翔太4
「あの、細長い円柱の建物が、」
青いタワーが特待生の寮だと、説明を聞くまでも無かった。
青い羽根を悠々と広げて、自分と同じミュータントが、飛んでいる。
惹かれるように、キャリーバッグを引きずっていく。
すぐにでも飛びたい。
けど、自分の部屋がどんなだか気になる。
気分は高揚していた。
こんなにハイになるのは初めてだ。
希望、幸福、恍惚……
知っていても実感の記憶が無い言葉が頭の中に溢れてくる。
「すげえーやココ。そんで、鷹志が、いるんだ。……コレ夢じゃないよなあ」
翔太は歓喜で目を潤ませて、タワーの入り口に立った。
閉じていたガラスのドアが開く。
首にぶら下げたチョーカーを感知して。
入ってすぐ受付カウンターがあった。
「いらっしゃいませ。田坂翔太様でございますね」
若い女2人が頭を下げた
ホテルのフロントみたいだった。
ロビーには赤い絨毯が敷き詰めてあり、グレーの長いすに黒のテーブルのセットがある。
翔太は、建物の床は半径がざっと10メートルの円だと、目測する。
「あちらがエレベーターです。田坂様のお部屋は12階です。各階に4室となっております。」
受付の一人が翔太の後ろを指さす。
タワーの芯にあたる位置にエレベータがあった。
「30階建て、なんだ」
ボタンを見て分かった。
エレベータの左は壁で、右にはドアがあって、restaurantと斜めに書いてある。
嬉しすぎて、
疑わなかった。
タワーは30階建て。
3階から30階までが寮室、各階に4室、つまり寮生は112人だ。
数の割に、食堂のスペースが狭すぎる。
でも、妙だと、気付かなかった。
エレベータで12階まで行き、自分の部屋に入った。
扇型の、狭い部屋だ。
ベットとテーブルが右側の壁に付けて置いてある。
左の壁は棚になっている。
部屋の奥行きは…、5メートルくらい。
青いカーテンを開けて、向こうにバルコニーとトイレ、洗面台が一緒のユニットバスが、あるのが分かった。
仲間が飛翔してる。
目の前を飛んでいく。
動きが速くて、青い羽根しか見えない。
挨拶もできない。
「成る程、こっから自由に飛べってことか」
バルコニーは奥行きが1メートルしか無いが幅は広い。
「羽を広げるスペースを作ろうとして、バームクーヘンみたいな形の部屋になったのか」
ミュータント優遇の手厚いサービスだと、喜んだ。
さっそく試し飛びしようとケープコートを脱いだら、
ラインが入った。
鷹志からだ。
「部屋に入った?」
「うん。今バルコニー」
「何号室?」
「1203号室。お前は?」
「302」
「そっか。着替えたら行く」
「残念だけど、そういう自由はないらしい」
鷹志からの返信を読んだのと、
部屋のドアが開かないのを知ったのは
ほぼ、同時だった。
「ロックかけられてる訳? 」
「翔太、机の上に茶色いレザーのファイルがあるの、読んだか?」
読んでない。
存在すら知らなかった。
黒いテーブルの上に、それはあった。
ホテルに備え付けの説明書に似ていた。
寮ルール
①食事について:休校日は朝夕2回。下の階から順番に食堂に移動。制限時間は20分。各自の部屋からの移動、食堂の入退室はアナウンスの指示に従うこと。ペースを乱したモノはレベルEの罰則。登校日のみ、校内食堂で昼食あり。
②校内に於いて、一般生への迷惑行為はレベルDの罰則。
③一旦入室後は、食事時間以外、外室禁止。違反はレベルCの罰則。各バルコニーからの飛翔訓練は自由。ただし自室以外のバルコニーに入る事は不可。
④その他、監視員が不適切と判断した場合は随時罰則あり。
「翔太、読んだか?」




