エピローグ
「寒いね、そと、雪だよ。春なのにね。積もってる……今日も誰も帰って来ないね」
里奈は用意した夕食を前にため息をつく。
「そうだな。もう、そろそろ晩飯はいいんじゃないか。
連絡なしに戻って来ないのは、アイツらの勝手だから」
ラナは自分が作ったポテトサラダを口に入れる。
「旨い。食べろよ、リナ」
「うん」
リナは一口食べて、美味しいと、微笑む。
タワーに二人だけになってから一冬過ぎた。
遠い海の上で起こったことは知らない。
「あのね、いい知らせがあるの。もう一か月、誰も死んでないんだって。とうとう終わったのかしら」
リナは残った食事を毎晩、学園の避難所に運んでいた。
「本当に?」
ラナは驚く。
そして喜ぶ。
「一か月前に死んだのは、ラボのスタッフよ。彼らを除いたら……二か月、誰も死んでない」
「ラボの連中死んだのか。赤いゼリーは特効薬じゃなかったのか」
「みたいね。でも、不思議な話を聞いたわ。彼らの遺体は自衛官が校庭の隅に埋めたの。顔なじみのスタッフだから特別にね。そうしたら数日で、なんかの植物の芽が出てきたんだって」
「なにソレ、不思議っていうより不気味じゃん。どんな植物が育つか怖くないか?」
「さあ。もしかしたら綺麗な花が咲くかもしれないじゃない」
「なあ、リナ。ここは二人じゃ広すぎる。体育館の連中、呼んだらどうだ?」
ラナは何かを決心したように、自分の言葉に頷いている。
「そんなこと、考えるんだ。翼が干からびて人間臭くなったんだね」
リナは笑って、ラナの翼を触る。
鷹志に毟られた羽根は二度と生えてこなかった。
次第に翼の肉は委縮し、骨も痩せてきている。
いまにも、ポロリと背中から剥がれそうだった。
「稲妻が光るたびに雪が光るの、きれいだね」
リナは窓の外に目をやる。
いつミュータントたちが飛んで帰ってもわかるように
どの窓もカーテンを開けていた。
「本当だ、初めて気づいた。冬の稲妻も悪くない」
ラナは、もう窓の外に青い翼を
探しはしなかった。
長い間読んでくださり、ありがとうございました。
深く感謝いたします。
仙堂 ルリコ




