普通に。
わたしが常日頃から思う"普通"について、全てをぶつけたスーパー短い小説です。ちなみにわたしは"普通"って言葉がこの世で1番嫌いです。
「今日から君は噴水だ!」
日めくりカレンダーが、いつにも増して僕を責め立てた。
今日も僕は、アイスブルーのジーンズにノーカラーの色さめたシャツを羽織り、足元には深い青のニューバランスをキメて、少しゴツめの黒のリュックサックを背負う。「普通」を着こなせば「普通」に時間が過ぎて「普通」に楽しいと思っているからだ。いや、正確に言えば、思って"いた"から。
自分をさらけ出せ、とカレンダーが叫んでいる。いつもであれば、別に僕に向けて言われてる訳じゃないし、面白いことを言う人だなあとネタ程度に考えるのだが、当たり前に「普通」を身に付けた僕に、カレンダーは何かを訴えるようだった。
(…なんだろうこの気持ち。めっちゃモヤる。モヤモヤ。つら。)
理由が具体的に湧いてくるでもなく、この気持ちをどこかにぶつけたい訳でもなく、じっとカレンダーを睨みつけたまま、僕は説明できない不快感にふう、とひとつため息を吐いた。ため息と共に、このモヤモヤが外に出ていってくれることを期待して。
しかし現実は、そんなに容易ではない。ため息を吐いた反動で、大きく息を吸い込んだ時、余計な苦しさまでも肺に取り込んでしまった感じがした。後悔した。肺にねっちりと絡みついたそれのせいで、呼吸が浅く速くなってしまった。そうなると、こまめに悪いものを吸収しているかのようで、僕は嫌悪感でいっぱいになる。しまいには呼吸をやめてしまった。やめてしまう、というよりは息を止めて、この今の状況さえもを止めてなくしてしまおうと思った。
気分転換に、コーラ味のグミを噛んだ。ちなみに超ハードタイプ。口を動かす度に、甘さが歯にしみる。どうしてか分からないけど、生きている感じがした。
自分らしく、僕らしく。「らしさ」ってなんなの。僕らしいってどういうこと。いつも使う柔軟剤のフローラルの香りがシトラス系に変わったららしくない?ハンバーガーはピクルスを抜いてもらう派だけど、ピクルス入りを頼んだららしくないの?怒るのは面倒臭いしいつも笑って許すのだけど、僕が怒ったらそれもらしくない?
未だにカレンダーと戦いながら、僕は無表情のままでその場に立ち尽くす。見た目とは裏腹に、僕は確実に追い込まれていた。今まで無意識のうちに溜め込んでいたかもしれない感情を、それでもまだ必死に押さえつけた。
「………prrrr」
と、その時電話が鳴った。
「もしもし。」
「お前まだ?寝てんの?遅刻なんだけど!」
「…まじ?ごめん!今行く!」
「アイスで許す。」
今日も僕は「普通」を着こなして、「普通」を抱えながら生きていくのであった。
(終)