翔太6
翔太は自分と同じミュータントが3人、筒型のエレベータに居る光景に微笑んだ。
ふと、小学校の入学式を思い出す。
翼があるのは、自分1人だった。
育った家は、石川県のゴルフ場や温泉がある山の中だ。
金沢の繁華街から車で1時間の距離。
1学年が50人に満たなくて
2クラスしかない。
翔太は、入学式の日、スターだった。
取り囲まれ羽根に触られた。
一緒に写真を撮りたいと乞われて応じた。
新入生の父兄、教員、給食がかりのオバサン、皆が翔太とのツーショットをせがんだ。
幼い翔太は、嫌と言えなかった。
翼の無い人間達に囲まれて吐きそうになりながらも耐えた。
物珍しいから、見たいんだろう、触りたいんだろうとは既に分かっていた。
何故、逃げ出さなかったのか今でも分からない。
「とりあえず、ライン12、な」
セイジの提案で、1階の食堂に降りる前に
4人のラインは出来上がった。
食堂には先に8人寮生がいた。顔を付き合わせて親交を深めているらしい。
まずは、同じフロアの結束が優先なのだ。
4人がけの丸テーブルが3つあった。
空いてる1つが12階の寮生の席だった。
受付に居た2人の若い女が、料理を運ぶ。
「冷たいドリンクはあっち」
冷蔵庫を指さす。
「温かいのは、こっち」
壁に備え付けてあるケースにペットボトルのお茶とかコーヒーとかが、あった。
「朝食もアナウンスが入ります。指示に従って移動して下さい。飛行訓練の時間制限はありません。自由です。ただし飛行エリアの上限は塀の高さです。横幅はタワーから15メートル以内です。飛行スペースをはみ出すのは不可能です」
とアナウンスが繰り返し流れている。
「3号室のショウタ、まだ飛んでないんちゃうん?」
カニコロッケを頬張りながらカイがボソリと言った。
「うん。寝てた」
デザートのマンゴープリンを喰いながら翔太は返事する。
「飛行スペースから出るとチョーカーに、首を閉められる、」
1号室のラナが、呟いた。
「ヤバイと察知して引き返さない馬鹿は、首絞められて落下。俺がバルコニーから外を眺めてた、午前10時から18時までの間に、2人落ちた」
ゆっくりと、マカロニサラダを食べながら2号室のセイジ、がラナの話を引き継いだ。
翔太は首のチョーカーに手をやる。
成る程、見た目はカッコいいけど、
これは囚人の鎖だったのかと。
旧人類がミュータントを制御するために考えた道具だったらしい。
そこまで警戒していなかった。
まんまと騙された訳だ。
旧人類にも利口なのが居るんだ。
面白くなってきた。
「落ちて、どうなった?」
飛んでる最中に首を絞められたらどうなるのか。
まずはそれが気になる。
セイジは皿からプチトマト2つ、摘まみ上げて床に落とした。
1つを踏みつぶす。
「1人は頭潰れた」
残った1つを拾い上げ、向かいの、カイの皿に投げ込む。
「うわ、何すんねん」
カイは驚く。
当然、怒るだろうと翔太は思った。
でも、カイは笑ってる。
「もう1人の馬鹿はコイツ」
セイジは笑ってカイを指さす。
「俺が助けてやったから、生きてる」
カイは、タワーの屋上に着地し、更に上へ飛んだ。
そして塀の高さより上に行ってしまった。
「ショウタ、心配しなや。普通は、その瞬間にヤバイと分かる。俺は首に無駄な肉があるから、一瞬遅れただけや」
カイは、許された飛行エリアを超えた瞬間、
チョーカーが首を締め付けるのを感じた。
呼吸できない。
意識を失い、落下した。
一部始終を、
運良くセイジがバルコニーから見上げていた。
セイジは、反射的に飛び出して、落ちてきたカイを受け止めた。
「もう1人の、落ちて頭が潰れたヤツも、皮下脂肪が多かったのか?」
翔太の問いにセイジは笑った。
セイジの、むき出しの胸も腕も筋肉が発達してる。
それを誇示するかのように大きく両肩を回す。
「当たり。ミュータントのくせに、デブだった。だから誰も助けられなかった。見てる奴は居たよ。けど、受け止めるのは危険だと分かったんだ。カイも今以上に太ったら次はアウト。俺は助けられない」
小太りのカイが、卑屈な愛想笑いを浮かべた。
赤いジャージの、よく見れば彫りの深い顔のラナが
「自然淘汰。とろいヤツから死ぬのさ」
と話を締めくくった。
「12階の寮生は速やかに席を離れ、自室に戻りなさい」
同時にアナウンスが流れた。




