続・純白のマント
俺は元々クラスでも目立たないほうで、テストとかもそこそこ良かったけど百点とか連発する程でもなかったし、部活でもそれなりに努力を続けてきたお陰で運動のほうはそれなりだったけど、これまた天賦の運動神経を持つ奴らには余裕で実力負けするレベルだったし。
とにかく人間としてのトピックスに乏しかったわけだ。だから注目される事もなく、そういう状況に慣れてはいないのだ。それがどうだ。今では不相応な能力を身につけてしまったため、心とは裏腹に自然に耳目を集める存在となってしまった。
「大丈夫。今発現していない魔力にも感応するものだから」
計算通りなのか天然なのか、やたらと盛り立ててくるアレサンドロの声に反応して勇士の仲間全員が「最後にこいつは何色になるかな?」と注目しているのがやけに恥ずかしい。でもいつまでも姿を公開しないのも興醒めだしな。ええいままよと背中に回した。が、何も起こらなかった。
「……あれ?」
「色、変わらないね」
分かっていた。そんな事は分かっていた、つもりだった。しかしこうも案の定だと引きつった笑いしか出てこないものだ。しかも皆が注目した中でこれだからな。思いっきりざわついてる。「嘘だろ?」「ああいう事ってあるもんなんだな」なんて声も聞こえる。死にたい、とまでは思わないけど穴があったら入りたい気分だ。
「おっかしいなあ。不良品かな?」
アレサンドロは異変を擁護しようと無理に声を大きくしてくれていた。日本の名曲に「君は人のために死ねるか」というものがある。ほとばしる情熱、これだけは伝えたいという想いをぶちまけたような歌詞が強烈な一曲だ。
俺は人のために死ねるかと言うと、まず無理だろう。死ぬどころか人のためにピエロになれるかと問われても「多分厳しいなあ」となってしまうはずだ。結局は我が身が可愛いものだし。で、アレサンドロだ。アレサンドロはどうして俺のマントが純白のままなのか知っているはずだ。俺でさえ知っているのだから。つまり俺には魔法の素質が皆無だと改めて証明されただけにすぎない。
それなのに、素質皆無な俺を傷つけまいとマントのほうに責任をなすりつけるかのような言辞を繰り返す。君はいいやつだ。それは出会った時から知っていた。しかし今はその優しさが、辛かった。
「不思議な事もあるものだなあ。いやあ、初めて見る事が多いしなあ、そんなもんなんだろうなあ」
「……多分そうじゃないと思うよ」
俺のぼそっとつぶやいただけの反論には聞こえないふりをしながら「用務員さんに言って取り替えてみようか」と俺の肩に触れたアレサンドロの手を、力を込めずに振りほどいた。
「だからね、俺だって分かってるよ。魔法の素質がこれっぽっちもない事なんてさあ。最初からこうなると思ってたんだよ」
「いや、しかし常識的に考えてありえないだろう。人は誰でも魔力の資質を持っていると父上は……」
「ハッセを常識の枠に当てはめるなよアレス」
アレサンドロを制したのは、意外にもゴルディだった。試験の時のあれこれもあったのでこいつは俺の事を嫌っているんじゃないかと思ってたので、こうやってかばってくれるとは全然思っていなかったからだ。
「だってそうだろう? そもそも故郷からして俺達の誰も知らない場所から来たと言うし、頭も良くないのに力と知恵はそれなりにある。動きは武道の心得があるとは思えないほど無茶苦茶なのに、デザイアを倒した事もあるという。弱体化したとされる今でさえヘサッキもまるで歯が立たないデザイアをだ。一体何者なんだ? 問い詰めても要領を得ない解答しか口にしないし、最悪ハッセは悪魔の手先かと思った事さえある」
「ゴルディよ、言葉が過ぎるぞ!」
「いや、ここは言わせてもらいますよヘサッキ。とにかくハッセは謎が多すぎる。最初はそれも何かの魔法かと思っていたが、どうやら違うと今この瞬間判明した。何もかもが常識外れじゃないか。まるで別の世界から訪れたかのように、この世界の調和に背いている。今はその様子はないと見えるが、もしも下らぬ野心でも持って世界を支配せんと動き出した時、一体どうやって止めると言うのだ? 止めようがないのならこの男に世界は握られてしまうのか?」
ううむ、やっぱりかばったわけじゃないのか? でもまあ、ゴルディの言う事も半分は当たってるんだからさすがは稲妻勇士の一員だなって推察力だ。それに実際俺はこの世界にとってイレギュラーな存在だから、不安がられるのも当然。
そういう負い目もあるので、俺は何も言わなかった。正確には何も言えなかった。その代わりにアレサンドロが「ハッセは君が言うような男じゃない!」なんて力強い言葉で反論してくれた。
「目を見ればそのぐらい分かるだろう? あんな澄んだ目をした男が、そして今までも無私の心で接してきたような男が、君が危惧するような存在であるはずがないじゃないか」
「……確かにアレスの言う通りだが、ただ俺は最悪の結果を避けたいだけだ。今はそうじゃないとは分かっている。しかしそれがいつまで続くかだ。純粋な心とて、一度汚れればその時点で変質してしまう。何がきっかけで汚れるか分からない危険なものならば……」
「散々言ってくれるじゃないか」
俺が耐えるだけでその場が収まるなら、俺は沈黙を選びたかった。しかしゴルディの言い分があまりにもあまりにもだったので、思わず声を発してしまった。急な反論に「何だと」とばかりに青い視線をこちらに向けるが、こうなった以上はひるんではいられない。とにかく何かを言うしか道はなかった。
「今の俺はこのマントと同じだよ。これからの生き方によって何色にも染まってしまうだろう。だから俺はここにいるんだよ。穢れ無き道を見定めるために」
今まではあんまりはっきりとした言葉にした事がなかったけど、いつも漠然と考えているような事を初めて形に出来た気がした。実際俺は力だけはあっても頭脳は所詮中二レベルだからな。何もインプットされていないようなものだ。
どっかのスーパーロボットじゃないけど、神にも悪魔にもなれる存在と言えるだろう。いや、自分で神になれるとか言うと怪しい教祖様みたいだけど、とりあえず悪魔になるほうは簡単だろう。自分が欲望のままに突き進んでその時時に応じてチートパワーを爆発させれば、すぐにでもこの世界の暗黒時代を創出する悪魔の一丁上がりだ。
でも俺は欲望のためだけに突っ走るなんて格好悪い生き方はしたくない。どうせそのうち潰える命だ。愛と正義と希望のために使いたいじゃないか。偽善と人は言うかもしれないが、偽悪よりは偽善者でありたいと心の奥底では、一度死ぬ前からずっと願っていた事なんだ。
美しく生きるのは難しい。どんな世界であってもそうだろう。幸い、今の俺には力がある。ならば難しい生き方を、以前なら諦めていたような生き方をしてみたいと思うのだ。そんな俺に似合う色は純白以外の何があるだろうか。そういうわけで、この色合いは気に入っているのだ。誰にも文句は言わせないぜ。
「……そうか。勝手にすればいいさ」
しばらくの沈黙が続いた後にこう吐き捨てたゴルディもきっと分かってくれたと思う。希望的観測が過ぎるかな。人は簡単には分かり合えないけど、だからといって諦めて終わりたくはないのもまた人の心の希求するものであろう。
もっとも、現状を冷静に把握するとまだまだ溝は深い。しかしまさかそのゴルディとあんな事になるとは、この時は思いもよらなかったのであった。
やはりその場しのぎ的な小ネタでは伸びに限界があるようで、来年は時間はかかるだろうがもっとしっかりした話で捲土重来せねば。




