守ってくれてる?⑤
ハローワークの入り口に、掃除してる人がいた。
『ご苦労様です』と、声をかけたら、掃除してる人が振り返った。
あれっ?彼女、転職前の会社でパートしてた人だ。
彼女も私を覚えていてくれた。
『仕事辞めたのか~。まあ、あの会社は有休を1日もくれなかったからねえ』
『確かにね。いつから、ここで掃除してるの?』
『あの会社を辞める前に、旦那がガンになってね。だから辞めたの。で、一年後に亡くなって、それからだから…5年かな?』
『そうか~。大変だったんだね』
そう話したら
『私はもう働いてるから大丈夫。大変なのはユキだよ!就活頑張ってね』
彼女は笑顔で掃除の続きをし始めた。
ユキ…『幸』と書いて『ユキ』と読む、私の名前。
今のところ、全く幸せじゃないんですけど。
自分の名前を書く度に、ため息が出る。
なかなか思うようにいかない就活。
でも、前向きに探していたら、きっと仕事は見つかる。
そうして、私をウツにした人より幸せになる❗
そう決めた❗
転職前の職場、転職後の職場…どちらの職場でも、LINEしたりして親しくしていた同僚がいたけど、誰ひとり連絡してこない。
LINEくれた友達以外は。
人ってそんなもんだよね。
親しくても、たかが同僚。辞めたら終り。
そう思いながら、また、いつもの公園に来た。
北の方は雪らしいけど、今日、この街は、ぬるい風が吹いてる。
この時期にしては気持ち悪い風。
温かい缶コーヒーを持って、街を見渡せるベンチに座った。
『今日もお疲れのようですね』
えっ?急に声をかけられて、まわりを見ると、隣のベンチに、あの宮司さんが座っていた。
そして、宮司さんの前には犬。
レトリバーと柴犬のミックスみたいな犬。
『宮司さんのワンちゃんなんですか?』
『犬』って言うと、怒る人がいるから、私は『ワンちゃん』って言うようにしてる。
『犬じゃありませんよ。狐です』
き…狐?
いや、どう見ても、レトリバーと柴犬のミックスでしょう。
狐ってのは、耳が立って、顔が尖っていて、尻尾は太くて…
私が、まじまじとワンちゃん…いや、狐を見ると
『ワン!』と、ひと声。
ほらね~。やっぱり犬。
稲荷の宮司さんの身分を利用して、私をからかってるんだ。
『狐なのに、ワン!ですか?』
ちょっと嫌味っぽく話したら、宮司さんはワンちゃんという狐を抱き寄せ
『この子は、犬に育てられたんですよ。うちの老犬に。狐らしくないのは、きっと、犬の血が入ってるのでしょう』と。
宮司さんが真面目な顔して話してるから、つい信じてしまいそうになる。
でも、宮司さんが何と言っても、私には犬にしか見えない。
『じゃ、コン太、戻ろうかねえ』
マンガみたいな名前のワンちゃん。もしくは狐。
宮司さんは、のんびりと立ち上がった。