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稲妻勇士  作者: 沼田政信
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 我が友アレサンドロの父でマーブルク領主を務めているレアンドロンは陰謀に巻き込まれて生死の境をさまようほどの呪いをかけられたが、アレサンドロや俺が呪いを祓う水を手に入れたので、それを飲ませたところ無事に生還した。


 そしてレアンドロンを陥れた下手人であるマーブルク領主補佐だったフィールは逐電。関係者の話を総合すると彼はどうやらパレストリーナ王国なる場所に逃げた可能性が高いという。


 そこでレアンドロンは息子であるアレサンドロを中心とした一団をパレストリーナ王国に派遣して真意を質す事に決めた。俺は特に何も言われていないが、心はとっくに決まっていた。


「アレスが行くんなら俺も行くぞ」

「ハッセ……」


 昨日の今日で西へ東へというちょっと大変な日程となるが俺としてはそんな事は関係ない。勇者たるもの世界の危機を前にしてはたとえこの身がどうなろうと構わずに戦い続ける義務があろうというもの。


 それに俺はこの世界に勇者として訪れたんだから。敵対する人間に呪いをかけるような奴らが正しいはずがない。そういう悪いもの達を排除してこそ優しい世界は作られるものだから。


 好き好んで戦うわけじゃないが、戦っていないと俺がこの世界に生まれた意味はなくなるものだし、ならば自分が思う正義のために生きたいと考えるのはもはや必然と言えた。


「そうか。しかしまた君に甘えてしまう事になるな」

「気にする事はない。俺がこう言えるのはアレス、他でもない君だからこそだよ。君のためになら俺は何だってしたいと思っているんだから」


 この言葉も半分はその場の雰囲気で言っただけだがもう半分は本心だ。アレサンドロは涙を流さんばかりに感動して、俺の両手を握って何度も「ありがとう、ありがとう」と繰り返していたし、そう言われて俺も悪い気はしない。


「じゃあ僕もお伴しますよ」

「俺も」

「ワシも行こうかの。相手はかなりの使い手のようじゃからな。ぜひお手合わせ願いたいものじゃ」


 ニーナもルサカも、デザイアまでもかなり乗り気だった。結局はこれが俺達の総意だ。かくして西より帰還した面子は全員東への遠征に加わる事となった。


「みんな、ありがとう。出発は明日になるから今日はゆっくり休んで、少しでも疲れを取ってくれ」

「了解」


 という訳で今日はしっかりとおいしい肉を食べてしっかりと眠った。それにしても風呂に入らない生活に慣れつつある現状がちょっとだけ悲しい。全体的にはルサカの臭いで感覚が麻痺してるのは間違いなくある。落ち着いたら絶対洗い流してやるから覚悟しろよ、などと考えているうちに眠りについた。


 そして翌日、こっちの暦で言うと共通暦一二五七年の十二月十八日。これから遠征に行くにはもってこいの快晴が街を包んでいた。


「では行ってまいります!」

「気を付けるんだぞ、アレス。相手は何をやってくるか分からんからな」

「父上こそ、しっかり養生して体を回復させていてください。それに僕は大丈夫です。勇敢なる兵士たちも多く、何より信頼できる友人を得たのですから」

「うむ、そうであったな。ハッセよ、倅を頼む」

「ま、任せてください」


 胸を張って堂々と言うつもりがちょっとどもってしまいバツが悪かった。でも地位のある相手に対して堂々としていられるのは本当に難しいものだ。


 それにしても振り向けばずらりと並ぶ兵士の群れ。騎兵と歩兵、合わせて百人は下らないだろう。基本軍事行動を起こすわけではないのにこの数だけで凄い威圧感だ。


 それと兵士には二種類いて、胸鎧が赤く塗られている兵士と水色に塗られている兵士だ。水色はマーブルクを象徴する色という事でマーブルクの兵士たち。そして赤はドラガニアを象徴する色。もはや個人とかマーブルクという一都市で済む問題ではなくなっているという事だ。


 ただこの色合いの鮮やかさはかなりのもので、無骨な兵士のはずなのにとても綺麗で、あるいはかわいらしくさえ見えた。鎧としてはいささか肉体を覆う面積が少ないようにも見えるし。でもデザインはいい。


 そんな兵士たちが引っ張ってきたのは水色に塗られた馬車であった。俺達が西へ向かったのの三倍ぐらい大きなサイズだ。これは軍用の馬車で、中には武器や食料が満載されているみたいだ。


「その積み荷は三番に入れておけ。まだ余裕あるだろう!」

「了解です!」

「六番隊、武器と食料の搬入完了しました!」

「そうか。では出発まではしっかり休んでおくよう伝えておきなさい」


 そしてその兵士たちを的確に動かしている人がいる。ベレー帽っぽい左右非対称の三角形をした帽子がちょっとお洒落だが、その帽子の下に流れる漆黒の頭髪は長く目つきは常に厳しく鋭い。二十代以下には見えないな。しかし四十代以上にも見えない。


「ねえアレス。あれは誰なの?」

「ああ、ハッセは最近ここに来たから知らないのか。彼こそがマーブルクの守護勇者ファラン・トッシュさんだ。今を生きる勇者の中でも第一人者と言える、凄い人だよ」

「あ、そ、そうだったっけね。うん」

「守護勇者と言えば常に市政を見守って誤った方向へと進みそうな時は直言を厭わないという重要な任務を帯びていますからね。言わばマーブルクの裏番長ってところですよ」


 なにそれと思った部分にはすかさずニーナのフォローが入る。やっぱりこいつは天使だな。それにしても守護勇者って強そうだ。そう言われてみるとかなりオーラが出まくっていて格好良いな。


「で、その守護勇者さんは今回の旅に同行するの?」

「いえ、しないでしょう。基本的に守護勇者はその街から動きませんから。勇者って政治にはあまり関与しないのが普通なんですよ」

「ニーナくんの言う通りだ。偉大なる勇者であるトッシュさんはその存在自体が邪な侵略者に自重を促す重石となる。僕達がジェスターの泉へ水を取りに行った時に何事も起こらなかっただろう。それもこのトッシュさんが睨みを効かせていたからこそなんだ」

「ああ、なるほどね。でもその人がいて本当に良かったな。いなかったらあの人が壟断してたんだろ。ほら、フィールだっけ。今回の悪い人」

「……今でも信じられない、信じたくはないんだけどね。彼はまさしく忠臣だったのに」


 おそらく過去の忠実な働きっぷりを回想しているのだろう、悲しげなアレサンドロの表情を見て悪いことを思い出させたなと俺は謝ってみたが間もなく「いや、謝る事はない」と止められた。


「過去は過去だ。それがどうして変わってしまったのか、その真意を問いたださないとね」

「そうだね」


 あのフィール、俺にとっては見たまんま胡散臭い人でもアレサンドロにとっては長年にわたって功績のある、信頼できる家臣だったんだと思い直した。そう考えるとアレサンドロにとっては切ない戦いとなるかも知れない。何の情もなく、とはいかないだろうから。


 だからこそ俺が頑張らないと。俺はこの世界について何も知らない。だからこそやれる事だってあるはずだ。それがピエロまがいの生き方だとしても、少しでも突破口になれたなら幸いじゃないか。


 そう気持ちを新たにしたところで守護勇者のファラン・トッシュさんがこっちに向かってきびきびと歩いてきた。


「こっちの準備は整った。いつ出発してくれてもいいぞ!」

「ああ、トッシュさんありがとうございます。では、今から一時間後に出発します」

「了解。では失礼します」


 偉大なる勇者は非常にハキハキした物言いでアレサンドロに報告をしていた。うん、やっぱり勇者たるものかくあるべきだよ。俺ももっと成長せねば。多少力があると言ってもそれに溺れて単なる馬鹿にはなりたくない。理想としてはね。ミクロイドSじゃないけど心を忘れた力では本当の幸せなんて来ないものだ。


 出発までの一時間はそわそわしながら過ごした。俺の持ち物と言えばカバンとジャージバッグと三日月斧ぐらいのもの。鞄の中には教科書やノート一式、ジャージバッグにはたたまれた制服が入っているがいずれもこの世界ではあまり必要のないもの。前回は一応持っていったが使う場面はなかった。当たり前だ。今回もどうせ使わないだろう。


 だからこれは置いていく事にした。結局勇者としての俺に必要なのは三日月斧と仲間たちで十分だって事なんだろう。でも勇者がジャージを着てうろつくのは相当みっともないぞ。この戦いが終わったら服を買おう。それかアレサンドロのお古でも分けてもらうかな。ちょうど背丈は同じくらいだし。


「ハッセ、準備はできたかい?」


 アレサンドロの問いかけに俺は今日の空と同じ晴れやかな微笑みを浮かべながら頷いた。


「必ず真実を手にして、戻ってこよう」

「そうだな。そのためにはハッセ、君を限りなく頼りにしている」

「頼りにされるっていいことだよ。期待に添えられるよう、俺も命を賭けるさ。さあアレス、出発の合図を」

「うん。さあ皆の衆、出発だ!」


 アレサンドロの号令に呼応して「おう!」と兵士たちの声が地鳴りのように響いた。凄い迫力だ。そして間もなく行軍は開始された。俺達は馬車の中から歩兵のたくましい行進を見つめていた。

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