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超能力者の恋愛模様  作者: くろすく2
12/13

平和って素晴らしい




「さて、みなさんは中学校までで多くの英単語を目にして、声に出して読んできたと思います。けれど、これから受験にかけて、より多く語彙を増やして表現を豊かにしていくことが大切になってきます。

中学までとは違い、正しい文法を覚えていないとテストでは点が取れません。


会話をする時に通じるから良いだろう。大体のニュアンスが分かっているからこんな感じの和訳で良いだろう。


このように曖昧であやふやな感覚ばかりに頼っているようでは、試験では評価されません。ですからみなさんには長文を読むための語彙力をつけ、そこから徐々に手を広げていってほしいと思います。


はい、それでは、テキストの九ページを開いてください」


長々と大して面白くもないお話ありがとうございました。テキストの九ページを開きます。


パラパラとめくっていったところ特に難しいとも思えない長文がずらり。絶滅危惧種に関する話や地球上にある理解しがたい危険な場所についての話。興味ある人がいたらごめん。でも俺は興味ゼロでやる気ゼロ。


「それでは向井くん。一行目からお願いします」


「え、えーと……」


哀れ向井くんとやら。音読のためだけに席を立つような苦労を強いられるだなんて。俺も指されたら立つけどね。生徒は教師に逆らえない。


あまり流暢とは言えないがまあまあな早さで読み終えた向井くんは座る。英文を読んだ後の流れは決まってる。大抵の人が予想できる。和訳だな。


「それじゃあ、多々良さん。和訳の方をお願いします」


「は、はい」


少し高めのクセのある声。相変わらず小動物っぽい子だな。食堂で会った時も一心不乱にカレーと格闘してたし、本能に忠実なのかね。


俺がぼーっと多々良さんを見ていると、隣からノートの切れ端が机の上に放られた。誰だよまったく、俺の机はゴミ箱じゃないぞ?

送り主の方を見ると、紫がつまらなそうな顔でこちらを見ていた。


俺も同じ気持ちなのでこくりと頷いて消しゴムで机を擦り練り消しを作り始める。わかるよ、ヒマだもん。


追加でもう一枚切れ端が飛んできた。どうでもいいけどお前のそれってノートの無駄遣いだよ?ノートってそういう風に使うもんじゃないんだよ?やるならメモ帳。


ふっと息を吐いて消しカスを飛ばす。あ、思ったより飛んだ。次はこの練り消しもどきをデコピンで……くらえっ!よし、命中っ!


「………私のメモを読まないで代わりに消しカスを飛ばしてくるなんていい度胸してるわね」


聞こえない聞こえない。授業中は私語厳禁なんだよ、知らないの?喋ってるやつは極刑。つまりご指名からの貴方今の話聞いていた?という流れが生まれる。


け、けどまあ、メモを読むくらいだったらいいかな?いいよね?決して隣の雰囲気に呑まれたわけじゃないよ?ちょっと隣から冷気(霊気)が漂ってきてるだけ。


最初に飛んできたメモを開くと、冷気が止まった。ついでに俺の思考も止まった。あまりにどうでも良すぎて。


『随分暦の方を熱心に見ているようだけれど、貴方、ああいう子が好きなの?』


偶然そっちに顔が向いているだけで別に見てたわけじゃないしな。あえて何かを言うとしたらああ頑張ってんなあくらいのもんだ。


大してなんか言うこともないのでチラリと紫の方を見ると、なんだか少しだけ頬が赤い気がしなくもないような気持ちになるようなならないような。ところで君は決してこちらを向こうとはしないんだね?

まあいいか、もう一つのメモを開く。


『私とは会話もしたくないってことかしら?』


べ、別にそういうわけじゃないんだけど!授業中だし、話してると目立つから話さないんだからね!……だからそんな拗ねた感じ出すなよ。めんどくさいから。


もらったメモの空いているスペースに、また後で嫌でも話すことになるんだからいいだろ?と書いて送り返した。


それを読んだ紫はすぐに何かを書いてポイと紙を放ってきた。これが青春だとか思ってる頭の沸いてるやつはくたばればいいんだ。実際はただ教師に見つかるかもしれない恐怖との戦いや勉強の妨げになり、いいことは何もないからな。


『嫌なの?』


おいおい、とうとうメンヘラ化か?勘弁してくれよ。お前と話すのが嫌かって?嫌だよ。理由はその胸に手を当てて考えてくれ。もちろん思い当たることがあったら改善して是非とも俺には知らせなくていい。


俺は黙って頷いてノートに教師の言ったことを一言一句逃さずに書きなぐる。

今日はまだ授業に慣れてないでしょうから軽めにやっているけれどこのくらいのレベルについてこれないようならこの学校ではってなんだこれ。


くっそつまらん内容だったので消しゴムで消す気にもならずにノートを破り取ってくしゃくしゃに丸める。はは、作家の原稿(失敗作)みたいだな。


「貴方がそんなにひどい人だとは思わなかったわ」


ふと聞こえた声に俺は思わず笑う。紫も笑っている。俺がひどいのは今に始まったことじゃないだろうに。


「それでは次の訳を……日比野くん、お願いします」


おい紫、てめえのせいで指されたんじゃねえのか?ああん?なに素知らぬ顔でノートとってんだよ。


…まあ、紫とアホなことをしていたから教科書のどこを読んでいいかわからないだなんてそんなことは俺に限ってありえない。パパッとね、やっちまえばいいんですよ。


「あの日ジョンにとって大切だったのは、約束した待ち合わせの場所に時間に間に合うように行くことであって、天気がどのようであるのかは問題ではなかった」


「…はい、よくできました。日比野くんはできていましたが、ここの文では………」


おいおいジョン。いつの間にこんなヒューマンドラマというか感動を誘うというか、あの時こうしていれば系の話になってんだよ。最初はサッカーの話だったからてっきりスポーツ系かと思ってたわ。


気になってしまったのでよく読んでみると導入がサッカーなだけで、中身はそれによって繋がっている二人の男の子の友情の話だった。お互いに名前しか知らない二人だったがサッカーが二人を繋いでくれている…的な。


まあこういう話は嫌いじゃない。恋愛ものみたくどろどろになるわけでもないし、誰しもあるだろう自分の後悔している出来事に関してそれを刺激してなんだか良い話っぽくでっち上げる上手い話だ。今更だけど俺は性格が悪いのかな?


「おい紫、お前のせいで指されたぞ」


「私の?馬鹿なことを言わないで。貴方がきちんと先生がどこを見ているのかを把握していれば指されることはなかったと思うのだけれど」


「いーや、そもそもお前が俺の机にメモなんか飛ばしてこなきゃ会話だってしなくて済んだんだからお前のせいだな」


「それはそうだけど、応じたのは貴方でしょう?そんなに嫌だったのなら無視すれば良かったじゃない」


「じゃあお前、俺が無視してたとしてメモ飛ばすのやめたのか?」


「………それは少し自信がないわね」


「ほらやっぱお前のせいじゃねえか。けっ、お前と関わってもろくなことがないぜ」


あーヤダヤダ。早く授業終わんねえかな…。って終わったところで紫に付き合わなきゃいけないから楽にはなれないんだったな…。


俺の高校生活始まったばかりなんだけど、平和っていつ来るのかなぁ…。

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