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Winged<翼ある者>  作者: 仙堂ルリコ
42/50

青司、ラボへ

「今朝はスカーフェイスがいない」

「ホントだ。かわりにカラスが、あんなに沢山」

翌朝、ミュータント達は

本館屋上の異変に気付いた。

彼らは

昼食後、食料の調達と偵察に飛びとうとしていた。


「夕べ俺が始末した」

青司が報告する。

仲間から歓声があがる。


「やった。さすがセイジ」

「もう此処にはミュータントの脅威は無いんだ」

「あっち(学園)に自由に行けるのか?」


「セイジ、俺は最近首の、このチューカーがキツクなって邪魔なんだ。俺たちの要求どうりスカーフェイスは消してくれた。つぎにして欲しいのは首輪を外す事なんだ……セイジなら学園の残党を締め上げて、この問題を解決してくれるよな?」

 皆を代表するように誰かが喋っている。


「分かってる。俺は今日、本館の地下に突入するつもり」

 青司は自分のチョーカに手をやる。

 若干の収縮性はある鎖のようだが

 最近窮屈に感じる

 成長して首が太くなったせいだ

 首輪が無効なのは分かっている。

 ペンチか何かで外せばいいだけの事だった。

 ところが、ホームセンターで売られている道具では

 この鎖を切断出来なかった。


「ラボなら外し方も分かるかも。いろんな道具も有りそうだし」

 話しているところに里奈と来夏が来た。

 彼ら二人は

 他のミュータントに抱えられ、

 屋上に降り立つ。

 飛べない者が自力で屋上に来るルートは無かった。


「あのカラスは何を食べてるの?」

 里奈は青司に聞いた。

 黒い戦闘服の幸が立っている場所に

 今朝はカラスの群れ。


「決まってるだろ。スカーフェイスだ。お前、分かってんのに聞いたよな?」

 幸から聞いた過去の話から、里奈はまだスパイの立場かと疑っていた。

 もしそうなら面倒くさい。

 嘘を聞きたくない。

 隠し事を繕う姿を見たくない。


 初めて青司に、冷たく言われ……里奈は答えも弁解も出来ない。


「俺は今からリナとラボに入り、問題解決してくる。お前らは、食料の調達、テキトーにしてよ」

 青司は呆然と佇んでいる里奈を抱きかかえて

 垂直に飛んだ。

 赤い空へ

 移動距離からすれば必要の無い高度まで

 里奈を運んだ。


「どうして平川君のように海に運んであげなかったの?……あれでは無残すぎる」

 里奈は眼下を見下ろし青司に聞いた。

 片腕で支えた腰は細い。

 この手を緩めれば里奈は落ちる。

 校庭に叩きつけられ即死だ。

 そんな危うい状態にも関わらず、しがみつくでも無く、

 むしろ飛び出しそうに上半身を下へ曲げている。


 ……コイツ、俺が自分も殺すと思ったか?

 ……命乞いも、弁解もせず、あっさり死ぬ気なんだ。

 ……香川幸や鷹志と運命共同体だったワケだ。

 

 不意に、里奈も<自死>する気だと、分かる

 幸のように、殺されたくないから先に死ぬ気だと。


 青司は両腕で捕まえるように里奈をしっかり抱いた。

 急降下。

 本館屋上に降りる。

 幸の肉を貪っていたカラスたちは<大きな鳥>の羽音に散った。


 香川幸は無残な姿になっていた。

 顔面は真っ赤でパーツは消えている。

 黒い戦闘服は穴が開き、内蔵が引きずり出されていた。

 死後数時間でカラスに啄まれて痛みきった死体となっていた。

 だが

 死因が不明なほど変貌してはいなかった。


「……セイジが殺したんじゃないのね」

 里奈は、まだ良かった、と言いたげな顔。

「いや、俺が殺ったも同然だ。……でもコイツ死ななくて良かったかも、後になって、そんな感じがした。それでさ、……持ち場に置いといてやろうかって……スカーフェイスは骨になっても任務遂行が、似合ってるだろ」

「………」

 里奈の目からボロボロ涙が零れる。

(ミュータントなのに泣くのか?)

 青司は戸惑う。


「セイジ、ゴメンネ……私ね」

 里奈は、学園側のスパイだと話そうとする。


「それは、スカーフェイスと結構しゃべったから……分かってる」

「幸と、セイジが?」

 里奈は二人が話す光景を想像できない。

結局、死んでいる幸の亡骸と繋がらない。


「俺が今聞きたいのは、お前も『タナトスの血』を知ってるのか、ってそれだけだ」

「鷹志の血? ……幸がラボの相場に頼まれて採血したのは聞いてる」

 里奈は<ゼリー>の件は知らなかった。

 手短に説明すると、ひどく驚いた。



「学園長に言われて来ました。開けて下さい」

 リナは嘘を付いて、ラボに青司を入れた。

 

 奥地青司をラボに引き入れ拘束せよと、

 学園長から命じられていた。

 事前に報告しない事は任務に違反する。

 しかし、里奈には

 学園長カストロの指示した任務は

 現状では遂行不可能だと判断していた。

 

 青司をラボで確保する自衛官が果たして居るのだろうか?

 校庭の戦車と共に、未だ護衛の任務を全うしている自衛官は

 十数人に過ぎない。

 バタバタと死んでいく仲間を目にして、次は自分かと恐れている。

 指示された場所に配置しては居るが、もはや傀儡に過ぎない。

 戦闘員として役に立たない。

 ミュータントが翼を使えない空間でも、彼らは青司に勝てないに違いない。


「あ、ミュータントだ」

 翔太が入っている水槽の前で

 妹たちは、青司を見つけて、喜んだ。






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