今度はお前がテンプレ娘か
流れる風景。高速道路に乗り、なかなかの速さで景色が飛んでいく。もちろん遠い方の景色はあまり変わらないが。
隣を見ると後ろを向いてカードを構えている滝本がいる。ババ抜きですね?
「さあ、どっちがババだ?負けたら……わかってるよな?」
残り二枚。片方のカードを引きやすいように少し飛び出させて持っている。けれど、そんな工夫をしたところで野生の勘には勝てなかった。
わかる、野生の勘には俺も頼ってるから。シックスセンスってやつ。主に危機回避用。時々効かなくなるアレ。
「……こっち!!」
「…っだぁ!!くそっ、また俺の負けかよ」
「貴方、結構わかりやすいのね」
まずはおさらいから。
ババ抜きで負けたのが滝本賢太。ギャルゲでいう親友ポジションが似合いそうなこいつは実際かなり都合が良くて情報も持ってる使えるやつ。人好きする顔に笑うと明るい、いわゆるリア充だろう。
次にババ抜きに勝って景品のお菓子を馬鹿みたいに食べている女子。前回では吸血鬼もどきなどと呼んでいたが、名前は多々良暦というらしい。小動物のような見た目に反して既にかなりの量の菓子を胃袋に収めている。雰囲気から察するに、馬鹿だ。
最後に、教室で俺の隣の席に座り、今現在は後ろの席に座り、本を手放さない女子。名前は紫凛子。言葉遣いは冷たい感じがするが、単に人付き合いが得意ではないと察する。コミュ力の高い、多々良と滝本にとっては特に問題はない。俺?ノーコメントで。
「俺が弱いっていうかさ、日比野、お前強すぎね?」
「そうだよ、ひびっちだけだよ?負けてないの!もう一回やろっ!」
既に、ババ抜き、ジジ抜き、ブラックジャック、大富豪、神経衰弱、七並べと一通りのトランプゲームをやったが未だ無敗の俺。
そんな俺を紫はイカサマをしていると思っているらしく、見抜こうと躍起になっている。言葉にはしていないが、目がものを言うって状態だな。
「やってもいいけど…そうだな、じゃあ次最下位の人は、自分の一番好きなお菓子を一位に食べさせるってバツゲームでどう?」
「「のった!!」」
「…いいわよ」
賛成三、反対ゼロ。決まりだな。
「ゲームは…そうだな、トランプは一通りやったから、ウノなんてどうだ?」
リュックに入っていたウノを取り出して、みんなの前に出す。
ありがとう風音、お兄ちゃんのことをちゃんと考えて準備してくれて。
一応言っておくと、俺は準備を自分でしようとした。けれど途中で気づいたんだ。
『準備ができてなきゃ、行かなくて済むんじゃね?』
そう思った俺は前日にも何もせず、いつも通りだらだらしていた。
けれど当日。つまり今朝。妹が出て行ってから珍しく姉が起きてきた。
『これ、風音から。お前のやつだ。私はもう一眠りするからな、ちゃんと行けよ』
渡されたのは肩がけの大きめのバックに手で持ち運ぶ用と思われるリュック。
俺は理解したね、できる妹に涙が止まりませんでしたよ。
パパッと配り終えるとウノの開始だ。もちろんイカサマなんてしていない。配ったのは俺じゃなくて滝本だしな、手の出しようがない。
ドローカードばかりの手札。あるよね、こういう時って。
勝負は進み、一番最初に抜けたのは紫だった。勝ったのにも関わらず、何故だか俺の方を見て眉をひそめている。なーぜー?
手加減したわけじゃないし、そもそもウノで手加減なんてできるほど器用でもない。
「ドロー2」
「またかよっ!」
滝本ばかりにドローさせているのも気のせい。たまたま次がお前の番なんだもん、仕方ないよね?
「うーん、じゃあ、リバース!」
「へっへっへ、俺の番か、くらえ日比野!!ドロー4!」
「ドロー2」
「あ、私も」
「なんでっ?!お前ら仕組んでんだろ!」
再びドローが滝本に直撃。多いな、お前。そして馬鹿だな、お前。
そんで紫さん?本を持っているけど読んでないのバレバレですよ?
俺の一挙手一投足を見逃すまいと見ている紫さんには悪いが、これでおしまいだな。
「リバース、ウノ」
俺の手に残っているのは黄色の5。
次は滝本の番だが、あいつの手札にドローがあっても直撃するのは多々良さんだ。何故かって?彼女はドロー系の手札を持ってないから。なんでわかるのかは普通にカードを数えてただけ。超能力?何それおいしいの?
「頼む多々良!後は任せた!」
滝本は迷わずドロー系を出す。最後のカードの色は…黄色だ。
「えー、持ってないよー」
多々良さんは山札から8枚引いて、がっくり。惜しかったな、後3枚だったしな。
「マジか、でも日比野が黄色じゃなければ…」
「あがり」
「マジかよ…」
「えっ、じゃあ、たっきーと一騎打ちだね!」
勝てなくても負けなきゃいいって楽だよ。初めから一位を狙っていたわけじゃないので悔しくない。
「ねえ、ちょっと」
「? なんでしょう?」
お菓子をあげなくてよかったとたまごボーロを口の中の前歯でざりざり。これ、結構好き。
「貴方、本当にイカサマしてないの?」
「カードを覚えるっていうのがイカサマにならないんだったらしてないでふ」
パクリとクリームパンを一口。甘いなあ美味いなあ。
あと、みんなと会話する中でどのカードを出させるかとかを操作してなければイカサマなんてしてないですよ。
「みなさん、休憩なので、トイレ行きたい人は早めに行ってくださいねー」
バスが止まった。ついでに紫さんの表情も止まった。この人はもともと無表情っぽかったけど。
「滝本、俺、お菓子買ってくる」
「おー、ってまたドローかよ!!」
「へっへっへ!私の勝ちだね!!」
どうやら最下位は滝本、一位は紫さんとなったらしいな。
バツゲームに関わりたくない俺はさっさとバスを降りてお菓子を追加すべく、売店へ。ついでに外の屋台っぽいところでソフトクリームを購入。美味い。
待てよ、先にトイレに行った方が効率が良くないか?そうしよう。
パクリとソフトクリームを平らげトイレに。中には高校生っぽい人がたくさん。同じ高校ですものね。
用を済ませ、気を取り直して売店へ。ご当地限定ものはとりあえずキープで。なに、ハバネロ味だと?……リリース。
こんなもんかな?
カゴの中には種類を問わずお菓子が大量。チョコレート系は頭にくるからね、嫌いじゃない。
お金の心配はしない。姉の仕事の手伝いで結構貰ってるからね。実入りのいいバイトですよ。しかもお手軽。
周りの高校生が俺に注目している?バカ言え、注目しているのは俺の先の人だろう。なあ?あれ、誰もいない。
飴を一つ口に放り込むと売店を後にする。
補給完了であります。本艦はこれより、規定のルートに沿って帰投いたします。
『ちょ、ちょっと、なんなの?』
帰投いたし…ます。
『やめて!』
……………。
黙って声の聞こえる方に移動。ちょっと建物の陰になって人気が少ない…もう人気が少ないのやめない?ほんと設計ミス。
俺の目に映っているのは、ちょっと大きめのデブとモブ二人。プラス紫さん。
わかる、わかるよ?その子もちょっと見ないくらい可愛いもんね?
可愛いというよりは美人系で、髪は長くて結構胸が大きい。推定E。姉レベル。
だからってそんないきなり腕掴んでとか…ね?いい子はおねんねしようか。
「可愛い顔してんじゃねえか、ちょっと付き合えよ、な?いいじゃねえか、悪いようにはしねえってぶっ?!」
めんどくさいので顔面にスタンプ。やや本気。だってバスの時間に間に合わないからね。
「大丈夫、紫さん?怪我とかない?」
「…え、ええ」
沈んだデブを見つつ顔を少し引きつらせている。しょうがないじゃん、急がないと間に合わないんだから。ちょっと整形しただけだよ。
「あっ、兄貴!」
「お前、いきなり出てきてなんなんだよっぶはあ!!」
モブその一は放っておいてその二に石を投げつける。理由はその一より俺に近くて当てやすかったから。深い意味はない。
「はいはーい、整形整形」
怯んだその二の顔に膝を入れ、顔を上げたところに肘を入れ、腹を蹴り吹っ飛ばす。
「お、おいっ?!」
「あー、もういいよね?こっちは急いでるからさ、ね?」
だからお前もいっとこうぜ?って意味で言ったんだけど、なにを勘違いしたのかモブその一はその場で土下座。
「すんませんっ、ちょっとした出来心だったんです!!だっ、だからもうっ……」
すんませんっ、下を見てませんでしたっ!
丁度いいところに頭があったので踏み抜く。しばらく頭から下は暴れていたけれど、何十秒かしたらそれもおさまった。
暴力反対。僕がやったのはスタンプと徒歩と……なんだっけ?
置いておいたお菓子の入ったビニール袋を回収。よかった盗られなくて。盗られたら取り返さなきゃいけなかった。
「バスの時間に遅れたいんだったらそこでそうしてていいですけど」
行かないの?と紫さんを見る。
「え、ええと……後でちょっと話をさせてちょうだい」
頭が痛いのかこめかみ辺りを抑えてついてくる。俺の知っている限りだと腕の方が痛いと思うんだけどそうでもないのかな?
追記。バスの時間にはギリギリ間に合いませんでした。でも、滝本くんのお陰で、バスには乗ることができました。先生には怒られました。
ほんっと、テンプレってだいっきらい!