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超能力者の恋愛模様  作者: くろすく2
8/13

時間は飛んで、あの日が来た




ああ、嫌だ行きたくない。どこにって?もうわかってるんだろ?

嫌よ嫌よも好きのうちだなんてそんなはずない。嫌なことは嫌なんだよどうしてわかってくれない?


土日は家でごろごろしつつ課題を終わらせ、月火で学校へ行き、気づけば水曜日の朝。


時が流れるのは早いものだ。なんてよく言われるけれど、まさにそれが俺の身に起こっている。ああまだ日があると遊んでいたら夏休み最終日になるあの気持ちと同じ。


目は覚めているけどめんどくさいので布団から出ることはせずに動かないでいる。まだ少し肌寒いですから。決してサボろうとかそんな気持ちはカケラもないですから。だからやめて、俺から布団を奪おうとしないで!


「いいから起きてよお兄ちゃん!!早く学校行かないと学校から出るバスの集合時間に間に合わないよ!!」


いいよ。


なんて返事をしようものなら容赦無く姉を目覚めさせることになってしまうので、仕方なく布団を手放す。


急に手を離したから妹が転んでしまったがそれは仕方のないことだ。


妹のスカートの中が見えたところで何の問題もない。だって兄妹だもの。

姉の部屋の中を見ようものなら問答無用で死あるのみ。だって姉弟だもの。


転んだ妹を手助けすることもせずさっさとリビングに向かう。朝はコーヒー(砂糖大量牛乳マシマシ)に限るな。


妹の用意してくれた朝ごはんを食べつつ、ニュースを見る。


『本日未明、〇〇県〇〇〇〇市で二十代女性の死体が発見されました。現場には凶器と思われるナイフが残されていて……』


丁度スプリングセミナーで行くところじゃん。もうわかるよ次の展開が。スタンガンはどこだ?勝手に拝借したのがまだ残っているはず。


「風音、この前持って来たスタンガンは?」


「お母さんが捨ててたよ。ていうかお兄ちゃん私に言うことないの?髪ボサボサになっちゃったし!」


「マジかよ、俺の武器が……まあ、なくてもいけるか。てか、そうそう殺人鬼と出会うことなんてないか」


スタンガンがないとなると……拳があればいけるか?いやでも証拠がなあ…。


「お兄ちゃーん」


「ん? ああ、ごめんな風音、今結ってやるから」


ボサボサの髪をそのままにした風音がとことこやって来て隣の椅子に座って背を向ける。

ボサボサの髪だったが櫛を通すとすぐにまっすぐになり、引っかかるようなことなんてないほどのさらさら感を出した。


「んふふ、よろしくお願いします」


「今日はどんなのがいいかな」


ニュースが映っているテレビに目を向けると、まだ七時であることに気づく。

おかしいな、集合時間は九時だったのだが?


「なあ風音」


「なに?」


「…今、何時だ?」


「お兄ちゃん時計も見れなくなっちゃったの?七時過ぎだよ?」


「お前、俺のことなんて言って起こしたのか覚えてるか?」


「バスの時間に遅れちゃうよーって嘘つきました!」


えへへ、とこちらからは顔は見えないが笑う声が聞こえる。まったく、仕方ない。


「今日はパイナップルヘアーだな」


「えっ、うそっ」


ヘアゴムを咥えるとするすると髪を頭のてっぺんに集める。妹が何か言っているが聞こえないフリ。こら、暴れるんじゃないわ!


ほんの数十秒で髪を集め終え、ささっと結び終える。我ながらなかなかのパイナップル具合だと思うんだが。


ポケットからパシャりと風音の後ろ姿をスマホに収め、とりあえず姉に送信。深い意味はない。うなじが美しい。


「ちょっとお兄ちゃん!こんなのやってたの幼稚園くらいまでじゃん!」


妹はそう言って俺の渾身のパイナップルヘアーを解く。ああ、あんなに(うなじが)素晴らしかったのに。


別に妹のうなじに興奮する趣味はないが美しいものは美しいだろう?人類皆平等。ただし場合による。


「仕方ないなあ」


俺は妹からヘアゴムを奪い取ると再び髪を結び直す。髪を頭のてっぺんの後ろ寄りに集めて一つ結び。そこからお団子ヘアを作って良い感じに崩す。もちろん触角はちゃんと残します。怒られるので。


「ほら、こんな感じでいいか?」


妹に手鏡を渡して俺は食べ終わった自分の食器を洗うためにキッチンへ。


「流石お兄ちゃん!超上手!」


「それ以上崩すんじゃないぞ、俺の完璧な比率の崩し方なんだから」


「今日は体育もないし大丈夫! あ、私今日日直だから早く行かなきゃなんだ〜」


食器洗いありがとう、それじゃあ頑張ってね!と言い残して妹は学校に行ってしまった。


まさか、そのために俺を早く起こしたのか…?そうなのか?違うと言ってくれ妹よ!





「それじゃあ点呼とりますよー?」


現在地、学校。


動きやすい私服に着替えてバスに間に合うようにやって来た新入生の俺。私服なのは服装の指定がなかったから。どうやらスプリングセミナー期間中は私服OKらしく、みんな普通に私服を着ている。よかった、制服着てこなくて。


みんなが集まってるこの状況、なんだか他の人と違うことをしてみたい気持ちに駆られるな?目立つからやらないが。


荷物は既にバスに積んだし先生の話が始まるまでやることがない。どうしたものか。


「日比野くん」


「はい?」


「点呼よ、それじゃ次…氷見さん」


「はい」


いつの間にか先生がいてすぐ去っていった。ていうか後ろの女子氷見っていうんだ。前の男子の名前は知らない。

飛んだ時間の中では自己紹介してたんだけどね、生憎と記憶に残りませんでした。


キョロキョロと周りを見ていると、目があっちゃいけないのと目が合ってしまった。まずい、石にされる!


「それでは初めの挨拶、橘さん、お願いします」


「はい」


目が合ったのは、橘さんだ。なんであの子はみんなの前に出る機会が多いんだよ。そしてどうして俺をすぐ見つけるんだよ。


「今回のスプリングセミナーでの目標は、みんなと仲良くなる、ということだけではなく、これからの学校生活で私達生徒が最も疎かにしてはいけない勉学に関することを学ぶことになると思います。みなさん……」


意識を絶った。聞く必要を感じられないのである。なぜなら俺はスプリングセミナーとかどうでもいいから。Wi-Fiがあれば生きていけるから。


ぼーっとしていると、話が終わったのか拍手の音が聞こえては流れていき、またまた聞こえては流れていき、気がつくとみんな立ち上がってバスに乗り込むところだった。流石タイムリープだ。余裕。


「バスの席順は特に決まってないので、空いてる席から座ってっていいですよ」


先生がそう言うのが聞こえる。やられた。だったら先に入っておけば良かったぜ。そしたら好きな席を取れたのに。


黙ってバスに乗り込むと真ん中よりやや後ろの方で滝本が手を振っている。

素早く他の席を確認して、残りの人数を確認。この間約二秒。ちっ、どうやっても一人席が生まれん。


諦めて滝本の隣に座る。


「はよ、日比野。今日も眠そうだな」


「ああ、妹に早く起こされたからな」


「へえ、お前妹いるんだ。可愛いか?」


「お前には勿体無いくらいな」


俺はそう言いながら、リュックからペットボトルを取り出し一口。うん、水(りんご味)だ。


ついでに取り出した、棒状のクッキーにチョコレートを塗りたくったものをポキリ。

おやつはいくらまでですか?はっ、そんなことを聞くのは小学三年生までだ。持てるだけ持つのが俺の流儀。二本ずつポッキリいくのが俺のやり方。


「おー、いいの持ってるじゃん、もーらいっ」


にょきっと後ろから手が伸びて来て俺の箱から二本取っていく白い手。二本か、やるな。


というか誰だ?初対面のやつが持っている菓子を取るだなんて信じらねえ野郎だ(手は女だったが)。


身をよじって後ろを向くと口からチョコの牙が生えている吸血鬼もどきが一人、隣にはお馴染みの本を読んでいるあの女子。そろそろ名前を教えてよ?


「貴様、名はなんと申す?」


「んー?自己紹介したのに覚えてないの??」


「某、興味のないものは覚えぬ故」


「そっかそっかー」


そう言って吸血鬼もどきはもう一度俺の箱から奪い取ろうと……させねえよ?!


さっと手を避け箱を閉じる。残りは俺のもんだ。施しの精神を持っているやつから死んでいくんだよ!


「あー、ずるい!」


何を言っている?これは俺のものだぞ?

パカリと箱を開けて、ガラガラと棒を咀嚼。


「あっ…卑怯者!!」


馬鹿め、勝負は俺がこの棒を買った時から決まっていたのだ。


と、もっしゃもっしゃ食べていると、目の前に吸血鬼もどきの顔が迫って来ていた。どゆこと?


「うわっ、日比野、やるなあ」


滝本の声が横から聞こえる。


「貴方たち、少しは静かにしたら?」


少女は本から顔を上げずに言う。どうでもいいがお前これが初めての言葉だぞ?


「むっふっふ〜、いただきっ!」


パキリと俺の口から飛び出ていた棒を奪い取った吸血鬼もどきは去っていった。

お前、口で奪ったんだな?そうなんだな?


もそもそと残りを食べて飲み込むと、俺は今の行動を考えて…無視することにした。触ってもいいことないから絶対。


「それじゃあみなさん、出発しますよ〜」



それはいい、それは良いんだけど…。



結局名前、なんなの?



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