翔太3
「翔太」
祐子は、門の向こう側に行ってしまう息子を呼び止めた。
何が言いたいのか分からない。
多分、あの子は聞こえぬ振りして行ってしまう。
母親の本能で、二度と会えない気がした。
いなくなって
せいせいするはずが、胸が締め付けられるほど、愛しかった。
「何だよ、うぜーなあ」
悪態をつきながらも、翔太は立ち止まった。
些細なことが、祐子は嬉しかった。
「アンタ、いつでも帰ってきていいよ。此所が嫌なら、いつでも帰っておいで」
翔太は、思いも寄らない母の言葉に戸惑った。
厄介払いなんだろう?
俺なんか、いない方がいいって、知ってる。
何と答えて良いか分からない。
一番見慣れている不細工な顔が、泣きそうで化粧も剥げてて、一層醜い。
でも、何でだか、目をそらせない。
ちっちゃい小太りの身体に紺のスーツ。
珍しく細いヒールのパンプスだ。
走りにくそう、と翔太はフト思った。
母が祈るように組み合わせてる手は、ひどく力が入って震えている。
なんだか、そのままにしておけない。
翔太は、最後にいつ触れたか分からない、初めて接触するような、固く絡んだ指を解きほぐしていた。
「じゃあな」
背中を向け、門をくぐった。
観音開きの鉄の門は塀と同じで、とてつもな大きい。
手続きに訪れる新入生の為に、門は開け放たれていた。
机が並べられ、寮生を迎える教職員が20人ほど立っていた。
「田坂、翔太君、かな」
背の高いグレーのスーツ姿の女が、
翔太の首に手を回した。
払いのける隙が無いくらい、素早い動きで。
同時に、首にヒヤリとした感覚があった。
「特待生だけの、18金のチョーカーなのよ」
鏡を見せてくれる。
極細の鎖に同じく金の羽が二枚、
カッコいいチョーカーが細い首を飾っていた。
「これは、ミュータントへの国からのプレゼントです」
そう言われて悪い気はしない。
邪魔に感じない、首にフィットしてるのも気に入った。
「この子、凄い綺麗」
「最後に一番イケメンがきた」
口々に言っている。
人混みを歩いた時のように、写真を撮られた。
「ここに、名前を書いてくれたらいいわ」
サインだけで部屋のカードキーをくれた。
1203号室。
「1階が食堂。2階が売店。チョーカー付けてたらフリーパスだから。支払いは国がするから制限なしよ」




