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蝶は蜜を求めて異世界に舞う  作者: おりょ?
第2章 出会いの集う街
14/25

13話 ある雨の日のこと[2]

 ベッドの上で『赤蜜の奇跡』の灯火を出して遊んでいると、1階からザワザワとした音が聞こえ始めました。

 どうやら、討伐に行っていたハンターの人達が来たようです。

 音からして、10人ぐらいでしょうか。エレーナさんを疑っていた訳ではありませんが、確かに『ゆりかご亭』は人気のようですね。


 「そろそろ、行こうかな…」


 一緒に昼食を食べると言っても、目的は親睦を深めることと情報を得ることです。料理に関しては味がわからないので残念ですが…。

 ヒョイっとベッドから立ち上がり、1階へ向かいます。

 部屋を出て、階段に近づけば喧騒はより一層大きくなりました。


 階段を降りて、見えてきたのはわいわいと喋りながら、もりもり食事をとっているハンター達でした。

 数えてみると14人。厳つい男性や筋肉の引き締まった女性、中にはひ弱そうな女性もいます。魔法士でしょうか?

 おそらく、大半が討伐を見学しに行っていたハンターでしょうね。見た感じでしか判断できませんが、話の中心になっている人が、討伐組でしょう。

 『鑑定』は今回、使わないことにしました。初対面の人のステータスを覗くのは少し忍びないですし、もしも『鑑定』を許可を取らずに使っていることがバレたらまずそうなので。


 …エレーナさんは親睦を深めたらどうだと言ってたけど、話しに混ざりに行くのは難しそうだなぁ……。

 他人とのコミュニケーションが苦手とは言いませんが、楽しそうに喋っている輪の中に入りに行くのは少し抵抗があります。

 ましてや、私のような小娘が相手にされるのでしょうか?

 あぁ、どうしよう…考え出したら、部屋に戻りたくなってしまいました……。


 私が階段付近でうじうじしていると、料理を運んでいたエレーナさんに見つかってしまいました。


 「お!リン!やっと来たんだね!」

 「エ、エレーナさん…」

 「おい!あんた達!この子は新人ハンターのリンだ!先輩として、いろいろ教えてあげな!」

 「っ?!ちょっ、エレーナさん?!」


 え?待って!待って、エレーナさん!そんな大声で言わないで!

 近づいて来るなりエレーナさんは私のことを皆さんに紹介してしまいました。

 当然、視線が私に突き刺さります。談笑していた人も、食事していた人も、みんな私を見ています!


 あぅ〜…恥ずかしい〜……!


 「へぇ〜、嬢ちゃん。まだ若いっていうのにハンターになったのか!」

 「新人なら、わからないことだらけだろ?答えられる範囲なら、何でも教えるぜ」

 「君、もう誰かとパーティー組んでる?フリーなら、俺のとこに入らないか?」

 「ねぇ、女の子1人は不便じゃない?私のパーティーって女性だけだから、助け合えると思うんだ。一緒にどうかしら?」

 「えっ…あ、待ってください!そんな一斉に話し掛けられても…!」


 こ、これが世に言う『転校生が受ける洗礼』的なやつでしょうか?『転校生』要素は皆無ですが…。

 私は聖徳太子ではありませんので、3人以上の人が同時に話しかけても、対応なんてできません。



 「も〜!その子、困ってるじゃん!ほれ、離れた離れた!」


 その時、困っていた私を助ける声がしました。

 声がした方を見ると、少女が1人。

 腰まで伸びた銀色の髪。透き通った水色の瞳。

 私とそんなに年が離れていないであろう女の子がいました。


 「でもよぉ、ベル。俺達はこの子が心配で…」

 「はいはい。バルトン達が親切で後輩思いなのは知ってるから」

 「じゃあ…」

 「でも、そんなに一斉に話されても困るでしょ?それに、何を教えるにしても、ガチムチのおっさんよりも、年も近くて同じ女の子な私の方が良いって」

 「お…おっさん…!……はぁ…わかったよ。嬢ちゃん、困ったことがあったら、いつでも言いな。ハンターは助け合うものだからな!」

 「は、はい!その際には、よろしくお願いします!」


 バルトンという人は、ビシッとサムズアップすると、元いたテーブルへ帰っていきました。

 それに続いて、他の人もまたそれぞれのテーブルへと戻っていきました。


 「じゃあ、君…えっとぉ……リンちゃんだったっけ?あそこのテーブルが空いてるし、座ろっか」

 「あ、はい……」


 席を勧められたので、そこで向かい合って座ります。


 「と言うことで、あなたのお相手となりました者です」

 「お、お手柔らかにお願いします」

 「ふふっ。まずは自己紹介をしないとね。私はベル。よろしくね!」

 「リンです。よろしくお願いします!」

 「あははっ!そんなに畏まらなくても良いよ。ねぇ、リンって呼ぶけど良いよね?私のことはベルで良いからさ!」

 「え?あ、リンで大丈夫です。えっと…ベルさん?」

 「さん付けはダメ!敬語も禁止!」

 「うっ……わかりまし…あ、違った…わかったよ、ベル」

 「それでよろしい」


 お、押し切られました…。

 でも、こういうぐいぐい来るのは嫌いじゃありません。


 「バルトン達がごめんね。顔はあれだけど、あの人達は悪い奴じゃないからさ」

 「うん。大丈夫、私を心配してくれてたのは伝わってるから」


 少し怖かったですが、あの時、私を取り囲んでいた人達からは悪意は感じませんでした。


 「それなら良かった」


 それにしても、改めて近くで見ると、ベルさん……じゃなくて、ベルはとても可愛らしい女の子ですね。

 遠くにいても目につく銀髪は絹のようで、大きくぱっちりとした目からは意志の強さが感じ取れます。

 笑顔が素敵で、とても親しみやすい雰囲気を纏っています。


 「ねぇ、ベルって本当にハンターなの?私も人のことは言えないけど…」

 「そうだよ〜。これでも私、Bランクハンターだからね!」

 「え?!Bランクなの?!まだ、私と年齢はそんなに違わなさそうなのに…」

 「へっへ〜ん。すごいでしょ!リンって、今何歳なの?」

 「今は…13歳だね」

 「おぉ!なら、私と一緒じゃん」


 驚きました。まさか、ベルがBランクハンターだったなんて…。

 つまり、このワイバーン討伐の立役者の1人じゃないですか。


 「あ、そうだ。リンって魔法士だよね?」

 「そうだけど…なんで、わかったの?」

 「う〜ん…だって、リンは体を鍛えてなさそうだもん」

 「うっ…図星だよぉ……」

 「相手の動きを見たら、大体は予想できるよ」


 何それ、かっこいい!

 さすがBランクということでしょうか?動きでわかるって。


 「魔法士でも、運動した方が良いよ~」

 「ですよねぇ~」


 ベルはすっと目を細め、私を見つめました。


 「おぉ!リン、すごいじゃん!リンも『鑑定』持ってるんだね」

 「え、何でわかったの?それに、()()()って………」


 ベルはニカッと笑います。



 「だって、()()()()()()()()()()()()()

 「え……?」



 その言葉に、背筋が凍ったような気がしました。

 え?ベル、『鑑定』を持ってるの?

 嘘…じゃあ、私が蝶の魔物だってバレて………。



 「と言っても、まだLv.2なんだけどね……って、リン?どうかした?」

 「………ふにゃ〜…」


 あぁ……力が抜けてしまいました。テーブルに突っ伏します。

 私の正体がバレちゃったと思いましたよ…。

 ベルの『鑑定』がLv.2で良かったです。私の『隠蔽』はLv.3なので、偽装できているはずです。

 先程の、私が魔法士かを聞いたのは、偽装したステータスやスキルに不備があったからなのでしょうか?


 「リン、大丈夫?…もしかして、ステータス勝手に見るのマズかった?」

 「え…あ、いやぁ…ベツニダイジョウブダヨ?」

 「それは、大丈夫じゃないような……えっとね、『鑑定』は一種の才能みたいなものだから、ステータスを見られるのはハンターの間では暗黙の了解なんだ。それでも見られたくないなら『隠蔽』を習得すれば良いんだけど…リンはハンターになったばかりだから、知らないよね。ごめんなさい…こういうことを私がリンに教えなくちゃいけないのに、知っている前提で話しちゃって…」

 「……………」


 ベル、ごめんね。その『隠蔽』を使って現在偽装中なの。

 やましいことがあるのは私の方なので、謝られると逆に気まずいです。

 あと、最初に『鑑定』を使わないようにしてたのは、考えすぎだったようですね。


 「うぅ…リンも『鑑定』を使ってると勝手に思って、ステータスの話を振っちゃうなんて…私のバカバカ~」

 「あ、あのねベル、私は気にしてないからね?過剰に反応しちゃっただけだから、大丈夫だよ」

 「ほんと?気にしてない?」

 「気にしてない、気にしてない。だから、身を乗り出さないで…」


 今、グイッとベルは身を乗り出して私の手を握っています。

 美少女が申し訳なさそうに目を潤ませた顔を近づけてくるので、一瞬ドキッとしてしまいました。


 「よし!リンも私のステータスを見て!これで、おあいこにしよう」

 「え?別に私は見なくても…」

 「それだと、私の罪悪感がぁ〜」


 罪悪感があるのは、隠し事をしている私の方だよ〜!

 ただ、私もベルのステータスを見ることで収まるのなら、もう見るしかありません。


 「わかった。私もベルのステータスを見るよ。これでおあいこね」

 「うん」


 ベルのステータスはというと…。

ーーー

 〜ステータス〜

 名前:ベル

 種族:人

 性別:女

 年齢:13歳

 Lv:88

 HP:6635

 MP:5020

 STR:3000

 VIT:2017

 INT:1900

 MND:1980

 AGI:2660

 〜スキル〜

 狩猟(Lv.7) 短剣(Lv.8) 夜目(Lv.5) 危機察知(Lv.6) 軽業(Lv.7) 疾走(Lv.5) 隠密(Lv.5) 料理(Lv.4) 言語理解(Lv.3) 鑑定(Lv.2) 隠蔽(Lv.3)

 〜称号〜

 

ーーー


 うわぁ、すごいです。Lvは私より52も高く、INTのみ私が上です。

 よく見ると、ベルにも『隠蔽』スキルがありました。


 「ねぇ、ベル。『隠蔽』は対人スキルだから、誤解を生む可能性があるって聞いたんだけど、どうなの?」

 「そうだね。普通は『隠蔽』は必要ないかな。『鑑定』持ちがほとんどいないからね。でも、ハンターの中には、犯罪まがいのことをする奴もいるんだ。そんな奴に襲われた時にステータスがバレてるか、バレてないかで安全性が変わるからね」

 「ハンターが犯罪を犯したら、重い罪になるんじゃないの?」

 「うん…それでも、悪い奴は出てくるんだ…もし、そいつが『鑑定』や『隠蔽』持ちなら怖いでしょ?」

 「…うん。怖い」


 想像してみます。

 悪人が『鑑定』で自分より弱い人を見つけ、その人に『隠蔽』で偽装した状態で近づく場面を。


 「『鑑定』は使っているのか、いないのかがわからないスキルだからね。だから、ハンターなら見られても仕様がないって割り切っているんだ。それでも、不安なら『隠蔽』を習得する。でも、『隠蔽』は自身のステータスを偽装できるから、隠し事をしているとも勘ぐられてしまう」

 「難しいんだね…」


 自分を守ろうと隠すと、その分だけ怪しまれる。

 『鑑定』や『隠蔽』は、良いことばかりではないんですね。


 「パーティーが『鑑定』持ちを重宝するのは、これが理由でもあるんだ。信用できる仲間なら、『隠蔽』で偽装して近づいて来る奴を見分けてくれるからね」

 「なるほど」


 ベルの話は、とても勉強になります。

 エレーナさんの言う通り、この集まりに来て正解でした。


 「よし!これで、重めの話は終わり!楽しい話をしよっか」

 「楽しい話?」

 「そう。リンってどうしてハンターになろうと思ったの?」

 「ハンターになった、理由……」


 私がハンターになった理由。

 お金が必要だったから、が理由ですかね?これだと、夢が無さすぎるかな?

 う〜ん…。


 「そうだね…見たことのない花に出会うためかな」

 「花?」


 私はいろんな種類の蜜を飲みたいです。つまり、いろんな種類の花に出会いたいということです。

 おぉ、これですね。これなら嘘でもなく、夢があります。


 「花に出会いたいか〜。リンって可愛い夢があるんだね」

 「可愛いかな?」


 たぶん、ベルが思う花に出会いたいと、私の思う花に出会いたいは中身が違うと思いますが、黙っていましょう。


 「ベルはどうしてハンターに?」

 「私?私は世界中の食べ物を食べるためだよ!」

 「ベルって、食べることが好きなの?」

 「そうだよ!これでも私って大食いだからね」


 み、見えない!

 ベルの体はスレンダーです。とても大食いには見えません。


 「ワイバーンの肉は美味しかったなぁ〜」

 「食べたの?」

 「うん!討伐したワイバーンは、素材がたくさん取れるけど、肉が結構余るんだ。残したらもったいないでしょ?」

 「そ、そうなんだ…」

 「…ねぇ、そういえばリンは何も食べてないよね?お腹空いてないの?」


 おっと、どうしましょう。今は昼時です。周りではハンターの皆さんはどんどん料理を食べていっています。

 私も何か食べた方が良いのでしょうけど、ベルの言う通りでお腹は空いてないんですよね。それに味もしませんし。


 「うん。今はお腹空いてないんだ。朝食が遅かったから…」


 誤魔化しましょう。 


 「そっか。じゃあ、飲み物でも頼む?喉は渇くでしょ?」

 「飲み物かぁ。そうだね、それなら良いよ」


 ベルともっと会話したいですし、飲み物ぐらいなら頼んでも良いでしょう。

 一切飲まず食わずは不自然でしょうし、飲み物なら味もしますしね。


 「それじゃあ…エレーナさん!私とリンに蜜酒をお願い!」

 「あいよ!蜜酒2つだね!」


 ん?蜜酒?

 え…お酒なの?


 「ねぇ、ベル。お酒飲むの?」

 「お酒?…あぁ、蜜酒はお酒って付いてるけど、大丈夫だよ。ここのはアルコールはほとんど入っていないし、独特な味がするジュースみたいなものかな。第一、私はまだお酒飲めないもん……もしかして、リンは嫌だった?」

 「嫌じゃないよ。飲んだことないだけだから」


 ウイスキーボンボンの飲み物版みたいなものでしょうか。

 この世界のお酒事情は知りませんが、ベルもお酒を飲む気はないようですね。安心しました。


 「はい。蜜酒2つだよ」


 すぐにエレーナさんが蜜酒を持ってきました。

 木製のジョッキに入っているので、本当にお酒のようです。

 でも、匂いは甘ったるい果物ジュースですね。お酒の匂いはしません。


 「リン、楽しんでるかい?」

 「はい!」

 「なら良し。ベル、先輩なんだからリンに優しくしなよ。自分が知っていることでも、リンは知らないかもしれないんだからね」

 「あー…善処します」


 エレーナさん、『鑑定』の件で私達は既にやらかしてます。

 エレーナさんは、私が楽しんでいるのを確認すると、接客に戻りました。


 「蜜酒も来たことだし、乾杯しよっか」


 ベルがウインクしながら、提案します。


 「そうだね。乾杯しよう!」

 「じゃあ、私とリンの出会いに、乾杯!」

 「乾杯!」


 コツンとジョッキをぶつけ合います。

 なんか良いですね、こういう感じ。

 こっちの世界に来てから、同年代の女の子とは無縁でしたから。テンションが上がっているのが、自分でもわかります。

 生前の最後は、病室で寝たきりだったので……。




 この時、私は気づいていませんでした。

 ベルとの出会い、場の空気に浮かされていて。


 蜜酒は、蜂蜜と水で作るものです。

 そう…蜂蜜は、()()()()()()()()()()()()です。


 こんな簡単なことを忘れていた私は、ゴクッと飲むと、案の定……。


 「きゅ〜〜〜〜…………」

 「ブフォッ!え?リン?ちょっと、大丈夫!?リン!リ〜ン!!」


 体が一瞬で紅色に火照り、靄がかかりゆく意識の中、ベルの声とピロリンッの音が聞こえます。


 うにゅ〜、もう…ダメェ………。



ーーー

 『秘蜜の奇跡』が解放されました。現在、使用可能な効果:蜜月(ハネムーン)

ーーー


ベル「リン!大丈夫?!エレーナさん、ちょっと来て!」

エレーナ「どうしたんだい、ベル…って、リン?なんで倒れてるのさ?顔も真っ赤で…」

ベル「それが、蜜酒を飲んだらいきなり倒れちゃって…」

バルトン「エレーナの姉御が、間違って本物の酒でも出したんじゃねぇの?」

エレーナ「バルトン!あんたみたいな酔いどれと違って、そんなミスしないよ!」(ドスッ!)

バルトン「グフォッッ!?!?」

ベル「リン〜、戻って来〜い」

リン「…うみゅ〜〜〜〜……」

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