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Winged<翼ある者>  作者: 仙堂ルリコ


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37/50

青司の選択

「み、見たか? タナトスが天皇を喰っちまった、な」

ミュータント達は、

タワーの屋上にいた。

六時に起こった出来事を目撃したその瞬間から、

彼らの身体は、数分、金縛りにあったように硬直していた。

鷹志が飛び立つのに使ったエネルギーが、

同族に影響を与えたらしい。

衝撃は波動となり、全身の筋肉を揺さぶる。

防備が働き、筋肉は硬直していったのだ。


来夏が青司に声をかけたのは

鷹志が飛び立ってから、十分余り経過したのち、だった。


来夏は羽根を毟られ、片足首を捻挫していた。

情けない姿で夜の間にタワーに戻ってきていた。

里奈が、肩を貸して連れてきた。

青司は、里奈が何故校内に居たのか聞いていない。

来夏を連れてきて、そのままタワーにいる。

自分の本来居るべき場所、ミュータントの群れに戻ってきたんだと、

ただそう受け止めた。


「ホント、驚きすぎて、もう何が何だかわからないわ」

里奈は身体をほぐすように大きく肩を回した。

もうギブスは外してあった。


「そう言うのは、アイツらにとっても予想外だったって事か?」


 青司は校庭で学校職員らが右往左往しているのを指差す。

「今朝、タナトスが長野へ移動する。それを天皇陛下が見送られる。そう聞いたわ」

 里奈は真実全てを語るつもりはない。

「長野か」

 青司は自分が教育を受けた、あの場所だと直感した。


「長野に国の、秘密基地があるのよ。私が保護されて送られた施設も、その中にある。だから知ってるの」


「つまりだ、タナトスは神様になったんだな。天皇と一心同体になって」

 来夏は送られてきたメールの動画を観ていた。

 宮内庁職員が読み上げる天皇の<お言葉>も聞いた。


「そういう事、みたいね」

「黒い大きなミュータントは<黒い神>なら、俺たちは何だ? <青い使者>ってことは、無理矢理タナトスの家来にされるのか? 」

「誰も、あなたたちに強制出来ないよ。だって、首輪の効力は消えたんでしょ?」

「……おい待てよ、センサーが停止したのはアイツの磁気の、おかげだ。アイツがいなくなったら。またギュッと締まるんじゃ無いのか」

 来夏は忌々しげにチョーカーを摘まむ。


「……あ、そう言えばね、チョーカーを切断する道具は長野にあるって、教頭が矢沢先生と話してた。特殊な金属らしくって簡単には切れないらしい」

 里奈の声は必要以上に、よく通る声だ。

 ミュータント全員に聞かせる必要があるかのように。


「センサーが復旧したら、自由に飛べないのか」

「タワーに閉じ込められるってこと」

「首にチョーカーがある限り不安が残るな」

「ぐずぐずしてられないかも、」

「すぐに長野へ、飛ぶワケ?」

 ミュータント達は小声で囁く。

 さほど動揺している様子は無い。

 青司が決めることだと、思ってる。

 青司が飛んだら後に続けばいいだけだと。



「いや、長野へは行かない」

 暫く考えて青司は決めた。

「<黒い神>と<青い使者>だっだな。使者は神の後を付いて行くんだ。そういうことに、したいんだろうな。チョーカーを切る道具はエサだ。長野に、ソレがあるのは事実かも知れない。けど、センサーだってあるかも知れない。不用意に近づいたら最後、二度と自由はない可能性もある。ここのセンサーはぶっ壊れてると、俺は思う。もし復旧できてもおそらく作動させない。自衛隊員のトランシーバーの通信の邪魔になるからな」


「さすがね、青司。アンタの言ってるの、正解だと思うよ」

 里奈は笑った。


 里奈は、与えられたミッションに失敗した。

 でも、結果を報告する手段は、当分ない。


青司の推測は概ね、当たっていた。

政府は、

青いミュータント達は鷹志の後を追うと、期待していた。

<黒い神>と一緒に飛び立つ<青い使者>の動画を

撮影し、これも世界に見せつける用意もあった。

もし彼らが行動しなかったら、

その時は、何としてでも長野に向かわせよ、と

<指示書>が今朝、天皇陛下と一緒に島に着いた。


学園敷地内のセンサーが再び作動する事はない。

これも青司の言う通り、修理不能な壊れ方をしていた。

ミュータント達を力では制御できない。

長野に行けば簡単にチョーカーを外せるのは嘘では無い。

が、チョーカーが反応するセンサーも、あった。

……ミュータント集団が望ましくない行動にでた場合、これを矯正し、正しい行動へ誘導せよ。

無茶な任務を受け、ダメージを受けた来夏に付きそう名目で

里奈はタワーに送られたのだ。

ミュータント達は鷹志に付いて行かなかった。

それで、言いくるめてみようと、やってみた。

理由は何でもいいから長野に向かわせようと。

でも、青司はひっかからない。

多分そうだと、判っていた。

「わかった。あんた達は<黒い神>に付いて行かない。このタワーに留まるんだ」


「里奈、お前はどうするんだ?」

 来夏が少し心配げに聞く。


「そうね、ここの寮母でもしようかしら」

「なんだ、それ?」

「………だって、食堂のおばさん達、出て行ったよ、ほら」

 里奈がタワーの下を指差す。

 見慣れた、世話をしてくれていた四人が、私服でキャスターに荷物を載せて、慌てた様子で去って行く。

「青司、俺たち、放置されたらしいぞ」

「そうらしいな。逃げてったな」


「仕方ないでしょ。あの人たち、家族のところに行ったのよ」

 今日までの期限で働いていたのだと、青司は理解した。

 鷹志が飛び立つ日まで、ミュータントは保護されていた訳だと。

 一緒に居なくなるのを前提としていたのだ。


「今日から私と来夏が、ご飯つくるから、ね」

 里奈は来夏の羽根が抜けた翼を引っ張る。

「何で、俺がメシつくるん?」

 来夏の大きな目は全開。

 驚きは最大級らしい。


「あんた、この翼じゃ、飛べないよ。皆と一緒に食料を調達しに行けないよ。情報を集めに行くのも無理でしょ。だからね、仕事を与えてあげるんじゃないの。わかった?」

 里奈は一度も見せたことの無い晴れ晴れとした笑顔で

 来夏を、

 皆を見渡した。

「もう一度、出て行った、あの人達をよく見て。あの荷物、食料よ。あの人たちは学園に避難している家族の為に、ここの食料持って行っちゃったの。多分、冷蔵庫は空っぽだよ」

 里奈の言葉に弾かれたように

 青司が真上に飛んだ。

 赤い空の果てをめざすように

 どこまで行けるか、限界を計る実験のように

 垂直に上昇していく。

 皆も続く。


雲を抜る、

空気は冷たい。

が息苦しさは無い。

いや、むしろ心地よい。


太平洋を見下ろす。

赤い海だった。

……空が赤いのは海が赤いからか?

……それとも逆か?

……わからない。

……どっちだったか、思い出せない。

そこまで考えて、

今度は急降下する。

「なにはともあれ、昼飯の確保だ」

と呟いて。



同じ頃、鷹志は長野に到着した。


用意された巣は格納庫のカタチをしている。

建物の前には戦車が二台。

人影は無い。

着地時の風圧を考慮し、山田礼子と矢沢兄弟は

戦車の中で待っていた。

鷹志は翼を閉じると同時に口を開け、

中からゆっくりと白い塊をつまみ出し、地面に置く、

すぐに、白い担架を担いだ二人が来る。

続いて白衣のドクターが走ってくる。

白い着物、白い袴に長い黒髪、

鷹志が口から出した<天皇陛下>は、自力で立ち上がる。

胸に小型の酸素ボンベを握ってる。


「君、大丈夫なんだね?」

ドクターに聞かれ、

<天皇陛下>は答える。

「はい、大丈夫であります。任務完了致しました」


 その声は、若い男の声であった。




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