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Winged<翼ある者>  作者: 仙堂ルリコ
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終わりにしよう

長野偵察から、間もなく、青司の食欲が消えた。

そして

変化が加速した。

青い羽根は抜けおち、新しく金色の羽が出現していた。

「どうしたの?」

「俺たちもそうなるの?」

ほかのミュータントたちは、

青司の外見の異変に強く反応した。


「なんでだが、俺にもさっぱりわからん」

 青司は、ただ、そう答えた。

 ……嘘だった。

(今までの俺は幼体だった)

(蝉と同じ、随分長い間、幼虫だった)

(やっと成虫になるんだ)

(そしてオトナの期間は蝉より、ずっと短い)

(成虫になってするコトは子孫を残す行為に決まってる)

(俺は……この星の変化に適応する新しい種を、子孫を残す)

(タナトスは種の、卵の巨大な塊)

(俺の身体はタナトスに突っ込みたいと言っている。俺はタナトスの身体の中に入り、種を、卵を解放してやるんだ)


 青司はミュータントたちに説明出来ない。

 彼らはミュータントの幼体。

 けっして成体になることはない。

 (たとえればタナトスは女王蟻で、俺は唯一の雄蟻。ほんでお前等は、働き蟻)

 そんな話はしたくない。


十日ほどで金色の翼が出来上がると、

部屋にこもっていた青司は、タワーの屋上に出てきた。

他のミュータントたちは

まず、久しぶりに出てきたリーダーを見、その次に空を見上げた。


南から黒い影が、こっちに来ている。


鷹志だった。


青司は、

「ああ」

と鷹志に返事をするように叫び

飛んでいった。

かなり上空へと。


ミュータントたちは後を追っていた。

意思では無く、翼が勝手に反応したのだ。


青司は信じられないスピードで飛んでいる。

近づけない筈の距離まで、鷹志に寄って行く。


安全な距離を保ちながらミュータントたちは追尾した。

暫くすると、東の方向から大量のミュータントが飛んできた。

そして同じように鷹志と、青司を追う。

また暫くすると、

巨大な黒い翼が生み出す強風が、何かを運んできた。

ミュータントの青い翼に赤いしみがつく。


「げっ、肉の塊が飛んできた」

誰かが叫んでいる。

前方から飛んでくるのは、切断したての、肉片、だった。


小石位から、岩のような大きさのが、飛んでくる。


「痛い、」

と、うめいて、バランスを崩して落下しそうになる者もいる。


鷹志は次第に高度を下げている。

斜め下に、叩きつけるような風を発生させながら。

地上では竜巻が多発した。

大木が折れ、建物の屋根がはがれている。

ミュータントたちは

この気流から簡単に抜け出せない。

失敗して竜巻に巻き込まれたら、地面に叩きつけられる危険がある。

前から飛んでくる肉片を払いながら、まっすぐに飛び続けるしかない。

……この集団飛行は、五十時間続いた。


ミュータントたちの体力が限界に近付いた頃、

突然風が緩み、磁気が消えた。

「なに?」

「どうした?」

「行ってみよう」

彼らは鷹志に近付いて……異様な光景を目の当たりにする。


大きな翼は水平に広げ切ったまま静止している。

鷹志の下半身は……骨が見えていた。

腕も同様で、肉がない。

腹からは、太い腸らしいのが垂れていて、

その先っぽで、金色の翼がチラチラと動いている。


「青司がタナトスをやっつけたんだ」

「解体作業だよな、どう見ても」

「手伝うか」

 寮生たちは、瀕死状態の鷹志に群がった。

 長野から来たミュータント達も、それに加わる。

 死にかけのボスを助けようがない。

 新しいボスは、あの金色のヤツだと、本能が教える。


大きな動物の死体にハエが群がるように、ミュータントたちは

鷹志の体にくっついた。

翼を毟り、肉をちぎり取り、爪をはぐ作業を始めた。


青司は、ミュータント達の動きを確認すると、

鷹志の頭部へ移動する。


池のような瞳は、まだかすかな光があった。


「タナトス。もうすぐ海の、上だよ。

 ……そろそろ、終わりにしようか」


突然、鷹志の翼が動いた。


胴体に巻き付けるような激しい動き。

身体は縦になり、旋回しながら、


太陽めがけて飛んだ。

(鳥の断末魔のように)

そして、やはり旋回しながら、最後は頭を下にして、落下した。

海へと落ちた。


ミュータントたちはどうなっただろうか?


彼らのおよそ半分は、突然の旋風に巻き込まれた。


飛ぶ体勢にならぬまま、地面や海面に叩きつけられ絶命した。

残り半分は鷹志の体と共に海に落ちた。

彼らの翼は水鳥のように出来てはいない。

海を泳ぐのは人間より困難だ。

生存の可能性はゼロに近い。


青司は最後に、長い夢を見た。


子供が、丸一日地面が揺れないと、怖がっていた。

そして、

見慣れた赤い空が、今朝は青くて気味が悪いと、

人々が口々に言っている。


知らない人たちの肌は空に似て赤い。

髪の色も赤い

そしてあたりには、綺麗な花が咲いていた。

ミュータントの髪と同じ色の花だった。

ミュータントの羽根のようなカタチの

花びらが風に揺れていた。








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