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稲妻勇士  作者: 沼田政信
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「もうじき始まる時間ですね」


 ニーナがそう言った直後、大砲が弾丸を射出したかのようなドーンという大きな爆発音が鳴り響き、空に白い靄がかかった。俺は思わず声を上げて驚いたが、別に敵が急に襲ってきたわけでもなくこれがまさに試験開始を告げる合図であった。とんだ驚き損だった。


「あっ、アレスだ!」


 周囲が静まったところでおもむろに現れた十人ほどの一団の中に俺はアレサンドロの姿を見つけた。しかしこいつらの格好がまた愉快なもので、俺は思わず目を丸くしてしまった。


 セーラー服みたいな尖った襟が印象的な上着と半ズボンがいずれも純白で、丈はそれぞれ上腕と腿の三分の一程度しか覆っていない。地肌の色がうっすらと透けているシースルーのハイソックスにつばのない帽子も被っているがこれもやっぱりカラーはホワイトだ。


 そんな中でベルトとスカーフ、それと帽子に付いている羽の赤が目に鮮やかだ。靴も赤い。全体的には白基調でアクセントで赤色が差し込まれている印象で、格好良いと言うより可愛らしくて鼓笛隊の一団みたいだ。


 左胸に取り付けられているエンブレムの縁取りが金色で、それがキラキラ輝いているのはとても綺麗に見えた。ニーナが言うにはこれこそが稲妻勇士の制服であるらしい。つまりここに集った勇者候補生たちのまさに到達点が今出てきた素敵なお服を着た集団だという事だ。


 事実、アレサンドロ達の登場によって場の空気は一変した。今まではギスギスした緊張感に溢れていたのにそれが全く消え失せて、代わりに漏れ聞こえるのはため息ばかりだった。


「ああ、格好良いなあ」

「僕もきっとあの服を着てみたい」


 この世界の少年たちにとってはあの白基調の制服は夢にまで見るような憧れそのものなんだろうな。でもまあ、気持ちは分からないでもないけど。


 多少妙なデザインでも肉体全部が強く美しいエネルギーの塊のようなアレサンドロみたいな人間が着るとそれだけで素晴らしく見えてくるものだから。実際俺もアレサンドロやその他何人かについては格好良いなと素直に思ったから。


「はい全員注目! これより王立勇者学校入学者を決める選抜試験を開催します。ええ、かく言う私は現在の稲妻勇士筆頭、ヘサッキ・ヤイェスと申します。時が来れば皆さんの仲間になるでしょうし、知っている人は知っているでしょうが知らなかった人は一応名前を覚えておいてくださいね」


 アレスと同じ服を着た、背丈が高いお兄さんが開会宣言をした。無駄な肉がひとつまみもない手足がスラリと伸びた長身に、オレンジに近い茶髪を軽く横に分けただけの非常にシンプルな髪型は清潔感に溢れ、颯爽とした印象さえ受けた。


 まさにリーダーたる資質の男であろうとひと目で理解出来た。ヘサッキ・何とか。苗字は凄く発音難しくて頭のなかで口ずさんでもヤエスとかにしかならずに難儀した。


「各地に散らばる先輩方からの推薦を受けた皆さんの事ですので、誰もが優秀な素質を持っているのは分かります。しかしその優秀な中からさらに優秀な人を選別せねばならない。これは私達に課せられた重大なる使命です」


 年齢的にはもう中学生ぐらいではないだろうか。声変わりする寸前で高い声も低い声もある程度使えるようで実はどっちも上手く使えないという中途半端なところを無理やり低音で押し切ろうとする声がいささか苦しそうだ。


「ここにいる全員が私の後輩となるならばどれほど良かったでしょう。皆さんと同じように私達もまた悩み苦しみます。しかしそれもまた神に与えられし定めだとすれば、皆さんの使命とは私達をどこまでも悩ませてくださる事でありましょう。持てる実力を十二分に発揮し、私如きをはるかに凌駕するような素晴らしい勇者に巡り会える事を大いに期待します」


 ただ喋り方が堂々としているので声がどうとかはあまり気にならなくなった。終わってみると彼の本質と言える秋空のように爽やかな余韻だけが残る、心地良い挨拶となっていた。続いて俺達が喋る番になった。


「では、これから全員に自己紹介をしてもらいます。名前、魔力、武器、意気込みをお聞かせください」


 め、面接だと!?


 はっきり言ってこういうのは苦手だ。特に自分の特技とか。あんまり特別に何が出来るとかそういうタイプじゃなかったからなあ。顔の血が引く音がする。首筋を冷や汗が流れる感触だ。奥歯が勝手にガタガタと震えてしまう。


「大丈夫ですよ。今の初さんは力とその三日月斧があるんですから」


 青ざめた顔をした俺に気付いてか、ニーナがそっとアドバイスをくれた。お陰で俺は正気を取り戻した。


 確かにニーナの言う通りだ。実力はあるほうなんだから、俺はもっと自分に自信を持とう、堂々とした態度でいれば何も問題ないはずだ。でもいきなり堂々とは出来ないもので、やっぱりおどおどしてしまう。そうやって俺の心と戦っている中にも時は流れ進み、面接はスタートした。


「では一番左の、赤毛の君からどうぞ」

「はい! 僕はギア・ジェマールと申します! 火の魔法が得意です! 武器は鋼の剣です! 父は故郷であるセラードの守護勇者を務めています。受験は今年が初めてですが必ず稲妻勇士となって父のような、いえ、父を超えるような立派な勇者となる事を誓います!」


 一人目だと言うのにまったく臆する事なく、張りのある高音で堂々と自己紹介していた。やるもんだなあ、さすがは勇者候補。それとも最初から言う事を考えておいたのだろうか。


 それならアレサンドロもちょっと助言とかしてくれれば良かったのに、ただまあ彼の性格からするとそういうインサイダーなデータの提供なんかはしそうにないし、そこは仕方ないか。それにあいつは俺を買ってるからこの程度の関門突破出来ないはずがないぐらい思ってそうだし。


 それはいささか買いかぶりすぎなんだよね。本当の俺はかくも臆病で、後何人ぐらいで俺の番が来るかを横目で計算しつつ他の受験生のコメントから使えそうな部分がないかを真剣に考えてるような男なのに。


 ちなみにざっと人数を数えてみたところ、後十人ぐらいしたら俺のところに回ってくる計算だ。うわあ、やばい。緊張してきた。とにかく、他の人の自己紹介をしっかり聞いてそれっぽい事言えるようにしないと。


「俺の名前はギルガゴル・ヴァランス」

「水の精霊を操って、特に霧を作る事が得意です」

「受験は今年で二回目です。前回から一年、今日のために鍛え直してきました。必ず合格してみせます」


 色々な奴らがそれぞれ持ち味をアピールしてはいるのだが、特に参考になるものでもなかった。それも当然で個々人で事情なんて全然違ってくるものなんだから。ああ、俺の直前。まずはマロールが指名された。


「はいな! うちの名前はマロール・ミュルク言います。風の精霊は昔からの友達で、武器はナイフと後は精霊の加護があります。なぜ受験したか言うと、草の民の優秀性をもっとあまねく世界に広めたいなと思うたからです。そのためにはうちがもっと強うならなあかん。なら強者の集まるここやろと決めたわけや。ほな、よろしゅう!」


 マロールが草の民の名を出した瞬間、会場はにわかにざわついた。それだけ草の民の知名度は高いという事だが、本当に優秀性を広める必要とかあるんだろうか。いや、そんな事を心配してる場合じゃないぞ。もう俺の出番だ。


「では次はその横の君、どうぞ」

「は、はい! ええ、わ、私の名前は初瀬顕真と申します」


 アカン、ピッチャー第一球でいきなりすっぽ抜けの大暴投となってしまった。何より情けないのは自分の声よ。ブルブルと弱々しく震えている上に素っ頓狂なピッチ。緊張してるのがバレバレでこれは勇者が出していい声ではない。


 まずい、まずいぞ。とにかく一度心を整えねば。


 俺は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。周りから発される「とろとろしてんじゃねえよ」といういらだちの視線が鋭く突き刺さる。ごめんね皆。とろくさいのは昔からなんだ。もうちょっと我慢してね。


 一度深呼吸してみたら何となく気持ちが大きくなったような気がしたので、ゆっくり、しかしなるべく堂々と大きな声で、前を向いて喋るようにと心がけて続きを述べた。


「魔力はありませんがその分力はあります。武器はこの三日月斧です。これを振り回して勝ちます」


 ここまではいい。しかし次だ。意気込み。つまりは志望動機だ。いや、もはやこの状況なのだから開き直るしかない。俺は俺であって俺じゃないかのように、キリッと睨むように前を向きこのように言い放った。


「私は、私がこの世界に生まれたのは勇者となるためだと信じています。私が勇者となった暁には、この世界を人が人に優しい世界にするため、私に与えられたこの仮初の生命を全て投げ出す覚悟です。そのために、正しき心を持った勇者となるために、同志の集うこの勇者学校で特に心を鍛えたいと強く願っています。だから今、私はここにいます!」


 ふう、とりあえず言い切ったぞ。ほとんど息継ぎもなく、頭に浮かんだ言葉を全部並べ立てただけだけどとにかく言い切った。言い切れた。それだけで俺にとっては戦いだった。


 全身ががくがくと震える。自分が吐き出す呼吸が耳に入ってくる。次第に激情の波も収まり、代わりに体中の力が抜けていく。


 ここで俺は俺が三日月斧を選んだ事に感謝した。こいつの支えがなければ俺は地面に崩れ落ちていただろう。でもとりあえず第一関門突破だ。後は実力を見せればいいんだから、どうにかなるだろう。


 終わってみるとなかなかの爽快感だ。急に背負っていた荷物が軽くなったみたいで、俺はようやく失っていた笑顔を取り戻した。それからもしばらく面接は続いたが、誰が何を言ったとかさっぱり覚えていない。

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