勉強会
破壊神選抜のゲームに参加させられた日の昼過ぎ、僕は幼馴染みの家でいつもの三人で勉強会をしていた。
僕は今朝、右手の甲に刻まれた10画の刻印を隠す為に手袋をしていたが、小学校からの友人である陣内渥人には不自然に思われたようだ。
「浩樹、何その手袋。」
「いや、これは・・・」
すると、僕の生まれた時からの付き合いの幼馴染み、高梨佳子がフォローしてくれた。
「そっとしてあげなよ。大体、役作りとか言って、変な格好ばっかしてる渥人に言われたくないでしょ。」
「なっ・・・」
「あはは。渥人、演劇部の看板役者だもんね。」
うちの高校、天賦ヶ丘学園は特別な才能を持った生徒のみが入学出来る、一風変わった学校だ。
中でも僕らS組はSランク、すなわち、今のところは右に出る者が居ない領域のスキルを持っている。渥人はSランクの演技スキル保有者だ。
「あ、そうそう。部活と言えば、今日、剣道部で不思議なことがあったの。」
Sランク剣術スキル保有者であり、剣道部のエースである佳子が話を始める。
「午前の稽古でね、試合したんだけど、一年の恭子ちゃんが急に凄く激しく攻めて来たの。まるで理性を無くしたみたいに。普段は大人しいのにどうしたんだろう。」
理性を無くした?ふと、《イレイズ》が頭をよぎる。特定の何かを消せる刻印であれば、理性を消せてもおかしい話じゃない。
考えていると、佳子の携帯が鳴る。
「もしもし。え?夕飯の買い出し?分かった。」
佳子は電話を切って言った。
「ごめん、すぐに帰ってくるから二人で課題進めてて。」
佳子が出ていくと、渥人が話しかけてきた。
「浩樹、手を組まないか?」
「え?」
一瞬、何を言っているのか分からなかったが渥人は一切れの紙を取り出した。
「警戒を消す《イレイズ》?」
「ああ。今は肌色の絵の具で隠してるけど、俺もあのゲームのプレイヤーだ。で、その手袋の下は《イレイズ》だろ?」
「うん。だけど、手を組むってどうするの?」
「取り敢えず、一年の武田恭子が理性を消す《イレイズ》を持っている可能性が高い。そいつを脱落させる。」
「相手はうちの剣道部だよ?勝てるわけないだろ。」
「俺が《イレイズ》で警戒されない状態になる。あとは、ナイフで一突きだ。浩樹は何を消せる?」
「一日分の記憶だけど。」
「じゃあ、失敗したときの記憶消去を頼む。俺の《イレイズ》は、相手に知られていると効果が弱くなるらしいから。」
こうして、僕と渥人は協定を結んだ。