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08.幸せ者

 一通りの買い物を終わらせた後、私たちは近くにあったファストフード店で食事をすることにした。私たちは少しでも店内の喧噪から離れるため、二階のなるべく端の方の席を陣取って食事をしていた。

 

 暑さと疲れでちょっとバテ気味な私をよそに、やたら元気いっぱいの麻衣が口いっぱいにハンバーガーを頬張っている。

 

 「なんかさ、こういうところで食事してると女子高生って感じしない?」

 

 ゴクリと小さな喉を鳴らしながらハンバーガーを胃へと押し込むと、なぜか目を輝かせながら私に尋ねてくる。

 

 「……私たち、女子高生ですけど」

 

 私はセットについてきた塩気が強いポテトを囓りながら、少しあきれ気味に反応してしまう。――なんだか知らないけど、やたら元気な彼女について行く自信がだんだんとなくなっていた。

 

 「ま、そうなんだけどさ」

 

 そんな私の冷め切った反応を見ながら軽くクスリと笑みを浮かべると、再び残ったハンバーガーを頬張り始めた。

 

 一通り食事も終わり、一息ついている頃。知らない間に人が開けたのか、あれだけ喧噪にあふれていた店内もだいぶ落ち着きを取り戻していた。

 なにげに窓から外をのぞいてみる。楽しそうに何かを話すカップルや友人同士、家族連れなどで相変わらずごった返していた。

 そんな外の喧噪とはかけ離れた、私たち二人の間だけで流れるまったりとした空気。そんな空気すら、どこか居心地がよく感じられた。

 

 「……懐かしいな」

 

 ぼんやりと外を眺めていると、麻衣の唇から突然言葉がこぼれ落ちた。反射的に目線を彼女の方へと向ける。そこには、手に頬を預けながら、ぼんやりとした表情を浮かべながら、どこか遠くを見るような目で景色を眺めている彼女がいた。

 しつこいぐらい明るかった彼女とは一変して、哀愁すら感じさせる彼女の表情を見ると、まるで別人のようにすら思えた。

 

 「懐かしいって……なによ、いきなりしんみりしちゃって」

 

 ――何を焦っているのだろう私は? 気づいたら自然と口を尖らせ、麻衣に突っかかっていた。懐かしいって、何が? ……彼女の言っていることが私には少しもわからなかった。

 

 「……ふふっ。あやちゃんったら、本当に忘れん坊さんなんだから」

 

 麻衣は姿勢を崩すと、空いてる手を持て余したようにストローにかけて、くるくると中の氷を回し始めた。目線は私と合うことはなく、カップの中で静かな音を立てて踊る氷に向けられている。

 

 「ここさ、来たことあるじゃない」

 

 『来たことある』……その一言で、奥底に眠っていた私の記憶が徐々によみがえってくる。あれは――私たちがまだ高校に入る前の出来事だった。

 

 まだ中学生の頃。私たちは初めての繁華街――しかも親の同伴なしの二人だけ――で、遊んだ日。休日の――今日みたいに人混みに飲まれながら、お目当てのアクセサリーショップを見つけ買い物した。その後、あんまりお腹が空いたから帰りにここに寄って食事した。

 

 その日も確か――麻衣が今日みたいにはしゃいでいて。

 

 「……思い出した?」

 

 思わぬ一言で戻された私の記憶。それを見透かすように、麻衣はようやく私の目線と合わせる。そんな彼女に、私はコクンと頷いて返事をすることしかできなかった。

 

 「……あのときも楽しかったけどね、今の方がもっと楽しいよ」

 

 続けて麻衣が話を続ける。

 

 「だから――あまり自分を責めないで」

 

 少し寂しげな雰囲気を含んだ湿っぽい声に出して、彼女はぽつりと言った。――気づいていたんだ。私が……余計な・・・ことを思い出した、ということを。

 

 「麻衣……」

 

 私は何も言えず、ただぽつりと彼女の名前を呼んでいた。――だめだ。私、さっきから彼女に助けられてばかりで……ちっとも彼女のこと――。

 

 「麻衣。あのね、私――」

 

 私の口から言い訳じみた・・・・・言葉が出ようとした――次の瞬間だった。

 

 「はい、これで辛気くさいお話は終わりね! さ、用事も終わったし、かえろっか?」

 

 私の言葉を遮るようにそう言うと、パッと明るさを取り戻すと、自分の分のトレーを持ち先に席を立った。そんな彼女を見ても私は止めることもできず、ただ彼女の背中を一人見送っていた。

 

                     *   *   *

 

 帰りの電車内。

 普段使わない元気・・をいつもより使っていたせいか、彼女は自分の頭を私の肩に預け、スヤスヤと心地よさそうな寝息を立て眠っていた。ほどよく肩にかかる重さが、今は心地良い。

 

 「ふふっ……」

 

 本当に疲れているのか、私の体を枕にしてぐっすりと眠る彼女が愛らしかった。もちろんその愛らしさというのは、妹のような――こんな風に思っちゃ麻衣も怒るかもしれないけど――小さい子供に対する慈愛みたいな感覚に近かった。

 私は何気なく、彼女を起こさないよう頭をそっと撫でる。スルスルと指の間を通り抜ける、柔らかく繊細な髪の手触りが気持ちいい。

 失ったはずの友人が隣にいる。そして、それは私だけが抱いている幻想なんかじゃなく、紛れもなく彼女自身・・・・だ。

 

 彼女が隣にいる。それだけでも十分幸せだった。

 ――幸せなはず、なのに……

 

 「……ごめんね」

 

 気づけば、こんな言葉が自然と喉を突いて声に出た。

 そしてそれは誰でもない――麻衣に対する言葉だった。

 

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