プロローグ 羽化 (挿絵あり)
唐突ですが、私こと花崎鈴は、13歳でその生涯を終えようとしています。
何故そんな状況になっているかと言うと、10歳の頃に原因不明の病を患ったことが始まりでした。
両腕を除いて、体が思い通りに動かなくなってしまったのです。
運動会の練習中に、突然体に力が入らなくなって倒れてしまいました。
私自身も驚きましたが、周りにいた友達や先生はもっと驚いたことでしょう。
あれから3年、私はずっとこの病室の主になっています。
病院生活は、両親や姉がお見舞いのときにくれた本やゲームで退屈せずには済みました。
でも、体を動かすことが嫌いではなかったので、外に出て遊びたい欲求はありました。
「……はぁ」
外への気持ちが強まっていく中、窓の外をひらひらと飛ぶ蝶を眺めている日々。
いつかこの病を治して、花畑とかを走り回りたいな。
なのに、なのに!
そう思っていた矢先、1年程前から両腕も動かなくなり、少しずつ体は衰弱し始めるのです。
酷いです!私が何をしたって言うんですか…
そして今、苦しくはありませんが、体から感覚がなくなり始めました。
ベッドに横たわった私の体はもうピクリとも反応を示しません。
嫌でも私の命の灯火が消えようとしているのがわかります。
瞼が重いです。
枕元で必死に私の名前を呼ぶ家族の声も聞こえなくなってきました。
あぁ、お父さん、お母さん、お姉ちゃん…ごめんなさい。先立つ私を許してください。
ふと、私が元気な頃に撮った、家族の記念写真を思い出しました。
手を繋ぎ、顔は花が咲いたような笑顔でした。
幸せな思い出。家族の笑顔を思い浮かべるのを最後に、私の意識は………
ーーー
『輪廻の…へ接続、…敗、魂の…収、成功、保護…能世界…検索、完…、…の移動……始……』
ーーー
「……うぅ」
暖かい水の中から、急速に浮かび上がるような感覚で、私は目を覚ましました。
「…えっと〜」
今、私は真っ白な謎の空間に包まれているようです。うん、わからん!
状況が理解できない私は、一番最近の記憶を思い出すことにしました。
「そういえば…病院で死んじゃったんだよね?」
そうです。私は、死んでしまったのです。あれ?でも、意識があるってことは助かったのかな?
「おぉ!しかも、体が動く!」
なんと、3年前のように体を動かせるようになっています!
私は腰を捻ったり、足の指をグーパーしたりして、どこも異常がないことを確認します。
「完治したってことなのかな?死んじゃったのは勘違いで…」
仮にそうだとして、それならここはどこなんだろう?
動かせるようになった手足を使って周りを探ってみましたが、どうやら私はこの謎空間に包み込まれているようです。
それも、裸で。そう、生まれたてのごとく全裸で。今、気がつきました。
治療に必要だったのでしょうか?
想像していた以上に状況が掴めないので、困りました。
う〜んと考えていると、突然ビリッという音と共に背中にあった謎空間の感触が消えたのです。
「え?ちょっ、うわっ!」
理由はわかりませんが、裂けてしまったのでしょう。
幸い、落ちた高さは1m程で、大怪我にはなりませんでしたが、痛いです…
「っ!…も〜!どうなってんのよ!」
そう言って、目を開けた先に広がっていたのは、鮮やかな緑が広がる森でした。
「………」
目を擦ってみます。残念、変わりませんでした。
なるほど。やっぱり、私は死んでしまっていて、ここは死後の世界なのか。ハハハハハ…ハァ〜。
まあ、現実逃避は置いといて、周囲をもう一度確認することにします。
「なにこれ…繭?あ、蛹かな?」
それは私がさっきまでいた場所でした。
真っ白な細長い袋のようなものが大きな木の幹にぶら下がっています。
「あの中から出てきたってことは私は虫なのかな?ま、まさかねぇ…」
急いで自分の体を確かめます。
手足は当然のこと、顔の造形も13歳の頃と変わりません。体に関しては、つるつるぺったんです。
「……え?」
ただ、異常な部分もありました。あるべきものはちゃんとあったのです。
ただ、ある筈もないものもありました。
頭に一対の触覚と、背中から広がる大きな翅がそこにはありました。
「うわぁ、ほんとに私の体の一部なんだ…すごい、ちゃんと感覚がある…」
おそるおそる、触ってみたが、先っぽの方まで感覚があり、今までなかった部位なのでぎこちないものの、動かせもする。
ここまで来ると、さすがに私も完治したとか、死後の世界だとか、そういう次元の話ではないと気づきます。
いや、どちらかと言うと、死後の世界に近いのでしょうか?
最後の意識は死ぬ寸前。目が覚めると見知らぬ場所と、ありえない体の変化。
「これはもしかして転生なのでは?」
病室で読んでいた本の中には、もちろん異世界転生系もありました。
今の私の境遇は、まさにそれです。
う〜ん…憧れてたけど、いいなぁと思ったことはあるけど……。
「うぅ…じゃあ、私って本当に死んじゃったんだ…」
13歳で死を経験し、気がつけば転生って、私の人生は波乱万丈すぎないかな?
初投稿なので、緊張します…