15話 考えて、選んで
「結局、了承してしまった……」
ベルとの出会いから一夜明け、現在の時刻は午前8時。こっちの世界では、『朝餉後の刻』と言うそうです。
今、ある場所に向けて、大通りを歩いています。
「…はぁ~……」
思い返すは、昨日のこと。
蜜酒で酔い、ベルに膝枕してもらい、パーティーを組もうと誘われる。
すごく濃い1日でした。
「私…何であの時、ベルの申し出を受けちゃったんだろ…?」
あの時、私は『ベル』と『ベルに対する罪悪感』の間で揺れていました。
私は、ベルに対して沢山の隠し事をしています。それなのに、簡単にベルの好意を受け取っても良いのか、と……。
しかし、何故か私はベルの申し出を受けました。まだ、心の葛藤に決着が付いていないのにです。
「…それに…あれは、何だったのかな……」
自分の胸にそっと手を当て、考えます。
実は、あの時、不思議なことがありました。
ベルが私の目も見て、「私とパーティーを組みませんか?」と言った時のことです。
私も顔を上げ、ベルの瞳を見つめた時、『何か』が私の中を流れたのです。ふわっとして、温かいものが。
恐らく、その『何か』が私の葛藤を一旦止めたのでしょう。
しかし、それが何だったのか…その…わからないのです。
いつだったか、同じものを感じた記憶はあるのです。あるのですが…思い出そうとすると、まるで霞のように消えてしまうのです…。どうしてでしょうか……。
う〜ん…と考えながら歩いていると、目的の場所が見えてきました。
ルメイラの出入り口である、大きな門です。
それも、いつも採取に出るために利用している門ではなく、真逆に位置する、私が初めて訪れる門です。
こちらの門からは、別の街や凶暴性の低い魔物の出る山へと繋がる道があるそうです。
ちょうど切りが良いので、『何か』について考えるのは一旦、終わりにしましょう。
昨日から思い出そうとして、思い出せないということは、簡単には出てこないものなのでしょう。
いつか、思い出すと信じることにします。問題の先送りですね…。
さて、今回、何故こちらの門に来たかと言うと、実はベルと待ち合わせをしているからです。
昨日、早速ベルは「明日、一緒にハンターの依頼を受けない?」と誘ってきました。
特に予定もなかったので、待ち合わせの約束をしたのです。
辺りを見回しても、ベルはまだ来ていません。まあ、約束した時間から20分ぐらい前に来てしまったので、仕方がないですね。
ゆっくり待つことにしましょう。
今日のベルとのお出掛けですが、昨日から楽しみにしていました。
あれだけ、「罪悪感がぁ〜」と言っていましたが、正直に言うと、パーティーを組むことになった時、とても嬉しかったのを覚えています。
自分でもわかっていますが、私は結構ぐだぐだです。悩みだすと沼に嵌まってしまうタイプです。
しかし、その分、一度決めてしまえば、良い方に考えるようにしています。
その…単純なのですよ…。少しでも、選んだ物事に私が良いと思えるものがあれば、自然とそちらに流されると言うか…。
なので、今回も私の選択は悪いものではなかったと、考えることにしました。
それにあの時、ベルとパーティーを組む選択をした、明確な理由は自分でもわからず終いですが、この選択は間違いではなかった。そんな気がするのです。
根拠なんて1つもありませんけどね。
「おーい!リ〜ン〜!」
自分を呼ぶ声に顔を上げます。
通りの向こうからベルが駆けて来ます。ニコニコと笑っているのが、ここからでも見えます。
私は両頬をパシッと叩きました。
ベルは楽しそうにしているのに、こっちが辛気臭い顔をしていたらいけません。
今は、私も楽しみましょう。折角、ベルと一緒なのですから。
これから、どれだけベルと一緒にいられるかはわかりませんが、恐らく、私は秘密を隠したままでしょう。
…いつか、隠し事なんてしなくても良い関係になりたいな。
その時が来れば、私も胸を張って、ベルの友達と言えるかもしれません。
そのためには、もっとベルと仲良しにならなくちゃいけませんけどね。
「お待たせ〜。もしかして、いっぱい待たせちゃった?」
「ううん。大丈夫だよ、ベル」
「それなら、良かった。…ちぇ〜、私の方が先に来て、リンを待っとこうと思ったのになぁ〜」
「あはは…私は早く起きちゃったからね…」
「そうなの?どうして?」
「ど、どうしてって…それは、その…」
「その?」
ベルは顔を傾けながら、私の顔を覗き込んできます。ニヤニヤとしながら。
……う〜…意地悪。
「…その……楽しみ、だったから…」
「ふふ。素直でよろしい!」
なんか、悔しいです。じとーっとベルを睨みます。
ベルはそれに気づくと、ぺろっと舌を出しました。
「ごめん、ごめん!怒らなで!…ね?」
「むぅ…別に怒ってる訳じゃないけど…」
「怒ってないなら、良し」
「ベ〜ル〜?」
「えへへ。冗談だって!」
そんなやりとりをしていると、ベルは門の方に少し進み、振り返って私の方へ手を差し伸ばしました。
「じゃあ、そろそろ行こっか」
私はその手を見つめます。
一瞬、躊躇ってしまうなんて、本当に私はしょうがない奴ですね。
さっきまで、考えていたことが頭をよぎります。
ですが、軽く頭を振って、その考えを払います。
だって、決めたじゃないですか。ベルともっと仲良くなるって。
ベルの手を取ります。
そして、顔を上げます。
「うん。行こう!」
いつか、この嘘を謝れるように
それまでは……
この度は、投稿が遅くなり、申し訳ありませんでした。
とある1場面がどうしても納得がいかず、4日程その場面に時間をかけてしまいました。
なので、「1週間かけて、この量かよ…」って、思わないでください。お願いします。
これからも、『蝶は蜜を求めて異世界に舞う』をお楽しみくださいませ。




