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稲妻勇士  作者: 沼田政信
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 衝撃の事実。旅の途中で路銀が尽きた事をアレサンドロから知らされた。いやいや、それはないだろ。領主の子の旅でこんなあっさりと金が尽きるとか。


 しかしこんなやばい事をこともなげに言い放つアレサンドロの口調に一切の深刻さは感じられず、それがまた一層異様な雰囲気であった。いやいや、これ大問題じゃないのか? 下手したらこれで終わりかも知れないのに。


 ただアレサンドロからするとこれも勝算あっての事らしかった。


「そもそもあんまりたくさん金を持ってると危険も増えるものだからね。金は現地で稼ぐ。最初からそうなるのは分かっていた」

「分かっていたって言われてもね。でもどうやって稼ぐんだ?」

「ふふっ、任せてくれよ。そしてそのためにはハッセ、君の協力が不可欠なんだ!」


 そう言われても俺の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。俺は別に芸を持ってるわけでもないし、前の世界でアルバイトとかした経験もない。少しはしといたほうが良かったのかな?


 当然こっちの世界の事もまだまだ知らない事ばかりなわけで何が出来るのか皆目見当がつかなかったが「さあ表に出るぞ、ハッセ。ルサカくんとニーナくんは休んでくれたまえ」などとなぜか溌溂としているアレサンドロに無理やり引っ張りだされた。


「ねえアレス、これから一体何をしようって言うんだい?」

「まあ見てなって。ああ、その前に準備が必要だから、それは手伝ってね。何も喋らなくていいから」

「お、おうっ」


 こっちこっちと手招きされて辿り着いたのは何の事はない、俺達が今さっきまで乗っていた馬車が停められている裏庭だ。他のお客さんの馬車もいっぱいあったが俺達の奴はその中でも一回り大きいのですぐにどれがどれだか分かってしまった。


 アレサンドロに「さあ、これを面の通りまで持って行くんだ」と手渡されたのは変な石像や絵画だった。ああ、こんなのあったね。どう見てもスペースを圧迫してるだけだった無用の長物。しかしこうも並ぶとそれなりに壮観だな。


 こいつらを道の角にずらりと並べて、その中央には小さな机が置かれた。絵画は全体的にはオリエンタルと言うか、もっと俗っぽく言うと中国っぽい品物が多い。ただ石像は何となく埴輪っぽいあっさりとしたデザインだ。


 ここはもっとヨーロッパっぽいイメージだったのにこんなものがあっていいのかと非常に違和感を覚えたが、並べていくうちに足を止める通行客は想像以上に多かった。川沿いで演奏してるミュージシャンより集客出来てるな。


「おいおい、こんなに人が集まるのかよ。あんな怪しいもんで」

「はいこれからは黙っててね。始めるから」


 アレサンドロの瞳がぎらりと輝いた。手にはハリセンみたいなものが握られていた。ついでに俺は大きな壺を両手で持たされた。


「さあさあ寄った寄った! これぞティアム美術の真髄! これぞ芸術大国ティアムに数多いる有名画家のうちでも今から約三百年前に活躍し、ティアム最高の天才画家と名高きショー・ムー作『コンルンの情景』であります! ショー・ムーと言えば本来そのあまりの優雅さ故に皇帝一家専用で門外不出とされてきたのですが、皆様ご存知の通り近年の混乱からの財政難によりましてどうにか国庫の足しにしようと泣く泣く放出した逸品がずらり。特にショー・ムーなどはそのあまりの品格ゆえに贋作が多く出回り、本物と称される同一の絵画がパダルカの富豪からゴルトラントの王族まで複数存在するという悲喜劇を引き起こしてきたものですが、今ご覧になられているものは正真正銘の本物ばかりであります!」


 一度口を開いたら最後、マシンガンのようにずらずらと言葉が発射されていた。よくもまあこんな滑らかに口が回るものだと感心していたら妙なことを口走り始めた。


「この隣にいる男。彼こそまさしくこれらの芸術品をこの世に残そうと尽力されました忠臣ユアン・フェンの子孫ハッセであります! ドラガニアにて偶然彼を保護いたしましたところ、聞くも無残な身の上にわたくし大いに心を打たれたものであります! 彼の父ユアン・フェンは道半ばにして病に倒れ、ハッセも行き倒れ同然でありました。しかし手元に残る数々の素晴らしき芸術品。一体どうしたことかとギザミアがボッラの王立芸術アカデミーに鑑定をお願いいたしましたところ間違いなく本物であるとお墨付きを頂きました」


 明らかに嘘ついてやがる。おいおい、いつ俺がユアン何とかの子供になったんだ? 確かにギザミアは通ったけどボッラって何だ? アカデミーってどういう事だ?


 何もかもが謎だらけでいちいち聞き返したいくらいだったが、アレサンドロが黙っててと言ったのはつまりそういう事なんだろうと理解したので何も言わずにおいた。


「本来ならばアカデミーに贈与するのが筋かもしれません。しかし我々にも生活がございます。ハッセは不憫な男です。言葉も通じぬ異国で、頼みの綱はこれらの芸術品のみ! かく言うわたくしも父親とは永遠に離れ離れとなった身であります。しかしこうしてこの世に生まれたからにはどうにかして生きる糧を得なければなりません。わたくしどもを憐れんでいただけるならばわずかでも構いません。アイシスの皆々様の愛を授けては下さらないでしょうか。本来ならば金貨五十枚は下らない逸品中の逸品! でも本日は特別に、金貨五枚から特別にご奉仕いたします! さあさあ買った買った! 残り七枚! 一枚からどうぞ!」


 するとアイシスの人々は口々に「よっしゃその話乗った! 俺が買ってやろう!」「私はその石像を頂戴!」などと叫んでいた。あんな怪しい口上に乗せられてしまうのか。


「ありがとうございます! ありがとうございます! ハッセは言葉こそ通じておりませんがアイシスの皆様の暖かい思いやりは胸に突き刺さっていることでしょう。お代金は彼が手に持っている壺の中にお入れ下さい!」


 あっという間に壺の重さが二倍三倍それ以上と倍々に増えていって、瞬く間に握る手が痛くなってきた。気付いたら石像も絵画も目の前からなくなっていた。まるで嵐のようなひとときだった。


「よし、これで路銀は十分だな。帰ろうか」

「うん。分かった。しっかし、とてつもなく重いぞこれ」

「そうだな。やはり一人でやるより協力者がいたほうがうまくいくものだな。本当にありがとう」


 人の去った中、壺の重みだけは現実だった。チートパワーをもらった俺の腕力をもってしてもかなりずっしりと来るのだから、一体どれだけの質量なのかと恐ろしくなった。


 後で数えてみると金貨が五十七枚、銀貨が三十五枚入っていた。アレサンドロは「大成功だ」と大笑いしていた。まあアレサンドロが言うんだから大成功だったんだろう。


「それにしてもアレスって結構抜け目のない性格だったんだな。よくもまああんな嘘をべらべらと喋れるなんて」

「嘘っていうかね、こっちも商売やってるんだからあれぐらいはね」


 もっと真面目な奴だと勝手に想像していたけど、むしろこういう姿のほうがアレサンドロの本質なのかもと思い直した。


 俺が知っているアレサンドロ・マイルとはマーブルクの領主代理として幼くして政務を取り仕切る姿。寛容な心で俺を迎え入れる男の中の男。勇者として困難にあえて身を投じる勇敢なる人物。


 いずれも立派な姿ばかりだったが、それらの理想的とも言える人間でいる中で自分を殺す必要もあったのだろう。義務感とか正義感だけで生きるのは大変だからね。たまには心を解き放つ必要もあって、アレサンドロにとってはそれがあれだったのだろう。


 そして最後にちょっとした疑問もぶつけてみた。


「それで、あの絵とか石像って本物だったの?」


 アレサンドロは一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐ声高らかに笑いながら「ともかくあれで僕たちはこれだけの金を得た。それが唯一の真実だよ」と言い放った。

次回ヒロイン登場

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