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「さて、ここらでいいだろう」
異常に顔が格好良い稲妻勇士の人は俺ともう一人、キリアムって俺の知らない合格者を呼んだかと思うと人気のない草原の真ん中にまで連れ込んだ。しかし俺には何のためにこうなったのか皆目見当がつかなかった。
いや、まったく心当たりがないと言えるほどクリーンな存在ではない事は他ならぬ俺が一番よく知っているわけだが、でも彼がそんな秘密を知っているとは思わないし、どうなんだろうか。ただいい話か悪い話かで言うとどう考えても後者だろうって事ぐらいはさすがに理解の範疇であった。
「おっと、申し遅れたな。俺はゴルディ・バーロン。今年から稲妻勇士の二年生となる。よろしく」
「え、ええ、こちらこそよろしくお願いします。ええと、それと俺は初瀬顕真って言います」
「それは知っている」
「あっ、はい」
悪いイメージばかり想像していたが、いざゴルディが話しかけてきたところ案外棘のない声だったので、俺としてもほっとした。でもそんな気分でのんきに返事をしたところ、今度は割と強く冷たい口調で返されたのでこれまたおっかなびっくりな気持ちにさせた。
黄昏の光を受けてなおキラキラと輝く美しき瞳のその奥では俺をどんな姿で映しているのだろうか。素晴らしいポテンシャルを秘めた頼もしい同志、じゃないよね、多分。もしそうならもっと人間的な温もりがある対応になりそうなものだから。
でもこれ以上脳内で空想を繰り広げたところで答えは出るはずもなく無駄なので、おずおずとながら「ところで何でここに呼ばれたんですか?」と尋ねた。ゴルディは笑顔を作りながらこう答えた。
「ハッセくん、君ねえ、よくもまあやってくれたものだね」
「えっ、何をです?」
「バビロの事だ。彼の事は幼い頃からよく知っているが非常に優秀な男で、実力に関しては随一だと思っていた。まあ今年は色々と妙なのがいたから最強とまでは言えなかったかも知れないけど、普通なら当然合格して然るべき資質を持った人物であったわけだ」
バビロと言えば模擬戦で俺にワンパンKO、じゃなくてキック一撃で吹っ飛ばされたあの性格悪い貴族か。ただ確かに実力はなかなかのものである雰囲気はあった。まあ実力差がありすぎて尊大な性格以外はよく分からなかったけど。
「ええ、それはまあ、そうだと思います」
「そうだろう? そのバビロをよくもまあ、ああも傷めつけてくれたものだ」
「ええ、まあ、それは……」
やばい、もしかしてこの人怒ってる? 縁故があって出来レースで採用しようとしたバビロをボコボコにのした俺を恨んでる?
いやいや、でもそれって原則論から言うといけない事なんだし、俺が恨まれる筋合いないよね? ただ感情的に言うとそこがまたこじれてくるものであって、ううん、どうなんだろう。俺は強気に相手を突っぱねる事も出来ず、ただ戸惑うのみであった。
それが表情にも出ていたらしくすぐさま「そんな変な顔をしないでくれ。俺の思っている事は君が思っているものとは違っているはずだ」と言われた。本当に大丈夫か?
「ただね、バビロを上回る君の力を試してみたくなったんだ。この願い、聞き届けてくれるかな?」
「えっ? どういう事?」
「言うまでもなかろう」
俺の疑問はこの一言であっさりと振り切られた。しかも腰に巻いていた茶色い紐を抜いて、くるくると大きな弧を描くように回しながらこれを言うのだから正直勘弁していただきたい。でもそう言える雰囲気ではない。ゴルディは明らかにとっくに臨戦態勢を整えているのだから。
案の定、俺が返事する前に「よし、勝負だ!」などと勝手に話を進めて襲いかかってきた。いつ誰がお前の勝手な願いに「いいとも」と返事をしたんだ! でもこうなったらもはや拒否は出来ない。俺だってむざむざ打ち付けられたくない。じゃあ戦うしかないだろうよ。
俺はゴルディの鞭による攻撃をバックステップでよけると三日月斧を顔の前に掲げて相手を睨みつけた。
「ねえ、ハッセ君よ。鞭っていい武器だと思わないかい?」
「はい?」
戦いの最中なのに、突然こんな事を聞いてきたのだが俺としては答えようがなかった。
「だって君のそれよりリーチが長くて、バビロのサーベル以上に軌道が読めないのだから!」
「ぎゃっ!!」
ゴルディは相変わらず俺の答えを聞く前に自分の結論を披瀝してきた。鞭を振り下ろした一撃とともに。
「くっ、このお、何だ……、ぐうっ!!」
確かに鞭の無軌道な攻撃を見切るのは簡単じゃない。でも冷静に考えて鞭程度なら多少食らっても平気なんじゃないかと思って回避せずにいたところ、意外と痛みがあったので思わず声を出してしまった。
想像以上のダメージだ。俺の喘ぐ声を鼻で笑うゴルディはこうなる事を前から知っていたみたいだ。
どうやらこれは単なる鞭ではないようだ。痛みの質から考えると、ちょうどパレストリーナ王国でマロールと戦った時、黒曜石の破片を飛ばされてチクチク痛かったあれと似ていた。
はっきりとした質量を持った痛みと鋭く切り裂かれた傷跡。おそらく鉱物か金属か、そういう硬くて鋭利なものが鞭に嵌め込まれているのだろう。どうやらガリアンソード、いわゆる蛇腹剣をもっと鞭みたいな外見にしたような代物であるらしい。
機甲界ガリアンというアニメの主役ロボットが持っている武器だからガリアンソード。井上大輔作曲、EUROXというキーボードに加えてヴァイオリンを奏でる関根安里が率いるバンドによって奏でられる主題歌「ガリアンワールド」は名曲だが歌詞に英語が多い事でも知られる。
ただギリギリ歌える。英語の発音がもろ日本語になろうが歌える事は歌える。これが関根らが所属しておりEUROXの前身といえるTAOというバンドによるバイファムのOPとなると無理になる。ガリアンのED「星の一秒」も英語分が多すぎるから無理。特別歌いにくいとかじゃなくて、英語が多すぎると頭が拒否反応を起こすのだ。
EUROXはその後中森明菜と出会い、実験的なアルバムをいくつか出している。こういう形でメジャーシーンと接触するとは。関根はその後作曲や編曲をこなす人となるが、特にアレンジャーとして間奏で電子ヴァイオリンのソロを入れたり、それにあの金属的な独特な美学を持ったサウンドは格好良い。
例えばclassというデュオがかつて存在した。世間的には「夏の日の1993」の一発屋として認識されているかも知れないがその次に出した「もう君を離さない」も前作のヒットを受けて結構な売上を記録している。そしてその「もう君を離さない」の編曲が関根安里だけど、これがやたらと格好良い。アレンジだけはね。
曲はまったりしてるしclassの声質も関根の美意識とはまた異なった個性だから全体としてちょっと野暮ったくなっているのが惜しいところ。日本のサイモン&ガーファンクルを作ろうなんて野心があったらしいけどさすがに役者が違うかなって。
classに関してはオリジナルアルバム全部持っているが一番合ってるアレンジャーはやはり十川知司だと思う。十川と言えばCHAGE&ASKAの編曲、と言うかそもそもclassというグループ自体が彼らにインスパイアされてるっぽいと言うかねえ。「夏の日の1993」のジャケットで一人が無駄にサングラスかけて帽子被ってるのもCHAGE的なイメージなのかなあって。
とにかく十川によるアレンジはいかにも九十年代前半って質感が良い。「夏の日の1993」とかまさに王道を征くって感じだ。あのイントロのドーンときてガシャーンとやられる感覚とかね。歌詞についてネタ的に色々言われる事もあるけど、ファーストアルバムの二曲目とか各所で散々言い訳してるし触れないでおこう。
それと活動期間がやけに短いのも特徴だ。元々音楽が好きで今までずっと続けてきた生まれも育ちも違うし知り合いでも何でもない三十代の男二人がプロデューサーによって引き合わされてデュオ結成という成り立ちであったらしく、別れるときもあっさりしてしまうものなのだろうか。
その後何度か再結成とかしつつ、なんかどこかの社長に乗っ取られたけどあれはなかった事にしてもいいかな。大体何が「冬の日の2009」だよ。白々しい替え歌。
社長は、まあそれなりに歌えてはいるようにも聞こえるけどやっぱりオリジナルと比べると単純な上手下手って部分もそうだけど声の伸びなんかが全然違ってて、そこがプロと素人の差なんだなと非常に納得出来るからある意味必聴かも。
その後社長と組んでいたほうは病気で亡くなられてしまいました。そして残された社長は、有名なスタジオミュージシャンとバンドを組んでカバーアルバム出したりいかにも成金なプレーをしてるけど、まあ本人が楽しければいいんじゃないかな。クオリティ云々じゃなくて。あれで元classって名乗るのもなかなかのタマだけど、事実ではあるんだし。
とにかくそんな事は今はどうでも良くて、ゴルディの鞭をどうにかしないとじわじわ嬲り殺されるだけだ。しかもいつの間にか濃い霧がかかっており、ゴルディが今どこにいるのかさえ掴めなくなってしまった。でも鞭による攻撃は四方八方から飛んでくる。
これはきついぞ。見えない敵に囲まれて一斉にリンチ受けてるみたいだ。俺は目を凝らして正面を見据えたが、見据えた先にはぼんやりとしたシルエットだけしか浮かんでいなかった。




