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Winged<翼ある者>  作者: 仙堂ルリコ
48/50

長野3

「どうしたの?」

 青司のただならぬ様子に礼子が聞く。


「また、タナトスからのメッセージだ」

 聞いた内容を、そのまま伝える


「セイジ君が、鷹志様を終わらせる……言葉通りだとすれば……」


礼子は、先を言い淀んだ。

地球上に鷹志を殺せる武器はない。

だが、硬化した青司なら、

もし身体に触れるまで近づけるなら……、


「タナトスは過去の、青い空の下の世界を……ぶっ壊してるんだ

 新しい赤い空の世界を創るために、耕してるんだ。

 青空でしか生きれない生物はやがて死滅する。赤空で育つ新しい生物が必要なんだ。

 アイツは……耕して、種を蒔くんだろう。

 ……種はアイツ自身だ。巨大な体は無数の細胞に飛び散って、新しい生物の種になる。でも、自分で自分 を生きたまま解体するのは不可能だ。

 切れ味のいい包丁と肉をばら撒く装置が必要なんだ」


「セイジ君、鷹志様は、君に、そう言ってるの?」


(空から自身の姿を見るはずも無い、

 地上を這う虫が、背中に猛禽類の目玉をくっつけている。

 それは、その虫の遺伝子が空を飛ぶ生物から引き継がれたからだ

 地上の生物全ては巨大で完全な一体から分散したのだ)


 鷹志は誰に教えられたのでもなく、幼い頃から繰り返し、言っていた

 巨大で完全な一体、それは、自分だと、鷹志は知っていたのか?

 大きなバケモノになって、砕け散る、残酷な運命を知っていたのか?

 礼子の頭に、幼い、可愛らしい鷹志の姿が浮かぶ。

 任務と使命のために、抑えてきた鷹志への感情が

 胸を突き刺す。

(私の命より大切な坊やは、生贄になるために産まれてきたのか?)



「違うんだ……タナトスが言ってるんじゃ無い。今、わかったんだ」

 もしかしたら、鷹志と同じように、俺も、ずっと前から、自分の役目を知っていたのではないか?

青司は答えてから、本当にそうだろうかと検証する。

 知っていた。いや感じていた。

 少なくとも体の変化が始まった時には。


「俺、帰る」

 不意に立ち上がる。

 青司は動揺していた。

 そして、一人になりたかった。


「そう。じゃあ、地上まで送るわ」


 Cフロアには子供たちを集めているの。遊具やゲーム、ビデオを揃えている。

 子供たちは、それなりに楽しんでいるわ。環境に適応しようとしている。

 大人たちの絶望から隔離しているの。Dフロアは、さっきも話した通り、<死>が近い人たちを収容している。病人や、異常行動がある人も。学園長は、この私に、かつての主従関係を要求しそうでしょう? それは、このシェルターでは異常行動よ。だから、Dフロアが適切なの。

 Aフロアは天皇家の居住スペースは僅かで、国の宝の保管庫なの。シェルター内の人間が皆死んでも、タイムカプセルにはなるのよ。


 礼子は、車中で、シェルターの説明を喋り続けた。

(青司の運命は鷹志と共にあるのではないか?)

 芽生えた残酷な疑問を、頭から消したい。


「こんな絶望的な世界でも、希望はあるの。赤ちゃんよ。シェルターで次々に生まれている。半分以上はすぐに死んでしまうけど。生まれ続ける限り、希望はある。人類はまだ絶滅していない……」


 トンネルの入り口で、青司だけ車から降りた。


「ねえ、センセイ。ミュータントには性欲が無いって知ってた?」

 最後に、冗談のように笑って言い、跳んで行った。


(子孫を残す必要がない存在だから)


 礼子は、抑えていた感情が涙となって溢れるのを、かろうじて堪えた。

 だが矢沢健一は、おいおいと、泣き始めた。




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