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Winged<翼ある者>  作者: 仙堂ルリコ
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学園生活1

 ……鷹志が異質なのは、俺たちより、早く生まれたから?

 翔太は、セイジの話を聞きながら、

 頭の中に、なぜか鷹志の首に揺れていた、チョーカーが浮かんできた。

 あれは自分たちのと違う。

 鷹志は制御されていない。

 学園長の息子だから<自由>なんだ。

 ……いや、そんな事じゃ無い。

 出生の秘密から連想してしまったのは、そんな理由じゃ無い。

 じゃあ、何故か?

 自分でもわからない。


「俺たちの身体がどうなってるのか、調べたくてウズウズしてるんだ。

 この学園の目的は、ミュータントの観察と、実験だな。

 同世代の旧人類と強調できるかも、テストされてる。

 ラナ、担任がお前をサンプルにすると言ったのは、唯の脅しだ。

 確かにサンプルは必要だろうが、俺たちは希少なんだ。簡単に殺すもんか。

 余程、害にならないかぎりはな」

 セイジは、ラナに、友好的な態度を繕えと、説得しつづける。


「今更手遅れなんだって。いいか、ここは監獄だって事、忘れるな。

 そんでもってなんで、俺たちが監獄にいるのか。お前らも身に覚えがあるだろう。

 友好的なミュータントと、友好的で無くても金持ちに生まれたミュータントは、首輪で制御されていな い。外の世界で自由にしてるんだ。

 此所に集められたのは、貧乏な親に捨てられた悪いミュータントなんだよ」

  ラナの声は段々大きくなる。

  周りにいる他のミュータント達にも聞こえている。

  が、反応はない。

  

  そんな事くらい、皆知っている。

  わざわざ熱く語るな、と翔太はラナを疎ましくかんじる。


  大きな、飛び出したような目で辺りを睨み付け、

  ラナはオムライスをがつがつ食べる手を止め、

 「お前、」

  と、スプーンを翔太の顔に向ける。

  翔太は挑発的な仕草に、手がでそうになったが、テーブルの下でセイジが足を 小突くので、我慢し  た。

「俺はな、汚い人間のババア、二人、潰してるんだ。ここに来る前は更正施設に監禁されてた。

 な、わかったか? 俺は人殺しだ。最初からサンプル候補だったんだよ」

 ラナは……だから、俺をナメルナ、

 とでも言いたげだ。

 周りの雑談が止まり、視線が集まる。


 翔太は、まだ目の前にある、スプーンから目をそらし俯いた。

 ラナは、満足げに薄ら笑いを浮かべ、スプーンを下ろす。


 翔太は、ラナは、二人殺した、じゃあ、自分は<遊び>で何人殺したか数えていた。

 もし、バレていたら自分こそサンプルに選ばれていたのか?

 何も怖いモノはないが、自身の死だけは、恐ろしい。

 ラボで見た、切り刻まれたぷにゅぷにゅした肉片に

 なりたくない。

 ぞっとして震える。


 ラナは、それも自分に恐れを抱いた反応と誤解した。


「二人殺したとしても、十六才未満は死刑に出来ない。だからな、お前は殺される理由はない。今のところはな。しかし、もし今日、映研の平川を殺しちまってたら、どうだ? 更正不可能と見なされるぞ。お前に前科があるからこそ、担任は警告した。お前、殺されたくなかったら、絶対に一般生に危害を加えるな。俺と一緒に友好的なミュータントを演じるんだ、な、心配すんなって」

 セイジは<人殺しの告白>に、驚いた様子も無く、優しい声でラナに語り続けている。


「このバカが好きなのか?」

 翔太は、セイジに二人だけのラインで聞く。

「こいつが映研部で役に立てば、リナが喜ぶのさ」

 と、ラナと喋ってるくせに、素早く返事が来た。

 成る程、そういうことかと、翔太は納得する。

 自分が鷹志の望みなら音楽部の呼び込みでもするのと同じかと。


「面倒な奴だから、さっさとサンプル室に行って欲しいんだけどさ」

 屋上で、早速鷹志に、

 食堂でのやりとりを報告する。

 翔太は、知ってしまった鷹志の出生日について聞くつもりはなかった。


「セイジって奴はミュータントのくせに、随分おせっかいなんだな」

 鷹志は笑った。

「あいつ、変わってるンだ。人間の女なんか、追いかけてる」

「まさか、ありえないだろう」

「ホントなんだって、阿部里奈、顔がミュータントみないな女」

「そんな女がいるのか? 何組だ?」

 興味深げに聞いてくるが、鷹志はリナを知っている気がした。

「三組。映研の、その女がセイジを誘ったんだ」

 これも、知ってる気がするが、流れで説明する。

「ミュータントを使って映画作るのか。それは、きっと異世界モノだな」

 鷹志は機嫌が良い。

 今夜は良く笑う。

 肩を揺らして笑う。

 首のチョーカーも一緒に揺れる。

 接近して立つと、目の高さに鷹志の首。

 丁度チョーカーが目に入ってしまうのだ。

 あれ?

 昼間見た時より、鎖が短くなってる?

 一瞬抱いた疑問はすぐに消した。

 気のせいに決まってる。

 数時間で、まさかあり得ない。


 翔太はチョーカー自体の長さに変化が無いのを無意識に

 瞬時に確認していた。

 同じチョーカーが短く見えるとしたら、

 首の方が太くなってる事になってしまう。

 気のせいだ。

 鷹志が昼間より大きく見えるのも、

 サーチライトを半分浴びてるせいだ。

 目の錯覚だと、自分を納得させた。

 

 錯覚でなかったと知るのは1ヶ月の先の事だ。

 その一ヶ月の間に、

 翔太は学園の生活に馴染んだ。

 旧人類への生理的不快感は消せないが、短時間の接触なら平気になった。


 タワーはミュータントにとって実に居心地が良かった。

 個室の出入りの制限は苦にならない。

 ミュータントの孤独を好む性質には、むしろ好都合だった。

 入学式の日に消えたカイのことは、あまり思い出さなくなった。

 音楽室の地下にあるラボには行っていない。

 鷹志とは毎日放課後に部室で会い、

 夜にタワーの屋上で会うが、ラボの話もサンプルの話もしない。

 毎日が刺激的で他にする話がいくらでもあったから。


 ラナは日増しに平常心を取り戻し、明るくなっていった。

 セイジが保護者のようにフォローしつづけたからだ。

 ラナが恐れる担任の山田礼子は、その後ラナに接触していない。

 淡々と担任の仕事と授業をこなしている。


 殆どの授業は退屈だったが、

 体育の授業は、ミュータントを喜ばせた。

(体育に限って、ミュータントは一般性と別カリキュラムだった)

 天井の高い体育館で、発砲スチロールの剣を手にして、

 自由に戦いごっこをするのだ。

 体育教官の矢沢は、地上で応戦する。

 あと一人、矢沢浩一も、なぜかミュータントクラスに入って、地上で戦う。

 入学式の会場でカイの血を吸っていた大男だ。

 二人の矢沢が兄弟なのは、その容貌から一目瞭然だった。


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