復活
ふがふが。
雑に抱えた学園長が咽せている。
「しゃーねえな。死んじまったら使い道が無い。休憩すっか」
目に入ったビルの屋上目指して
青司は下降した。
「私を誰だと思っている……こんな事をして鷹志が知ったら、お前など……」
学園長はコンクリートの上に放たれ、転がり、身体が曲がった状態。
自分で身体を起こすことも出来ないのに拳を上げ、威嚇モード。
逃げ出す心配は無い。
コイツと話す意味は無い。
一息ついて辺りを眺める。
見覚えの或る風景。
名古屋駅に近い場所らしい。
通りに生きている人間の姿は無い。
死体なら数多くあるが。
行き倒れではない。一定の場所に固まっている。
屋内で死んだのを運んだのか。
生ゴミと同じだ。
カラスや犬猫が群がり、食らっている。
犬は数が多い。
マルチーズ、プードル
小型犬が大半で、皆薄汚れている。
人間がバタバタ死んでいるのに、
不思議と他の生物は大気の変化に影響を受けていない。
地球上で同じ状態なら、
人類だけが絶滅に向かっているらしい。
死体の山を避けてワゴン車が走りすぎていく。
生き残りが食料調達に来ているようだ。
離れた場所に見えるマーケットの前に数台の車が停まっている。
「もう、何も残ってないだろうな」
街の店は陳列棚が空っぽだ。
電気が止まってから常温保存の食料は奪い合いになり、
今は港の倉庫や加工食品の製造工場に人が集まっている。
「そろそろ飛ぶか」
殺風景で汚い地上は長く見たくない。
さあ、と翼を広げる。
が、
ぞろぞろ集団で歩いてくるのが目に入った。
老人、子供を含んだ五十人あまり。
先頭が国旗を掲げている。
大きな日の丸は風が無いので垂れていた。
彼らはどこに向かっている?
巨大な黒い神に喰われる場所を目指しているのか?
若い母親に抱かれている赤ん坊は元気よく泣いている。
(せっかく生きてるのに、ちっこいのも殺すのか?)
二回翼を翻し、彼らの前に降り立つ。
自分でも、何がしたいのか不明だが
接近してしまった。
「わあー、ミュータント」
歓喜の声。
突然の出現は歓迎されたようだ。
「こ、こんにちは」
旗を持った中年の男が頭を下げる。
他の者も、同じ丁重さで深いお辞儀をするではないか。
そして何も言わない。
緊張した面持ちで、青司の言葉を待っている。
「あのさ、……あんた達、……どこ行くの?」
近くで見ると、それぞれキャリーバッグにリュックと荷物が多い。
死に場所に向かう風情ではない。
良かったと、思う自分に、驚く。
「新しい、皇居です。天皇陛下が呼んでくださった。私たちは参ります」
旗を持った男が、一枚のビラを見せる。
「……これは?」
「ご存じないのですか? 青い天使が、あなたと同じミュータントが天から撒かれたんですよ」
「……?」
ビラは正装した若い天皇の写真と
新皇居(長野の施設内だった)の地図が印刷されて、
天皇復活
日本国不滅
唯一無二の神国
選ばれし血の国民は
陛下と共にあれ
と、裏に赤い文字が並んでいる。
「へっ? 天皇生きてんの?」
例の式典で、自ら
タナトスの口へ飛び込んだ、
確か、そうだった。
「復活されたのです」
非科学的な言葉が
何の躊躇も無く、集団の口から出る。
喰われて死んだのに、蘇ったと信じている。
喰われて死んだのが嘘か、
蘇ったのが嘘か、
興味が湧いてきた。
先を急ぐことにした。




