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稲妻勇士  作者: 沼田政信
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17/17

 翌朝、とりあえず王様の様子はどうなのか確認するため朝の挨拶に出向いた。放火魔が野次馬となって火事場に舞い戻るようなものでいささか気が引けるのだが、それでも気になるものは気になるから仕方ない。


 夜には無責任に「大丈夫です」みたいな事を言ったけど、本当に大丈夫なのかは俺にも分からないのだから。実際言いたいことを言っただけだもんな。後は王様がどう感じたかだけど、自ら発した言葉とは裏腹に確信を持ってはいなかった。


「頼むよ。俺が無責任な放言野郎じゃないって証明してくれよ」

「何をぶつぶつ言ってるんだハッセ」

「いや、何でもない。それよりルサカたちは昨日の夜、どうしてたんだ? 誰もいなかったと思うけど」


 不安を見透かされたように声を掛けられたが、ここはうまく逃げられた。ルサカが言うには、本来フィールがいるべき部屋がもぬけの殻になっていたので周辺を色々探っているとある豪華な寝室にいささか年は召されているもののそこそこ綺麗な婦人が眠っていたという。


「信じられまい。それが国母パカバーナだったのじゃから」


 こっちの話に便乗してきたデザイアがいたずらっぽく笑いながら言う。これに俺は驚き「へええ」と間の抜けた声を上げた。ノーメイクでも戦える程度なら何であんなグロテスクな化粧をしていたんだろう。あれで若作りでもしていたつもりなんだろうか。その考えるところは、俺には及びもつかないラインに到達しているようだ。


「それで、どうしたの?」

「少し絞めた」

「要は諸悪の根源じゃからの。大丈夫じゃ。殺しはせんかった。ただ頭を使い物にならなくした程度じゃ」


 うわっ、怖っ! 程度とかやけにさらっと言ったのがまた物騒だ。具体的にどうやって、どんな症状がとかは聞く気も失せた。そうしているうちに王宮まで着いた。


 今日も前と同じく人だかりが出来ていた。パスカルの人達は朝が早いんだな。そしてこの人達は昨日の夜の事なんて何も知らない。


「でも王宮じゃあ一大事ってなってるだろうし、ちゃんと挨拶してる暇あるのか?」

「そこは大丈夫みたいですよ。ほらっ」


 朝もやを切り裂くような威勢のいいファンファーレが響き、王様が顔を出した。ただ一人だけで。


「あれ、国王様一人だけなのか?」

「国母様はどうなされたのかしら?」


 王宮に集まった民衆がざわつく。当たり前だ。たった二回しかここに来ていない俺達だって違和感を覚える光景。ましてや毎日のように通っているパレストリーナ王国の民にとってはいかほどばかりか。


 兵士たちが「静まれ! 静まらんか!」と張り上げて無理にざわめきを殺して回っていた。王様万歳と誰彼問わず叫ぶ前のような熱狂は息を潜め、戸惑い混じりの沈黙が長く流れた。


 非常に重い空気だ。冬にように張り詰めている上に夏らしいじっとりとした暑さも感じられる。でも今一番その空気を浴びているのは王様だからな。国王の華奢な肉体は国民の注目という大嵐に耐えられるのだろうか。


 メルクリシスはなかなか口を開かない。表情は目つきがきりりと引き締まっており、ちょっと印象が違っている。前はもっと無気力そのものだったが、今は不安げながらもその目には確かな光が灯っているように見えた。


「もしも出来る事ならこの場から逃げ出したい。しかしそれは出来ない。なぜなら自分は国王だからだ。望んで得た地位ではないにせよ、そこにいる以上は存在の義務から逃れられない。怖い。でも自分が立ち向かうしかない。この国のためには」


 俺は彼がこう叫びたいのを必死にこらえているように映った。ちゃんとこういう感情もあったんだなと安心しつつ、だから王様は偉いんだと変に納得した。そしてついに彼は言葉を紡ぎ始めた。


「親愛なるトワナの民に告ぐ。余がパレストリーナ王国を統べるようになって一年余りが過ぎた。しかしその内実は自らの無力さを噛みしめるのみであった。それでも優秀なる臣下の助けを得てどうにかここまで安寧を保ってきた。しかし、今は王宮内部でさえ数多くの陰謀が蔓延り、この国を我が物にせんとする邪な野心で満ちている。悲しい事に、我が母上もそのような邪気に触れて気が狂ってしまわれた。今は故郷で療養している」


 ようやく口を開いたかと思うとこのような内容をポツポツと、しかしはっきりした口調で語った。つまり、あの厚化粧魔神は追放されたって事だな。めでたい話だ。


 しかし実際は気が狂ったというより狂わされたわけで、デザイアは一体何をしてあんな権力欲の塊みたいな物体の心をそうさせたのだろうか。考えるだけで恐ろしい。


 それにしても邪な野心の発生源が自分の母親だって事をぼかした言い回しなのは息子としての優しさか。以降、メルクリシスは自分もまたその邪気に操られ、多くの過ちを犯してきたみたいな話を具体例を色々出しながら切々と語った。


 はっきりとした口調では言いにくい内容もかなり含まれているため、昨日のよどみない口調とは異なりところどころ声は途切れ逡巡しながらの挨拶となっていた。


「本当にここまで言っていいのだろうか。不要な混乱を招きはしないだろうか。いや、しかし今言わねば誠意の証明にはならない」


 色々な事を考え、悩みながら立ち向かっているんだと、俺にも分かるようだった。そして最後にはこのような発言まで飛び出した。


「そして余は、そもそもの問題は権力が一人に集中する構造であると考えた。王とて人間であり万能ではない。ましてや余のような無力な人間が様々な力学によって王となってしまえば、そこにあるのは民の不幸のみ。それではいけないと思う。だから、これからは各地から賢人を集め、議論によって国を動かすのが良いと思う。余はパレストリーナ最後の王となり、それ以上の事はもはや何もすまいと考えている。突然の話だが、諸君らはどう思われるだろうか」


 人々はあっけにとられていたが、次第に手を打つ音が響いてきた。最初は小さく、しかし時を経るにつれてそれは嵐のように大きく成長して広場全体にこだました。誰からともなく叫ばれる「王様万歳」の声。この国の人々にとって初めて聞く、メルクリシス国王の真実の言葉がこれだった。


 今までのように誰かに操られた言葉をただ再生するだけの装置ではない、誠実な心のままに紡がれた言葉は決して流麗ではなかったが、それゆえに心を打つものだった。俺も気付いたら心からの拍手を王様に送っていた。


「とりあえず一件落着ですね」

「そう、なるのかな。うん」


 その後行われた話し合いでは何やら政治がなされたみたいで、今回の件に関しては以下の様な「真実」がメルクシリスとアレサンドロの共同声明として発表された。


「マーブルク領主レアンドロンに仕える身であったフィールは世界征服の野心に取り憑かれた。そこで闇魔法の使い手であるが幼く判断力が未熟だったパレストリーナ王国のメルクリシス王を脅し、その力を利用して手始めに領主レアンドロンを暗殺しようとした。しかし計画は失敗。レアンドロンが息を吹き返したので計画の露見を恐れていずこかへと消え去った。しばらくは行方不明だったがパレストリーナ王国内で捕らえたので、王国はフィールを牢屋に入れ、マーブルク領主の代理人として王国入りしていたレアンドロンの息子アレサンドロに引き渡す予定であった。しかし引き渡しの前夜、フィールは隠し持っていたナイフで自ら命を断った」


 パカバーナはそれとは関係なく、偶然同じようなタイミングで発狂したので即隔離された、らしい。まあ、俺からは何とも言い難いがそれで世界がうまく回るんならそれでいいんじゃないかと思う。


「何はともあれ、一安心だよ。もうベラドンナも暗殺者に狙われる事はないんだろう?」

「はい。暗殺指令はすでに取り消されましたから」

「それなら良かった。あの二人も仲良く暮らすといいな」

「そうはいかないみたいですよ。メルクリシスは今の混乱が落ち着いたら贖罪と修行の旅に出ると明言しましたから」

「贖罪か。かくも立派な心を持った王様だってああ使われるとどうにもならないものなんだよなあ。大変だろうけど、まああいつならどうにかなるだろうけどな。頭もいいし」

「そうですね」


 からりと晴れた割に涼しい風が吹く峠の道を見下ろしながら、俺とニーナはスイカを食べていた。コトコト揺れる馬車から見たパスカルの街並みは確かに美しかった。現地にいた時はそう見えなかったのは陰謀という薄暗い影が街を覆っていたからだ。


「何もなければこんなにも美しい。やっぱりこの世界って素晴らしいものだなあ」


 俺はそんな事を感じつつ、口にたまった種を草むらに吐き出した。帰りの馬車は何もトラブルなく、すんなりとマーブルクまで辿り着いた。

今回で王国編は終了。ご愛読ありがとうございました。今までは書き溜めしていたものを投稿してきましたがそろそろ弾切れなので、次の王都編あるいは入学編は毎日ではなく、水土日に投稿とか、それぐらいのペースになります。とりあえず来週の土日には幕間みたいなのを二話投稿して、再来週から本編投下となる予定です。

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