幸せ
ユキのところにも、コン太は幸せを運んで来てくれました。
次の日、午前中に社務所に向かった。
無職で、いつ家賃滞納になるか分からない人間が、ハローワークに行かずに社務所って…
自分でも呆れてしまう。
でも、コン太の散歩がしたい。
『こんにちわ。今日もコン太ちゃんの散歩していいですか?』
社務所に声をかけて、コン太を借りる。
コースは、公園は毎回同じ。
公園からが違う。
今日は、公園の別の入り口の階段の方へ向かう。
階段を降りて、仕立て屋さん、自転車屋さん、銭湯、誰かの家の前。
ちょっと座っては、歩く。を繰り返す。
そうして、昼過ぎまで散歩した。
…………………………
コン太の散歩は1週間続いた。
こうなると、なんだか自分ちのコン太に見えてくるから不思議。
散歩の後には、ハローワーク。
就活もちゃんとしなきゃね。
今日は、ようやく、自分に合いそうな仕事を見つけた。
市の文化財の保護施設の補助職員。
文化財とか、伝統とか好きだから、たぶんやっていける。
応募を申し込んで家に帰った。
…………………………
たいした資格も無い私が奇跡的に補助職員にも合格した。
文化財資料を作ったり、整理したり。
たまに、古い民家から昔の生活用品を運んできたりもする。
フルタイムじゃないのは残念だったけど、仕事が終わってからコン太の散歩が出来る。
散歩も、半年続いた。
仕事も楽しくやっている。
桜が葉桜になる頃、コン太を育ててくれた老犬が亡くなった。
コン太も悲しかったらしく、しばらくは散歩も公園内だけだった。
それでも、少しずつ散歩コースが前と同じになってきた。
そうして、小さな幸せを運んで歩く。
私が就職出来たのも、コン太のおかげかも知れない。
あの失礼な男の子は、あれ以来会ってない。
『コン太、彼氏が欲しいんだけど』
願いがだんだんと図々しくなっていく。
そんな私を、コン太は無視して歩く。
そういえば、コン太は女の子だった。
私の彼氏より自分の彼氏だよね。
コン太…これからもよろしくね。
就活しながらコン太の散歩。
幸せを運んでくれるコン太は、神社の狐だったのかも知れません。