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Winged<翼ある者>  作者: 仙堂ルリコ
11/50

職員会議

 二階の窓を開けて、

 翔太は翼を広げ、飛翔した。


 篤志の元へ行きたい。

 衝動に駆られ、

 校内飛行禁止の校則を無視してしまった。


 翔太は2秒で校庭に降りた。

 首に付けられたチョーカーは、反応しなかった。


 突如、翼を広げて飛んで見せたのだから、周囲は騒然としていた。

 女子のけたたましい奇声。

「うわー」

「きゃー」

「飛んだ」

「本当に飛べるんだ」

 校則違反のスマホを出して、写真を撮りまくってる。


「翔太?」

 気配に足を止め、真っ直ぐに翔太を見て、鷹志は囁いた。

 翔太にだけ聞こえる声だった。


 空は雲1つ無く、コバルトブルー。

 眩しいばかりの光の中に鷹志は立っていた。

 

 大きい、とまず翔太は思った。

 昨夜、闇夜の中、足下からの人工明かりで見た姿より、一回り実体は大きい。

 

 漆黒の髪、同じ色の瞳と睫。

 制服から露出した翼も、見たことも無い、真の黒だ。


「お前、飛ぶのはヤバイだろ」

 鷹志は笑った。

 二人の周りに歓声が、また、沸き上がった。

 校庭にいた、翼の無い生徒達。

 校舎の窓から翔太が飛ぶのを見た、同じく翼の無い一般生達が、校則違反も顧みず、美しい二人を撮るためにスマホを向けた。

 鷹志と翔太のツーショットは校庭にいたマスコミ関係者も、撮っていた。


「仲間が一人消えたんだ」

 翔太は、本当のところ、今篤志に言うべき言葉は特に無かった。

 ただ、篤志に会いたかった。それだけだった。

 でも、何か話さなくてはいけないと、さしあたってカイの話をしてみた。


「多分、そいつ、ミスったんだ。ショウタは頭が良いから大丈夫。気にするな」

 鷹志は子犬の頭を撫でるように翔太の髪に指を入れた。

 また、二人に周りに出来た人垣が騒ぐ。


「24時に、屋上で待ってる。それまでラインはいれない。まどろっこしいから、二人だけで会って話そう、な」

 鷹志は早口で、翔太の耳元で囁いた。


「寮生は速やかにタワーに戻りなさい」

 大音量のアナウンスが校庭に流れた。

 翔太の首のチョーカーが、ギュッと締め付ける。


「うわ」

「くそ」

「首輪かよ」

 校庭に残っていたミュータント達は、文句を言いながらもタワーに戻るしかなかった。


 その3時間後、職員室では会議が始まった。


 10クラスの担任と副担任、20人は教頭が入室すると起立、敬礼する。


 後頭部がはげ上がっている、小太りの教頭が目配せすると

 窓に近い位置に立っている教師はブラインドを下ろし、若い男の教師が廊下に見張りに出た。


「2日で2つも、サンプルが取れましたなあ」

 

 教頭は一同を見渡して、柔らかな関西弁で語りかける。

 結果に満足しているのだと受け取り、数名の教師が媚びた笑顔を見せる。


「何をヘラヘラ笑ってますんや。勇み足やと、早速、国からクレームがつきましたわ」

 教頭は怒っていた。


「昨日、飛行中に墜落死した子は不可抗力、事故です。でも、入学式の最中に、伊藤甲斐が死んだのは、始末書の提出を求められました。……担任は誰やったかいな?」

 

 山田礼子は、一歩前に出た。


 「アンタか。矢沢に厳重注意して、今日中に始末書、書かせるんやで」

 教頭は山田教諭の肩を、人差し指でツンと突いて……、職員室から出て行った。

 

 会議の司会は教務主任、1組の矢沢健一教諭に引き継がれた。

 担当教科は体育。

 身長187センチ。

 大きな顔に目鼻立ちも大きい。

 肩幅の広い筋肉質の体型だ。

 

 幾分、猫背気味なのは、伊藤甲斐を殺してしまった矢沢浩一の実兄として、責任を感じていたからだ。


「わ、我が校運営には、国家機関との連携が必要ふ、不可欠で、あ、有りまして……」

 緊張で、言葉をつっかえながら、担任団が周知のミッションを、改めて読み上げた。

 「ミューータントは16年前の超津波以降、低迷し続ける我が国の経済にとって、唯一無二の貴重な資源であれます。

 にも関わらず、既に過半数が諸外国に搾取されております。

 この現実を踏まえ、取得できた112体のミュータントを、一体も無駄にせず、有効活用するのが我々に与えられた……。」


 2701人産まれたミュータントは、既存の日本文化で養育するのが困難だった。

 親たちの金銭的、精神的な負担は計り知れない。

 国から、特別援助金が給付されはした。

 しかし、桁違いの金額で、海外の富裕層が彼らを買い取ろうとアプローチがあった。

 どれ程の数のミュータントが、幼い頃に国外に買われていったのか、日本政府も正確な数値は把握しきれていなかった。

 ただし、その数が1700人を超えていることは掌握していた。

 現在日本に残っているミュータントは1000人余りだ。

 約100人は、富裕層家庭に産まれているので、金銭が絡む取引に応じる必要が無かった。

 彼らは、庭に作られたバードゲージで自由に飛翔し、大切にされている。


 700人は、日本の企業がスポンサーにつき、これも幼い頃より特別な施設の中で隔離され、育てられている。


「残る200体のミュータントが一般家庭で生育された訳です。

 極めて育てにくい翼のある子供を手放さなかった、その個別の理由はわかりません。

 しかし、彼らが、保護者の大きな負担になっていた現状に、例外はないと思われます。

 ミュータントは肉体の構造だけで無く

 精神構造も、突然変異の奇形であると推測されています」

  矢沢健一は、ミュータント達の前科を読み上げる。


 「5組、田坂翔太、金沢市出身、過去五年内に同市で起きた高層階からの不可解な転落事故8件に、彼が関わっている可能性が高いと、調査書にはあります…同じく5組の吉川来夏は2件の……」

 

 特待生候補は、国が提示したリストが元になっていた。

 それは危険でヤバイ、ミュータントのリストだった。


 「保護者には、学園内で死亡した場合、献体すると、誓約書を貰っています。

 必要なサンプルの目安は10体です。それ以外100体のミュータントを、

 この学園での3年間で、身体的特性を国のために役立たせるよう、

 調教するのが、我々に課せられた真の任務であります」



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