表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
稲妻勇士  作者: 沼田政信
68/79

続々・真心

「では、始め!」


 今日の天気は曇り空だが雨の気配はなかった。少し涼しい風と緊張感が露出した手足を包む。


「うらあああああっ!!」

「むうっ!」


 振り回される丸太の狙いは足下だと分かっているのでバックステップでこれをかわす。しかし意外と伸びてくるリーチゆえに紙一重で直撃だった。危ない危ない。


 今日の模擬戦はイルラスと戦っている。イルラスは身長こそ低いがとてつもない怪力の持ち主だ。自分の太腿ほどの太さがある、取っ手のついた丸太をさながらトンファーのように振り回すのだから。


 さすがに今のイルラスにとってはでかすぎるためかスピードはそれほどでもない。しかし一発でも当たるともう動くに動けなくなるぐらいに威力は絶大だ。前に模擬戦でやった時は顔面に直撃して、二三日は頭がクラクラして使い物にならなかった程なのだから。


「もう一発たりとも喰らわないぞ!!」


 そう覚悟して臨んだバトルだが、前回より間違いなく切れ味が増しているので回避するにしてもギリギリの展開を強いられた。


「ふっ! はっ! はあっ!! どうしたあ! 攻めれんのか!?」

「くっそ! お前に言われんでも!」


 イルラスは俺達同世代の稲妻勇士と比較しても鍛え抜かれたボディを有しているのはもはや言うまでもない。まさしく筋肉の楼閣だが、そんな彼でさえ扱うのが大変なのがこの丸太のトンファーだ。


 しかしそれも無理からぬ話。本来この武器は鍛え抜かれた精鋭中の精鋭である一握りの勇者が巨大なモンスターに立ち向かう際に用いる武器そのものなのだから。本来使えるはずがない年齢にしてそんなものを振り回している。


 当然未だにイルラスの肉体は成長中だ。大人になる頃には一体どうなっているのか。案外無理な育成が祟って身長が伸びなかった星飛雄馬みたいになるのかな。でもパワーは抜群で。


 いや、他人の将来より自分の現在を心配せねば。それには集中するしかない。よく流れを見極めれば、俺にかわせない攻撃は存在しないのだから。


「とどめじゃ!!」

「ええいっ!!」


 イルラスは右半身をこちらに向けたかと思うと丸太を突きの要領で俺の胴体を強襲した。俺は三日月斧を両手で持ち、柄の真ん中で質量の凶悪な突進を受け止めた。


 衝撃がオリハルコン越しに両腕に伝わり、しびれる。攻撃を受け止められたイルラスの口元がにやりと開いた。


「これまでじゃのう! わしには左腕もあるんじゃ!!」


 イルラスは左手をサイドスローで俺の方へかざした。トンファーが時計回りに俺の脇腹をえぐらんと突っ込んでくる。両手でこんな質量のモンスターをある程度自在に振り回せるのだから普通は直撃を受けてしまう。


 だが俺はそうじゃない。集中力がピークに達した時、あらゆる物体はスローモーションに見えるようになるからだ。横からジリジリと近寄ってくる丸太。俺はしゃがんで下をくぐると間を置かず左手に持ち替えた三日月斧を体ごとイルラスの肉体めがけて振りかざした。


「ぐうっ、速い!」

「それまで!!」


 三日月斧の切っ先がイルラスのゴツゴツした肌に触れるか触れないかの寸前、クラッシュ先生の叫び声が聞こえたので俺は筋肉を静止させた。


「くっ、まいったぞハッセ」

「ふうっ、どうも。しかしまた技の切れ味が増してたな。俺が昏倒しててもおかしくなかった」

「でも出来んかった。むうっ!」


 俺とイルラスの荒い呼吸音だけが響く。刹那、イルラスの首筋がかすかに赤く染まった。寸止めは成功していたが、音速を超えたスイングが生み出したソニックブームが奴の硬い皮膚をかすかに切り裂いたのだ。即座に臨席していたリーベル・ゴルバック先生の回復魔法が輝いた。


「上手い回避から見事な反撃だったぞハッセ!」

「はい! ありがとうございます!」

「イルラスも常に攻める姿勢を見せて悪くはなかった。ただやはりもう少し軽い武器を使ったほうがいいんじゃないか? ハッセみたいなかわすのが上手い相手だと滅多に当たるまい」

「いいや、わしにはこれしかありえんのじゃ。結局わしの力不足が悪いんじゃ。もっと鍛えんといかんのう」


 あくまでもストイックなイルラスの向上心には舌を巻く思いだ。前に聞いた話だけど、イルラス達の村が七十年前ぐらいに輩出した勇者にメイーヌ・ブルミングバーグという男がいたみたいで、そのメイーヌが用いたのがあの極太トンファーなのだ。


 だから村の力自慢は絶対にこの武器を使いこなそうと躍起になるものであるらしい。イルラスも自分と同じ姓を持つ同郷の先輩に憧れ、彼に追いつこうとしてあんな無茶な武器を振り回しているのだ。


「メイーヌになるには後十年はかかる。しっかり鍛錬するんだぞ!」

「はいクラッシュ先生!」


 メイーヌさんはドラゴンスレイヤーとして名を馳せたと言う。まだそこまでは行ってないんだが授業でも習うような有名な英雄らしい。でもイルラスは世界に知られる英雄であろうとするより、大切な一人の英雄でありたいタイプだろう。


 それが誰かはもはや言うまでもなく、今は任務のため離れ離れになっているラメニルスだ。あそこまで溺愛という言葉がそっくり当てはまるパターンを見るのは前の世界を含めても初めてだ。だから離れ離れになったその日から、一昨日までずっとそわそわしっぱなしだった。


「無事でおるかのう、ラネェ……」

「まあまあ、知らせがないのは無事な証拠って言うし、心配な気持ちは分かるけど堂々としなきゃ」

「そんなんよう出来んわあ。ああ、ラネがおらんようになったらわしも生きる意味を失うようなもんじゃけえ」


 こんな弱々しい事を言いながら教室をウロウロしたり、眠れないからと言って夜な夜な寮を抜け出して草原をどすどすと走り回ったり。完全に挙動不審だ。


 俺もニーナがいなくなって不安だった。でも俺以上に心配丸出しなイルラスを見ていると「さすがにああはならないようにしよう」と自分を律する心が芽生えてきた。だから割と平気でいられた。でも忘れたわけじゃないんだよ。


 そして数日後、勇者学校に一通の手紙が届いた。内容は無論、ミッション大成功って事だ。人喰い熊は無事に滅されたらしい。俺達稲妻勇士一同はほっと胸をなでおろした。


「それでいつ帰ってくるんじゃ!?」

「まあ落ち着けイルラス。えっと、明後日には帰るって書いてるぞ!」

「全員無事なんじゃろうの!?」

「だから大丈夫だって。もちろんラネもだ。ほら、これ書いてるだろ?」


 今回の任務に参加したアレサンドロ、ゴルディ、ユーレン、ラメニルス、そしてニーナも直筆で「自分は無事です」的な一言メッセージを添えていたが何と書いてるかさっぱりだった。未だに文字を読むのは俺にとって鬼門だ。


 ただこれでイルラスはようやく落ち着きを取り戻し、今日の模擬戦も全力でぶつかり合ってしまったわけだ。ああ、いっそメンタルグダグダなまま相手してくれたほうが俺としては命の危険はなかったんだけどな。まあしょうがないか。


 で、今日がその帰ってくる日だ。授業も午前中で終わり、それぞれ自習となってからも俺は「いつ戻ってくるんだろう」「怪我とかないといいけど」なんて考えながら過ごしていたので復習も手につかなかった。イルラスも多分そうなんだろうな。さっきからずっとフィールドを全力疾走している。


「帰ってきたぞ」

「おおっ、やっとか!?」

「ラネは? ラネはどうなんじゃ?」

「全員いた。無事だ」

「よっしゃあ!!」


 偵察に赴いていたルサカが朗報を届けてくれたのは太陽が西へ傾きかけていた頃合だった。間もなくポーラティスに残っていた勇士一同は門の前にズラリと並んで英雄たちを出迎える準備をした。夕焼け色に染まった五人は、いずれも怪我などしていなくて元気そうだった。


「アレサンドロ・マイル以下五名、人喰い熊を倒して全員帰還いたしました」

「うむ。報告はすでに届いておる。抜群の働きをしたそうじゃな。よくやってくれた。今日はゆっくりと休み、明日からはまた良く励むのじゃぞ」

「はい!」


 今回の任務における稲妻勇士のリーダーであるアレサンドロがオダヴィス校長に報告し、校長がアレサンドロ達を讃えてひとまずレセプションは終了した。


 その途端、即座にイルラスが走り出した。その目はすでに潤んでいた。もっと大事な時のために涙はとっておくとかケチらず素直に泣ける人は素晴らしいと思う。


「ラネエエエエエ!! よう無事で帰ったのう!! わしゃあ嬉しいぞ!!」

「あはっ、お兄ちゃんありがとう! ぼくも無事に会えて嬉しい」

「大変じゃったか? 危険じゃったか?」

「ぼくは後方支援じゃったけー大丈夫じゃったよ。それよりニーナがね、びっくりしたんよー」


 どういう事かと驚嘆と疑念の視線を向けると「いやあ、あの時は僕の方もびっくりしましたよ。皆は僕が食べられたと思ったはずですよ。実際は角度的にそう見えただけで無事でしたけど」などとわざとらしい説明をしてくれた。こいつ、また舐めプかましたらしいな。


「ともあれ皆無事に帰っただけで、俺は良かったなって思うよ。だってさ、イルラスなんてあんな心配そうだったんだから。弟を心配に思うのは兄として当然なんだろうけど」

「ふふっ、ところで初さんは僕の事、心配してくれました?」

「うん、まあ、それなりにはね。でも無事に戻ってくると信じてたから」


 どうせ不死身だもんな、とは言えなかった。でもどうせ戻ってくるのは見えていたのにあんな心配に思うなんて、終わってみると案の定無事だったわけだしどうかしてたんじゃないかって思う。


 ともかく、こうして一時的なイベントは終わりまた元の日々に戻った。

次話はゴールデンウィークに投稿予定。相変わらずそんなに長くはありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ