(Lv.6) 言語理解(Lv.5) 鑑定(Lv.6) 抽出(Lv.8) 隠蔽(Lv.4)
〜称号〜
転生者
ーーー
久しぶりのLvアップです。カマキリを倒した時以来ですね。
「でもさぁ、ベル。何で私のLvが上がったと思ったの?」
ふと、疑問に思ったので、ベルに聞きました。
「ん?あぁ、ラプターってね、Eランクハンターにとっては苦戦する部類だからね。それを倒せたんだから、Lv上がっただろうな〜って」
「苦戦って…ちょっと、ベル!大丈夫って言ってたの、やっぱり嘘だったでしょ!」
「嘘じゃないって〜。現に、大丈夫だったじゃん」
「ぐぅ…それは結果論だよ…」
「あははは。ごめん、ごめん。リンのステータスなら、大丈夫って思ったんだよ。Eランクだけど、ラプター程度なら余裕を持って倒せるってね」
むぅ…それを言われると、否定できません。実際に戦ったのは、最後の一撃だけでしたが、見てる分にも負けることはないだろうと思いましたし。
さらに、付け加えるようにベルは言いました。
「それに、本当にリンが危なくなったら、私が絶対に守るから」
「ベル………かっこいいこと言って、誤魔化そうとしてない?」
「どうしてさ?!ここは、リンが「…え?…本当に?…あ、ありがと…」って、顔を赤くしながら言うところじゃないの?!」
「い、言わないよ!やっぱり、誤魔化そうとしてたんじゃん!」
「えぇ〜、誤解ですぅ〜」
くっ、一瞬でもドキッとしてしまったことが、悔しい!
ベルの澄んだ瞳に見つめられると、調子狂うなぁ…。
「ゲェオンッ!!!」
私とベルは、鳴き声のした方を見ます。
そこには、4匹…いえ、5匹のラプターがいました。
同族の死臭に誘われたのでしょうか。いや、私達が騒ぎ過ぎただけでしょうね…。
「リン、行くよ!」
ベルはナイフを逆手で構え、チラッと私を見ます。
私は、軽く頷きました。
「了解!」
そしてこの日、結局私たちは15匹のラプターを狩りました。
ベル「いや〜、多過ぎだよ…」
リン「これ、どうするの?」
ベル「解体して、持って帰る。食べられないところとかは、その場に埋めるか、燃やすの」
リン「…持って帰れる量かな?」
ベル「……少し食べて減らそっか」
リン「…私が焼くね」
ベル「よろしく」
ラプターの肉は私が焼きました。私は肉を食べても味がわかりませんでした。ベルは幸せそうに食べていました。 by リン




