翔太5
「うん。プリズン(監獄)なんだ」
翔太は状況を理解した。
だからといって、さっきまでの幸福感が一転するような事は無かった。
飛べる自由。
鷹志に会える。
その二つだけが<聖カストロ学園>に来た理由だ。
他は、実はどうでも良かった。
翼の無い、醜い人間を見なくてすむ個室。
いつでも飛べるバルコニー。
ミュータントが欲してやまなかったのは、それだけだったかもしれない。
「そう。俺たちを制御する方法を旧人類が、馬鹿頭で考えたワケ」
鷹志の、旧人類という言葉に笑える。
「レベル低いだろ? 隙だらけのプランだ。何も分かってない」
「うん。で、鷹志は今飛んでないんだ」
「飛んでたら、お前と今ラインするの無理」
「お前の部屋のバルコニーに行く」
「来んな。今から寝る。他を飛んどけ」
「けど、お前3階だろ? 晩飯も朝飯も会えん」
「明日の入学式で俺を探せ」
「それも面白そうだ。で、俺らプリズムにぶち込まれたのに、電話は、自由なんだな」
「簡単に制御出来ないからさ。契約者が同意しないとな」
「じゃあ、親は知らなかったのか」
「多分」
翔太は、母、祐子の固く組んだ手を思い出した。
そしたら、全身の力が抜けてホンワリしてしまって。急に眠くなった。
唐突に睡魔が襲うのは生まれついてのことだ。
ミュータントの睡眠は人間とは少し違っていた。
数時間眠り続ける事が出来ない。
長くてせいぜい3時間。
翼の無い人間のように、ベッドに横になっては眠れない。
体育館座りで眠るのだ。
ベッドの上で壁にもたれて
膝を抱くように座る。頭は膝小僧の上に置く。
翼は脱力。
するとマントのように身体をくるむ。
布団など要らない。
裸でも大丈夫だったが、翼の無い人間の社会で育ったから全裸では寝ない。
翔太は上半身は裸、下半身はパンツとジャージで、ちょっと寝ることにした。
「19時15分です。12階の寮生は速やかに食堂に移動してください」
と部屋の天井から声がする。3回同じアナウンスが繰り返される。
若い女の清んだ声だ。
翔太はドアが開いてるのを見てふらりと出ていった。
丸い輪の形の廊下に立つ。
エレベータの前に3人のミュータントが居た。
「俺1号室、ラナ」
と赤いジャージの上下のが言う。翔太より背が低い。
「2号室セイジ」
続いて名乗ってくれたのは、背の高い上半身裸で黒い短パンだった。
「4号室のカイや。仲良くしよな」
関西弁でやや太ってるのが、エレベータに乗り込むときに言った。
背の高さは翔太とほぼ同じ。
「3号室、ショウタ」




