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稲妻勇士  作者: 沼田政信
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15/17

「一難去ってすぐだが、戦いはこれで終わりじゃない。もう一つの任務も果たさないとな」

「そうですね。でもその前に回復魔法をかけないと。その傷ですからね。待っていてくださいね。それっ!」


 マロールとの戦いで受けた傷は次の瞬間に全快した。ニーナも肉体の修復は終わって、既に魂は肉体に入り込んでいる。ただ今はもうちょっと、精神的に動けなくなっているのでしばらくは月明かりを見つめつつ現状の確認を行った。心のガッツ回復には時間がかかるのだ。


「ところで、あの王様は王宮のどの辺りにいるんだ?」

「ああ、それはですね。まずは地下から出ましょう。お誂え向きにあそこに穴が開いていますから、そこに登って」


 ニーナは先ほどの戦いで空いた穴に目線を向けた。まさか、あれが出口だって言うんじゃないだろうな。


「いや、ちょっと高くないか?」

「初さんなら大丈夫です。体力強化されてますし」

「そうなのか。じゃあ試してみようか。それっ」


 本当かよと思いながらジャンプしてみたところ、全然届かなかった。


「あれ、やっぱり駄目じゃん」

「ふふっ、それはですね、初さんは今僕の言葉をちらと疑ったでしょう? だからですよ。自分を信じる事です。集中してやれば簡単に行けますから」

「むうっ……!?」


 図星だったので言葉が詰まった。元陸上部とは言えジャンプ力にはあまり自信がなかったから「今回も多分駄目なんだろうなあ」という疑念が抜けきれなかったのだ。走り幅跳びとか動き自体は楽しいんだけどね。でも一番楽しいのは三段跳びだ。俺の場合左、左、右でバシッと飛ぶ。まあ記録はあんまり良くないけど。


 いや、今は関係ないからやめとこう。とにかくニーナにここまで言われたらやるしかない。俺は腹を決め、月まで届くものだと信じてもう一度ジャンプしてみたら本当にあっさり天井のそのまた向こうまで届いて、簡単に着地まで決められた。


「ほら、行けたでしょう?」

「本当だ! 凄いなって、ニーナお前いつの間に俺の背中に!?」


 音もなく感触もなかったので話しかけられるまでニーナの存在は完全に忘れていた。いつの間に俺はニーナをおんぶしていたのだろうかか。まるで気付かなかった。


 このステルス性能は本当に凄いと思う。マロールとの対戦でもいつの間にかニーナがいて、それで勝てたようなものだったから。とにかく、一気に俺達二人は地下を脱出した。少しぬるいそよ風が肌に心地良い。


「ここは王宮の中庭です。ここからなら配置も見やすいでしょう?」

「本当だな。で、どこなの?」

「あれですよ」


 ニーナが指差したのは王宮内部の建物の中でもそんなに大きくない、むしろ粗末な一階建ての納屋みたいな建物だった。


「えっ、あれ? 嘘だろ?」

「本当ですよ」


 あんな牛や馬しか入ってなさそうなボロ小屋に王様がいるはずがない。そんな常識的な考えにニーナは首を振って答えた。


「そもそも僕達がここに忍び込んだ秘密の抜け道があった小屋も古かったでしょう? どうやらトワナ人は大事なものは立派な場所に隠さずあえて平凡な見た目の建物に置く性質があるみたいなんですよ」

「ふうん。まあお前がこの期に及んでしょうもない嘘を付くとは思ってないし、信じるよ」

「そうしてくれるとありがたいです。では僕はデザイアさんとルサカを呼んできますので、しばらくは一人で頑張ってください」

「おう。でもなるべく早く帰ってこいよ」


 ニーナは親指を立てて軽く笑ったかと思うと。夜闇にまぎれてあっという間にいなくなった。


 本当に一人になった。そしてやる事はもう決まっている。


「さて、ガサ入れと行くか」


 とは言うものの、いくら何でも粗末過ぎる建物なので半信半疑だった。でも逆に考えると、王宮にこんなボロボロな小屋がある時点で普通はおかしいと言えるわけで、それを改修とかしないって事は確かに何か隠されたものでもあるのかも知れないという推理も成り立つわけでね。他にあてもないし、俺はえいやっと一気に扉を開いて入り込んだ。


「うっ、おおっ、ああっ……!」


 馬小屋の中は奇妙なうめき声で満たされていた。一体この声は、まさか……? この種類の声は俺とてまったく知らないわけじゃない。


 不穏な予感を胸に秘めつつ恐る恐る音源へと近づいた俺の眼前に広がっていたのは、まさにこの世の地獄と思える程におぞましい光景であった。


「もっと強く! そうだ、そこをもっと深く! おおっ! んんんっ、ああっ!!」


 まず結論から先に言うと、奴はいた。白い馬の、あの大きく膨らんだ部分を彼の、後ろの方の……。あの人に見せられない部分に、こう、最も動物的で荒々しいやり方でぬくもりを共有しあっていた。


 身には何も纏っておらず生まれたままの姿となっていた彼は手を壁につけて、腰の部分は馬に授けるようにくの字に突き出して、そしてぴんと張った華奢な足の付根にある突起はその先端を月明かりにちらちらと反射させながら、馬の動きに合わせるかのように前後左右へと揺らめき……。


 ああっ、もう無理! これ以上は口に出したいとも思わない。本当勘弁して下さい。苦しんでいるようにも祈っているようにも聞こえる王の高く弱々しい声が次第に力強さを増していく。


「ああっ、高まってくるのが分かる! さあ、解き放て余の中にその生命の波紋を!!」


 眼前で繰り広げられる剥き出しの狂気は俺の握力を侵し、いつしか握りしめていたはずの三日月斧は両手から滑り落ちていた。


 荒々しい呼吸と狂いきった嬌声だけが響く小屋に金属と地面が重なるカランという音が響いた。それと時を同じくして、目の前で行われていた荒々しいロデオも終焉を迎えたようだ。


 全ての精力を使い果たしたかのようにドサリと崩れ落ちる少年王。しかし一応俺には気付いてくれたようで、脱力しきってトロンとした視線をゆっくりと俺に向けたかと思うと、口を大きく開いて笑いかけた。


 何と空虚な微笑みだろう。全てを出しきった時の表情とはこれなのであろうかとも思え、普段笑いかけられたらとりあえず笑い返す俺も今回ばかりはとてもそんな余裕がなく、貼り付けられたような驚き顔のまま目を二度三度とパチパチさせるばかりであった。


「君は……?」

「いや、君こそ……」


 駄目だ。言葉が続かない。色々言いたい事はあったはずなのに、眼前で繰り広げられた現実を目にした後に全ては津波にさらわれたかのように消えてしまった。


「おお、思い出したぞ。君は、あの時の路地裏の」

「だ、黙れ!」


 王様ともあろうお方に思いっきり無礼な口を聞いてしまったがもう俺は俺を制御出来なくなっていた。モラルとインモラルの狭間で激しく揺さぶられた俺の理性はバラバラになっていたのだ。


「ああ、やはり君とは運命の赤い糸で結ばれていたのだな。ふふふ、忘れるはずがない。あの時君は余を力のままに殴っただろう? あれはとても痛かった。そして余はその痛みに幸せを感じた」


 こっちでも運命の赤い糸みたいな言い回しってあるのかとちょっと驚いたが、そんな事よりもまとめ方の狂いっぷりにめまいを起こしそうだった。殴ったから痛いってのは分かるけど、それに幸せが付加されるのはちょっと理解しがたいし、したいとも思わない。


「そしてあの時余ははっきりと気付いたのだ。余を殺してくれるのは君しかいないと!」


 はっ、何言ってるんだこいつ。いつまでも意味不明な理論の垂れ流しを放置しているとこっちの脳まで侵されそうなのでここらできっぱり否定すべきだと決意した。


「悪いけど、君の妄想は永遠に実現しないよ。だって俺は君を殺す気はないもの」


 ここまではっきり言ったつもりなのにメルクリシスは全然堪えていませんよとばかりに軽薄な笑みを絶やさずにいる。どうもまったく伝わっていないみたいだったので、俺はより懇切丁寧に説明してみた。


「いいですか? 俺はねえ、君の妹さんに頼まれて君のそんな不道徳で退廃的な生活を断ち切るためにここまで来たんですよ」

「不道徳、退廃的。余の心を溶かす甘美なる響きだ。君はそう思わないのかい?」


 ピンク色の髪の毛をしなやかに揺らしながら少年王は非常に危険な問いかけを投げつけてきた。俺は何も言えず、ただ三日月斧を強く握るばかりだった。

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