11話 初めての**
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『幻惑』のLvが上がりました。Lv.5→Lv.6
『隠蔽』のLvが上がりました。Lv.2→Lv.3
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「ん?…おぉ、Lvが上がった」
今日も霧の森へ採取活動をやりに来ています。
魔物を『幻惑』を使ってやり過ごしていると、遂にスキルのLvが上がりました。
『幻惑』は、普段からとても役に立っているので、強化してもらえるというのは嬉しいことです。
「あれ?なんか『隠蔽』も上がってる…」
『幻惑』は使っている最中だったので、上がるのはわかりますが、『隠蔽』はなぜ上がったのでしょうか?
『隠蔽』はステータスを相手から隠し、偽装するスキルです。普通だったら、相手の『鑑定』などを妨害した時に上がりそうなものですが、Lvの上がる条件がよくわかりませんね。
『鑑定』でスキルを調べた時には、条件は特に何も書いてありませんでしたし、隠れた法則がある可能性がありますね。私の『鑑定』のLvは6なので、さらに上がれば何かわかるかもしれないです。
木の根元で何やらごそごそとしている魔物に目を向けます。
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〜ステータス〜
名前:---
種族:フォレスト・ウルフ
性別:雄
年齢:5歳
Lv:24
HP:1808
MP:70
STR:504
VIT:220
INT:110
MND:200
AGI:735
〜スキル〜
狩猟(Lv.4) 鋭牙(Lv.3) 追跡(Lv.5)
〜称号〜
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いろんな森に生息する一般的な魔物で、この森でも何回も遭遇しています。
一応、その度に『鑑定』を使っていますが、Lvが上がる兆しは感じられませんね。別の個体でも、同じ種類のものはカウントしてくれないのでしょうか?
ハァ…地道にやっていくしかないのでしょうね……。
そうしている間に、フォレスト・ウルフは森の奥へと走り去っていきました。
辺りに魔物の気配も無いことですし、活動再開としましょう。
いつもなら、『幻惑』があるのでもっと大胆に行動しているのですが、今日は慎重に動いています。
何故なら、今回この森に来たのはギルドで受けた依頼を達成するためだからです。もちろん、常時張り出されているような依頼ではなくて、個人が出した依頼ですよ。
こういう依頼を受けるのは初めてなので、ちょっと緊張しています。
初めてのハンターらしい仕事なので、もっと楽しめるかな?と思ってましたが、実際は思っていた以上に緊張しますね。
依頼の内容は、キホリ鳥の卵を3つ持ち帰るというもので、難易度はDです。
キホリ鳥は魔物ですが、あまり危険ではないらしいです。ただ、霧の森に生息していて、この森自体の難易度はDなので、依頼の難易度もDでした。
普通のEランクのハンターにとって、この森は危ないらしいのですが、私はスキルのおかげで安全に動けるので依頼を受けれたと言うことです。
よって、今日は慎重に行動することにしたのです。
何が起こるかわからないですから、ちょっと臆病に行動しても損はないですしね。
木の上の方に巣を作るようなので、上を向いて歩いています。
某有名な歌の状態です。涙は出ていませんが。
「あれかな?」
そろそろ20分ぐらい経った頃、首が痛くなり始めましたが、巣らしきものを見つけました。
木の上の方の幹にバスケットボール程の穴が空いています。
少し待っていると、キホリ鳥と思われる魔物が穴に入っていきました。
「大きいキツツキだね…」
名前から大体想像できていましたが、やはりキツツキでした。サイズは魔物なのか、そこそこ大きいです。
さて、巣を見つけたことですし、卵をいただくとしましょう。
問題はどうやって巣まで登るかですが、この森の木って高いんですよね。
地面から巣があるところまで、マンションの3階程の高さがあります。
まず、『飛行』スキルは使いません。
理由はちゃんとあります。『飛行』のLvが1だからです。
練習をサボっていたのではありませんよ!大カマキリの一件から、飛ぶ練習はしようと思っていました。実際に、先日練習を始めました。ただ、練習しようとして翅を動かそうとした時、アクシデントが起こったんです。
……その…翅を動かそうとするじゃないですか…本来は存在しない部位なので、翅が生えている部分の筋肉を動かそうとしたんです。そうしたら…その…痙ったんです。
突然でしたが、痙ってしまったんです!超痛かったです!翅の辺りの筋肉を動かそうと頑張っていました。やがて、ピクッピクッと翅が動き出しました。ここまでは良かったのです。その後、すぐに筋肉がビキッ!となったのです。そんなところが痙るの!?と思いました。普段、使うことを意識していない筋肉を意識して、同時に翅を動かそうとしていたので、起こったんだと思いますが、あの時は辛かったです。宿の中で試していて正解でした。そのまま、ベッドに撃沈できましたから。しばらく経っても違和感は残りますし、もうトラウマです。もう『飛行』のLvは1のままで良いです。
と言うことなので、翅を使うことは却下。
手足を使って木登りするしかありませんね。
「グギャァ!」
キホリ鳥は一鳴きすると、飛び去っていきました。
木を登りましょう。
ポーチに地面に落ちていた枝を数十本入れて、木の下に行きます。
そこで、枝を『白蜜の奇跡』で結晶化し、木に突き刺していきます。これを足場にするのです。
この結晶化した物が、硬いことは大カマキリを倒した時にわかっていますから、大丈夫でしょう。…たぶん。
落ちても障壁がありますし、何事もチャレンジです。
「えいしょっ…えいしょっ……よいしょっ…」
はぁ。はぁ。疲れますね。
登ってみると、結晶化した枝はちゃんと私を支えられているようですし、なんとかいけそうです。
「えいしょっ…ふぅ……えいしょっ…どっこいしょっ…とぉ…ハァ〜〜〜。着いた〜」
年寄りみたいな声を出してしまいましたが、無事に登りきることができました。穴を覗き込むと、中に枝が敷き詰められ、真ん中に卵が5つあります。
依頼は3つなので、2つ残しましょう。握り拳サイズの卵をポーチの中に入れていきます。
最後の3つ目を入れようとした時、鳴き声が聞こえました。
「グゲェ!!!」
「えっ!もう帰ってきたの!?」
間の悪いことに親が帰ってきてしまいました。
キホリ鳥も驚いたことでしょう。帰ってくると卵泥棒が犯行中なのですから。
取り返そうと、大きな嘴で攻撃してきます。
「うわ〜…これは怖いな…」
ガンッ!ガンッ!
攻撃は障壁で完全に防げていますが、目の前で嘴を連打されるのは迫力があります。
あまり危険がないとは、なんだったのでしょうか?
とっとと退散するとしましょう。
最後の1つをポーチに入れて、その場で飛び降ります。
ドサッ!といきましたが、障壁がカバーしてくれたので、ダメージはありません。柔らかいクッションに飛び込んだようです。卵も割れていません。
上からキホリ鳥が追いかけてきますが、『赤蜜の奇跡』で灯火を出して牽制します。
キホリ鳥が少し怯んだ隙に、『幻惑』を使って逃げます。
倒せますが、これからも卵を供給してもらうために、生かしておきましょう。
そして完全に振り切ったところで、私はあることに気がつきました。
「………最初から『幻惑』で透明になっておけば良かったんじゃ…」
「リンさん、お疲れ様です」
「キホリ鳥の卵、ちゃんと3つ取ってきました〜…」
「はい。割れてもいませんし、3つ確かに受け取りました。後は、こちらが納品しておきますので、これが報酬です」
「おぉ〜!」
「これから、依頼をこなしていけばランクも上がりますので、頑張ってくださいね」
「はい!」
ギルドに戻ると、フィリアさんが対応してくれました。
手渡されたお金を見ると、なんだか心がぽかぽかしてきます。決して、お金にときめいている訳ではありませんよ?
仕事を認められ、それによって得られる報酬というのは、嬉しいものですね。
お金の量は大したことありませんが、すごく満ち足りた気分です。
お父さんが言っていた、初給料の嬉しさとはこんな感じなのかもしれませんね。
この日のことは、思い出として忘れないでしょう。
リン「キホリ鳥の卵って、何に使うんですか?」
フィリア「お店などで、卵焼きとして出されますね。あとは、王都に運ばれればプリンになります」
リン「プリンあるんですか!?」




