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「やあやあ、帰ったぞ!」
夕日のオレンジ色に染まる「銀の森」の門で、アレサンドロが軽く手を上げると「お帰りなさいませアレサンドロ様!」というこだまが巻き起こった。ブックオフみたいだ。
「さて、アーベンの仕事は捗っているかな? ちょっと見てこようか。ハッセも来るかい?」
「ええ、俺はどっちでもいいけど」
「じゃあ来なよ。鎧作りを見るのは初めてだろう?」
「うん、そうだね。じゃあそうする」
「決まりだな。さあさあほらほら、早く早く!」
アレサンドロは俺の右腕を引っ張って半ば無理やり連行していった。俺としてはルサカの事も気になるんだが、ムードに押されて言い出せなかった。まあ殺されてるとか最悪な結果にはなってないだろうし、それに鎧作りに興味があるのも事実だった。
広い庭をまっすぐ進むと木製の小屋があって、近づくとカンカンと金属を叩く音が響いてきた。まさに作業の真っ最中だと言うのか。しばらくするとその音が収まったのでアレサンドロは扉を開いた。
「やあ、アーベン。首尾はどうだい?」
「お陰で順調です、アレサンドロ様。それにしても素晴らしい純度の高さですな。ここまで良質なオリハルコン鉱石は滅多に出ますまい」
「うむ。これほどのオリハルコンゆえにお前を呼んだんだから、素晴らしいものが出来上がると大いに期待しているぞ」
「お任せあれ! もう間もなく完成いたしますぞ。この休憩が終われば最後の仕上げに入るのでな」
「そうか。では少し見学させてもらうぞ。僕の身に付ける鎧なのだから、その完成を見守らないとな」
アレサンドロは壁にもたれかかりながら腕を組み、アーベンさんの背中を見つめていた。俺もその横に立って何も言わず、鎧の完成を待ちわびた。
今作っているのは胸部の鎧だろう。金に似たまばゆい輝きを纏うオリハルコンが無骨なハンマーの音とともにゆるやかに屈曲していく。肩のパーツや膝を守るパーツはもう完成しているみたいで、左右に散らばっている。
金属と金属がぶつかる音は男の戦場って感じがして俺は好きだ。例えばレッドバロンの前期OPで製鉄所で赤く溶けた鉄が流れ、鍛えられる映像が流れるが、これなんかたまらなく男を感じる。
曲自体は後期のほうが好きだけど、実際は手抜きにも程がある映像なんだろうけど、とても格好良いなと思う心を偽ることは出来ない。後半の体育館での戦いはちょっとグダグダにも見えるけど。
それと映像だけでなくドラムの音もいい。何と言うか、布団を叩くような淡々とした音ではあるのだがそれが逆に機械的と言うのか、工業製品っぽさとふつふつとした熱さを感じさせて渋い。後期の華やかさもいいが、前期のシンプルな男らしさも捨てがたい魅力と言えるだろう。
次のマッハバロンのOPもまたスキャニメイトという初期のCGみたいなものを使った映像が独特の雰囲気を醸し出しているが、それより楽曲がハイパーなので伝説的な存在となっている。阿久悠の歌詞もかなり来てるが井上忠夫の功績も大きい。
そして時期が離れている事もあって何となく別物感の強いガンバロンだが、これのOPもなかなかのものだと思う。特にアウトロが良い。
曲を作ったのは井上ではなくゴダイゴのミッキー吉野となっているが、レッドバロンが1973年でガンバロンは1977年だから四年しか違わないのに雰囲気的には十年ぐらい異なっているようにさえ思える。
歌っているのがジャニーズ少年団とザ・バーズって事で全編男女混声合唱で歌われているが、男声はともかく女声がちょっと邪魔かなって思ったりもしないでもない。
エンディングもそうだが、と言うよりエンディングの特に「ガンバロン」ってコーラスの声はもうちょっと控え目にしてくれても良かったと思う。曲自体は夕焼け路線で嫌いじゃないんだけど。
エンディングと言えばレッドバロンは勢いのある第二の主題歌って感じだがマッハバロンは平和を願うバラードとなっている。でもやっぱり粘りつくようなロック調の歌唱だ。ただレッドバロンのEDはOPと比べてやっぱり今一歩な感じはあるし、ここはアプローチを変えたのが正解かなと思う。
とまあそんな事をほのぼのと脳内で巡らせているうちに最後の作業も完成したらしい。戦いを終えたハンターの目をしたアーベンさんが「完成しましたぞ」と笑った。アレサンドロは涙を流さんばかりに目を潤ませて「ありがとう、ありがとう」と何度も手を握り、頭を下げていた。
「これが完成品なのか。すごく綺麗だけどアレス、さっそく着てみるのかい?」
「そうだな。そうさせてもらうとするか。アーベンとしても最後の調整も必要であろう?」
「左様」
アレサンドロはたった今完成したばかりの鎧を早速身に付けた。オリハルコンの鎧はまばゆいばかりの輝きに染まり、まぶしすぎるぐらいだ。そしてそれはアレサンドロの心の輝きでもあったと思う。同じものを俺が着込んでもああは輝かないだろう。
男なら、あの輝きに負けない内面の輝きを身に着けたいものだ。
「そう言えばハッセよ。君はこれからどうするんだい?」
「うーん、そうだな。とりあえず宿を探すかな。先のことはまだ分からないから。それとその前にニーナとルサカはどこにいるかな。アーベンさんは知っていますか?」
「あの二人は街の見学をしとるはずじゃ」
何となく間が悪いな。どうせなら一緒に街を見学したら楽しかっただろうに。でも「何やってるか分かったから一安心」とはとても思えなかった。むしろ逆の、妙にざわざわした胸騒ぎが去来した。
「二人だけで? 大丈夫かな。何となく心配だから探しに行こうかなと思います」
「ふむ、そうだな。そろそろ危険な時間だし、日が暮れる前には戻ってきてくれないと人攫いなんかもいるし」
「ひ、人攫い!?」
「ああ。非常に不本意な話ではあるが、近頃は年端もいかぬ子供を拉致して奴隷商人に売り払うような輩がこの街を跋扈していてな。無論、我らとて警備に全力を尽くしてはいるのだがいかんせんいたちごっこでな」
アレサンドロの表情は曇っていたが俺の表情も多分同じになっていた。想像以上に治安は悪いらしい。アレサンドロがどんなに頑張っても何万か、あるいは何十万もの人間全てを見通せるものではないのは仕方ない。
とは言え、本当にそんなのに狙われたら大変だ、特にニーナが。あいつがいなくなったら俺の旅は終わってしまう。だからいてもたってもいられなくなった。
「じゃあなおさらだ! もう俺は行くからね。アレスは鎧の調整とかしててね」
「うむ。広い街だがメインストリートを歩いてさえいればそれほど危険はないと思う。だがまかり間違って裏の路地に入っていたりするとまずいからな。気をつけて!」
「本当にありがとう、アレス。じゃあ、行ってくるよ」
「幸運を祈る」
見知らぬ街にひとりぼっち。気持ちだけ先走って出て行ったものの、知っている人は誰もいない中でひと通りぶらついただけの大都会に飛び出すなんて初めてだった。
少し怖くはあるけど自分で決めた道だ。ましてこの世界で生き抜くためには、こんな事以上の不安はいくらでも出現するだろう。一歩ずつ、心の行動範囲を広げていかないと勇者にもなれないだろうから。
「ニーナどこだ! いたら返事してくれよ! それとルサカも」
街の周囲を見回して二人を探したが、そこで早速見つかるほど安直ではない。北から南へ、左右をきょろきょろ見回しながら歩いて行った。
しかしあてもないのにうろつくのもまずいな。この年で迷子になるとか恥ずかしすぎる上に本気でやばくなるだろうから。いや、でもとりあえずは勇者の塔を目印にすればどうにかなるか。
一度浅草に行った時は夕空ににょきりと伸びるスカイツリーがある方向が東って事で迷わなかった事があった。この街で一番高いのはあの常夜灯だから、迷ってもあれを目印にして近づけばどうにかなるだろう。
とりあえずメインストリートを南下して細い路地に入ってみたが、やっぱり空気がどんよりとしていて出来れば近づきたくないオーラ全開だ。
亡者のようなおっさんたちの「なんだこいつは、余所者か」と俺を品定めするような生暖かい目線と駆け抜ける野良猫、そしてきつい生ゴミの腐ったような臭い。
俺が一番苦手なタイプの街角を更に濃厚圧縮したような光景だったが泣いてなんかいられない。でも早く見つけられないとまかり間違えてしまいそうなほど俺の心は孤独に押し潰されそうになっていた。
「あっ、いた! 初さん!」
雑踏の中、突如聞き慣れた声響いた。この甘美なるソプラノは紛れもなくニーナの声。良かった、意外と早く見つかった。ところでお前はどこにいるんだと辺りを見回すと、ニーナは宙に浮いてこっちへ向かってきた。
「あっら、ニーナよ。お前よくもまあそんな目立つ登場してくれるな」
「これは僕の霊魂ですから、そりゃあ飛べますよ。肉体はまた別の場所にあります」
ああ、そういう設定だったっけ。確か肉体と魂を自在に分離できるとかそんな感じの。だから今の飛んでるニーナは肉体を伴わない状態で、じゃあニーナの肉体はどこにあるのかと俺は尋ねた。
「ええ、それなんですがね、ちょっとした修羅場になってましてね。ここからちょっと遠いですけどね、この道をもっと南下して、南から二番目の西側にいます。では僕はそろそろ戻りますから」
「おいちょっと待て!」
俺の声なんて聞くはずもなく、ニーナはすっと消えていった。太陽は西に傾きつつある。空にはうっすらと月も浮かんでいた。そう言えば太陽の角度は元いた地球と同じなんだな。これで東西あべこべならもっと混乱してたところだ。
それにしても修羅場って一体何がどうなっているのか。ただ居場所が判明しているのは幸いだ。待ってろよニーナとルサカ。お前たちの命ぐらい守れずして勇者になんてなれるはずもない。俺は全力でメインストリートを南下した。




