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稲妻勇士  作者: 沼田政信
22/79

9/12

 穴だらけの道を俺達五人は歩いた。わざとらしいほどに空は青く澄んでいて、魔境への入り口にしては不釣り合いなほどだった。


 当初はアレサンドロが俺達の先頭に立って歩いていたのだが、敵陣にはどんな罠が仕掛けられてあるか分からないので真ん中あたりに引っ込んでもらい、代わりに先頭にはニーナが立っていた。


「大丈夫かニーナよ。いつ敵が出るとも知れないんだし何かあれば知らせてくれよ?」

「はい。でも今は大丈夫で」


 一瞬目の前が激しく光ったかと思うと轟音が響いた。青天の霹靂とは文字通りこれだった。


「うあっ!! これは!?」


 反射的に顔にかざした右腕を少しずらして前方を確認すると道を貫く大穴が新たに生まれていた。そしてそこにいたはずのニーナの姿が影も形もなくなっていた。


「しまった! これこそが魔王デザイアの邪悪なる光魔法です!」


 ピアニーが叫んだがもう遅い。すでにニーナは巻き込まれてしまったのだから。その証拠にニーナは俺の隣にいる。正確に言うとニーナの魂が、だが。これこそが今の襲撃をもろに受けてニーナの肉体が消滅した何よりの証拠だ。


「いやあ、やられましたね。油断してたわけじゃないんだけど急にビームが来たので」


 頭を掻いてる場合かよ、ニーナ。死んだくせにまったく緊張感のない態度だが、ニーナの正体を知っているのはこの場では俺だけなわけで、他のメンバーにとってはいきなり訪れた修羅場であった。


 アレサンドロはおそらくニーナを救出するため開いたばかりの穴に飛び降りようとしていたので、俺は羽交い締めにしてそれを止めた。


「駄目だ! 穴にはまだ熱気が残っている! このままじゃアレスも蒸し焼きになるよ!」

「だが! ニーナくんは僕達の仲間なんだぞ! それがこんなところで……!!」


 まあ実際生きてるんだけどな、ニーナは天使だから。そう言えたならどれだけ良かっただろうか。でもいきなり新しい情報を提示する事で場を混乱させるよりは後から「一見死んだように思えたが奇跡的に生存していました」というシナリオを構築したほうが誰にとってもいいものだと思ったのでその辺りの事情は伏せておいた。


「耐えてくれ、アレス! 今俺達がやるべき事は先に進んで泉の水を持って帰る事だろう?」

「そ、それはそうだけど……」

「今は信じるしかない。きっと、あいつならきっと大丈夫だからさ。だから、行こう」


 すかさず俺は寂しそうな笑顔でアレサンドロを見つめた。これでアレサンドロは「ハッセだってただ非情なだけじゃない。ニーナがいなくなって一番辛いのはあいつなのにこうして自分のために微笑んでくれている。だから、ハッセの気持ちに応えるためにもここは進むしかない」とでも思ってくれた事だろう。


「魔王デザイアを何としてもお前を倒さねばならない理由がまた増えたな。さあ、行こう」


 すっくと立ち上がったアレサンドロの声は震えていた。熱い魂の発露にはさすがのニーナもバツの悪そうな表情を浮かべていた。


 無理もない。ここで「いや、僕は大丈夫ですよー」とか言って穴から這い上がってきたらアレサンドロの熱い決意が茶番に成り下がるわけで、慇懃無礼な天使とてそういう純真をもてあそぶような振る舞いはしない程度のデリカシーはあるみたいだから。


「ところでピアニーさん、少し質問があるのですが」


 少し進んだ後でアレサンドロは突如歩みを止めてこのように問いかけた。


「はい、何でしょうか?」

「今のビームを事前に察知する事は出来ないのでしょうか?」


 ピアニーは少し考え込んだ。やはり無理なのかという空気がそこはかとなく漂ったが、次に開いた口から発せられたのは意外にも「出来なくは、ありません」という答えだった。


「出来なくはない、ねえ。その言い回しだと普通には出来るわけじゃないって風に聞こえるけど?」

「はい。言うまでもない事ですが光魔法は応用魔法に属します。集中すればある程度の察知は可能ですが、今の私のレベルですと果たして防げるかどうか……」

「えっと、つまりどういう事だ?」


 また応用魔法などという謎単語が出現した。こっちの魔法制度はよく分からんので横にいるニーナの魂に聞いてみたところ「今僕と話してると傍目にはぶつぶつ独り言つぶやいてる変質者にしか見えませんよ」などと返されたのでアレサンドロに尋ねてみた。


 幸い俺は遠くから来たというエクスキューズもある。だから「俺の国じゃ魔法とか使ってなかったから詳しくないんだけど」みたいな顔も出来るわけで。親切なアレサンドロは嫌な顔一つせず、懇切丁寧に教えてくれた。やっぱ人間としての質が違うな。


「つまりだな、今日の朝にピアニーさんが見せたのが基礎魔法だ。火・水・風・土という空気中に無数に存在している精霊たちの力を借りる魔法がそれだ。そしてこの基礎魔法を習熟した者にしか使いこなせないのが光と闇の応用魔法だ」

「ああ、なるほどねえ。ピアニーさんも魔法を使う時に精霊に呼びかけてたけど、そういう事なのか」

「そうだ、僕も少しは魔法を使えるからね。例えば火の精霊を集めると、こうだ!」


 アレサンドロの指先から小さな火がポッと出た。ちょうど百円ライターぐらいの大きさで、これがあればマッチいらずってところか。そう考えるとかなり便利だな。それにマジシャンみたいで格好良いし。


「僕の力じゃあまだこの程度が限界だ。でもピアニーさんは、君も見ただろう? 岩を燃やすなんて相当習熟していないと出来ないんだ」

「うん。それが凄いのは俺でも分かったよ。それで、ピアニーさんは応用魔法のほうは?」

「多少は使えます。ただ、魔王とは比べ物になりません。もっと私に力があれば、例えば雷を押し返したり出来るものなのですが、今は感知するのが精一杯で……」


 ピアニーは言葉を繋げないままに目をそらした。その姿は本当に悔しそうだった。だから俺は慰めるように「でも感知出来るなんて、十分に凄いと思います」と言った。なぜか敬語で。


 どうも涙には弱い。俺もよく泣いてきたから、自分の弱さを見てるみたいになるからだろうか。でももう俺もいい年だし、しかもこっちの世界じゃ勇者として頑張らないといけないわけで、おいそれと泣けるものではないからな。


「とにかく、次は俺が前に出ます。感知したらすぐに言ってください」

「ハッセ、駄目だ! それは危険すぎる! 僕が……」

「危険だからこそだよ、アレス。それに君が死んだらみんな悲しむけど俺が死んだら悲しんでくれるのは君だけだから、君は俺より先に死んじゃ駄目だ」


 我ながら口先だけでよくもまあこんな台詞を吐けるものだと感心する。だがこう言った以上はやらねばならぬ。今更「やっぱルサカからにしよう」なんて内心で思おうが口が裂けても言えるもんじゃない。大丈夫だろう、多分。自分に言い聞かせるように何度もつぶやいて、また歩き始めた。


「あっ!」


 五分ぐらい進んだところでピアニーが叫んだ。何だと思ったら次の瞬間には光の柱が俺を貫いた。爆発的な熱量のエネルギーが周囲を通り抜け、一瞬にして周辺の道が黒ずんで陥没した。しかしなぜか俺の肉体には傷ひとつ付いていなかった。


「ハッセ! ハッセエエエエエエエエエ!!」


 目の前が真っ暗になったかと思ったが、これは道が陥没したから景色が急に変わったのが原因だとようやく気付いたのはアレサンドロの叫びを耳にしたからだ。アレサンドロはきっと俺も死んだと思っているだろう。そうじゃないよと伝えるために俺も叫んだ。


「俺は無事だ!!」

「何! ハッセ! 生きているのか!?」

「ああ生きてるよ!! ちょっと待っててね! よじ登るから!!」


 三日月斧を土台にして穴からよじ登ると、アレサンドロが鎧のまま突進して抱擁してきた。とんがってるところが刺さってちょっと痛い。


「ああ、良かったハッセ! いや、本当に大丈夫なのか? どこか怪我は?」

「どうも本当に大丈夫らしい。理由はよく分からないが、これも奇跡って奴なのかな」


 腕や足首を回したり屈伸をしてみたりで試したが、違和感はまったくなかった。本当にどこも痛めていないらしい。


「なるほど、これはオリハルコンのパワーですね」


 ニーナの魂が俺に囁きかけた。俺はさも最初から分かっていたかのように「これは多分オリハルコンのパワーによるものだな」などとアレサンドロらに語った。でもあんまり詳しくないので込み入った説明を求められるとまずかったが、アレサンドロはもっとドラスティックな男だった。


「ふうむ、じゃあやっぱり僕が先頭に立つべきだな。今のがハッセの三日月斧に使われているオリハルコンによるものだとしたら、僕の鎧のほうがよっぽど効果があるはずだから」


 自分から好き好んであんな雷に身を任せるなんてとんでもない話だが、アレサンドロの言う事にも一理ある。と言う訳で全身オリハルコンのアレサンドロを避雷針に進んでいった。


 途中何発かビームが直撃していたが、確かにダメージを受けていないようだった。何だよ、ニーナ死に損かよ、じゃなくてオリハルコンって凄い金属なんだなと心から思った。


 もう一時間ぐらいは歩いたと思うが、そこで道の舗装が途切れた。古代の人々さえもその歩みをここで止めている。つまりここまでが人間の領域であって、ここから先が本物の魔境となってくるのだろう。


 襲い来る緊張感に俺は思わず生唾をごくりと飲み込んだが、ざっと見たところ獣の気配はしない。しかし目の前に広がる針葉樹林たちはまさに伏魔殿。どんな強い敵がいるか、分かったものではない。


「ピアニーさん、魔王デザイアはどの方角にいるか分かりますか?」

「魔王の館はこの森を抜けた先にあります」

「そしてこの森は魔窟だと、そういう事ですね」

「はい」


 この答えに俺は一層気持ちを引き締めた。ここからは三日月斧を振り回す必要も出てくるだろう。俺は常に構えながら進んだ。

ちょっと不幸な出来事があったので八日は更新なし。九日は真面目に更新します。

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