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26、ツヤっとして、白くて、飽きないアイツ

放送で呼び出された誠一は、ミゲル学園長の言葉を聞いていた。


その言葉に始めは焦っていたが、落ち着いて考えれば、


……「駄目」ではなく「難しい」か。


つまり完全にオジャンになった訳ではない。

ただ障害となる問題が生まれたのだろう。


「何か問題が……?」


そう聞くと、ミゲル学園長はふぅと疲れたように息を吐く。


「当初、学園が抱える事務役員を店員としてする予定であったが、一部の講師、研究者から横槍が入った。そんなことは時間と人員の無駄使いだと」


「……それはまた辛辣な」


「しかし、この主張、これは建前と考えられる。本心は新人いびりの延長だ」


性根腐ってんな、おい。


「やだー!皆から人気者でうれしーわー」


「嫌がらせを喜ぶとは、変わっているのだな」


「……え。い、いや、ちょっとした冗談だったんですけど」


「ふむ、そうか。真に受けてしまった。すまない」


「お、おっふ……」


……や、やり辛い……。


何時もなら、合いの手入って来るんだが。

ボケを素で返されるのが1番困る。


誠一はコホンと咳払いして、話を戻しにかかる。


「それでも、難しいってことは、仮設店舗の経営を出来ないことも無いんですよね」


そう聞くと、ミゲル学園長は首を縦に振る。


「私の方からも話を付けてな。そして、仮設店舗で販売するには条件が2つ」


まずは1つ。指を1本立てて、


「仮設店舗を受け持つ店員を、セーイチ、そちらで用意すること。もし、雇う際には人件費もそちらで持つこと」


そして、2つ目。2本目の指を一本立てる。


「そして、仮設店舗を開いた際、1ヶ月の期間で一定の利益、話し合いで銀貨10枚(日本円で100万円)以上の売り上げを出すこと」


つまり、


「この2つをクリアすれば、仮設店舗を開けるということだ」





ミゲル学園長と話を終え、一旦学園長室を離れた俺は、


「うわーん!学園長が無茶言うんだー!助けて、ジョジエモン!」


『いきなり来たかと思えば、何故にドラえもん風な呼びなんだよ……』


図書館の幽霊ジョジエモン、じゃなかった、ジョージに泣きついていた。


ジョージは突然の展開について行けずに戸惑っている。


「うわーん!同僚が僕をいじめるんだよー!」


『まぁ……取り敢えず、何があったのか教えてくれよ』


「────OK、分かった!」


『……実は余裕あるだろ、アンタ』


言質が取れたので、事の次第を話す。


誠一が話していく内に、次第にジョージの顔が渋くなる。

話し終えた頃には、ジョージは頭を押さえ、深いため息を吐く。


『あー、やっぱり腐敗してきたか。予想はしてたけど辛いなぁ。誠一にも迷惑かけるな』


「いや、その謝罪に関してはお門違いでしょ。死んだ後の問題だし」


そんなもん、責任は当事者たちの物だ。

そして、その問題に解決の一手を打つのが自分の役目である。


その為にも、こんなとこで躓くわけにはいかない。


「ということで力を貸してくれ。主に言うと知恵を」


『うーむ……まずは金銭的問題からかな。1ヶ月で銀貨10枚。日本円で100万か。単純計算でいいから、ぶっちゃけ無理そうなんか?』


ここでおさらいである。


売る予定のパンはメロンパンと焼きそばパン。

どちらも200円で、一日に最大でそれぞれ200個製造可能。


猶予は1ヶ月。

しかし、休日は学園が休みである為、休日を9日とすると、実質21日間。


21日全てのパンが売り上げたとして、168万円。

銀貨に換算して約16、7枚。


つまり、


「難しすぎる」


『あ、やっぱり?』


宣伝されている料理ならいざ知らず、生徒達にとっては味の想像もつかない未知の料理が現れるのだ。


だからこそ、始めは50個限定とし、学園に周知されるまで待ってから本腰を入れるつもりでいた。


損失回避、というものがある。

人というのは、利益を得ることより、損失を生むことのほうがリスクだと考える傾向が強いのである。


例えば、新しい店に行きたいと思いながら、いつも同じ店で食事をしてしまうなど、これに当てはまりまる。


『安く売る、のはダメだな。売り上げ個数じゃなくて、売り上げが指定されてるわけだし』


「ああ。それに猶予が短い」


ジョージは、ふむと考え込み、よしと手を叩く。


『……金銭に関しては今は置いておこう。それじゃ店員に関しては?誠一は教師だし、準備とかする暇ないだろ』


「それに関しては考えがある。ゴーレムを使う」


実際に見せたら早かろうと、自分が創り出したゴーレム、カクとスケを異空間から召喚させ、ジョージに見せる。


すると、途端に眼の色変えて、食い入るように観察する。


『これは………いや、凄いな。コレは誠一の特典によるものか?』


「そうそう。転生特典の【想造魔法】、【森羅万生】って言う魔法を作れるのと、物作れる能力で作ったんだ」


『────は?………誠一。失礼だけど、アンタの特典について教えてくれないか』


【想造魔法】【森羅万生】【絶対強者】【ヒーローの幸運】【鶴の羽】と、全部の特典能力について話す。


すると、聞いていたジョージは初めは驚嘆し、最後の方では呆れていた。


『何だよ、その馬鹿げたチートは。しかも5個って。俺の時は1個だぞ』


「いやー、はっはっは……自分でもそう思う」


まあ、持て余してる感は実感してるけどな。

ジョージは俺の特典能力を聞いて、未だにゴーレムから目を離さずに誠一に同情するように言った。


『しっかし、()()()()()()。この先、()()()()


「…………?」


ちらりと。

ジョージの言葉に微かに違和感を覚える。


微妙に噛み合ってないといういうか、認識の違いというか。


自分でも形に出来ない奇妙な感覚をジョージにぶつけようとしたが、しかし、ジョージの方が先に口を開き言葉を作る。


『それより、誠一。その、カクとスケ?だったか。そのゴーレムを使うのは止めといた方がいいぞ』


「え、何で?」


まさかのジョージからの意見に、誠一は理解が出来ない。


「ちゃんと自分で判断して行動する高性能なゴーレムだぞ。なあ。カク、スケ」


『『御意』』


カクとスケがジョージへと自分達の性能を証明しようと、組体操のトンボの技を披露する。


……いや、それ以外に無かったのかい、披露するやつ。


しかし、ジョージはちゃうちゃう、と手を横へ振る。


『高性能過ぎんだよ。外出てねえから、詳しくは分からないけど。現代の技術の3歩先は行ってるぞ、このゴーレム』


そこまで言って、そうだなと一考し、


『例えると、自販機が足生えて勝手に動いたり、商品が足りなくなったら自分で判断して補給する、みたいな。そんな光景だな、(はた)から見てると』


そんなSFチックな例え話をされて、カクとスケが埒外の存在だと理解する。


「そ、そんなにか」


ジョージは誠一にゴーレムについての説明を受ける。


通常のゴーレムは、普通、近くで操縦する人物がいなければ動かない。

勿論、門番代わりになど、操作されずとも自動で動くゴーレムもいるが、1つか2つなど、少数の命令しか組み込まれず、融通が利かないそうだ。


『素人相手なら誤魔化せるけど、ここは専門家達の集まりだし。まず追求される。素材だったり、魔法技術だったりと……ぶっちゃけ詳細聞かれても詳しく答えられないだろ』


ジョージの言葉に、頷くしかない誠一。


【想造魔法】が使い勝手が良すぎることが、ここで仇になる。

とりあえず、「自動で動いて判断できるのがいいなー」なんてイメージしただけで、その通りに出来た為、どういった仕組みかなんて聞かれても答えられない。


『それに、最悪の場合は難癖つけられて、解体目的のマッドサイエンティスト共か、蒐集目的の貴族のお偉い講師様にでも没収されるのがオチだ』


「そんな…………人件費問題は楽勝だと思ったのに」


一教師の給料では、生活してくのでカツカツであり、余裕がない。


八方塞がりとなった誠一はその場で項垂れる。


……今日一日散々だよ、もう。


そんな落ち込む誠一を見て、ジョージは励ましの言葉をかける。


『まあ、安心しなよ。誠一には俺を起こして貰った礼もあるしな。その2つの問題に関しては俺に任せな。最終的な学園長への返事はいつまでなんだ?』


「来週の金曜まで……」


なら十分だ、とジョージは頷く。


『それまでに良い案を考えとくからさ。これでも世界一の学園をゼロから作った男なんだぜ。だから、今日は帰って白い飯をやけ食いでもして、さっさと寝ちまいな』


ジョージの言葉に心強くもあるが、不満もある。


「白い飯をやけ食いって、……その米がこの世界にあったらどれだけ心が楽か」


……ああ、米食いてぇ。


最近はただでさえ、米への衝動が激しくなっているのに、ジョージのせいで米への恋慕を思い出してしまう。


誠一の反応にジョージは訝しむ。


『え、米ならあるぞ?』


「だから、無いから困って──────今なんて言った?」


ジョージから告げられた衝動の事実に、誠一から一瞬で抱えていた悩み、不満が吹き飛んだ。


世界に光がさした。





……ああ、世界はなんと美しいのだろう!


ジョージから米が生息する場所は聞いた。


どうやら、この大陸には無く、しかし海に隔てられ遠く離れた小さな島国に米があるらしい。


既にジョージの話と地図を照らし合わせて場所を確認した。


しかも、ジョージから米をくれるであろう知人の住所も確保している。

200年も前なのに、未だ生きているということは長命な種族なのだろう。エルフかな?エルフまだ会った事ないけど。


何時もなら気になって深く聞くのだが、今は気にしない。


そんな事よりも米だ。


すぐさま宿へ帰ると、アンちゃんに夕飯を作る。

俺の分は要らない。

なんたって米が自分を待っているのだから。


折角だしとアンちゃんも来るかいと誘ったかが断られてしまう。残念だ。

後ろで「お兄ちゃんが更におかしくなっちゃった……」「しっ、今は触れちゃダメよ。巻き込まれるわ」などと失礼な声が聞こえた気がしたが、この最高にハイな気分なので気にもならない。


準備はOK。


時差にして5時間ほどあちらが遅れているらしいので、時間的にも丁度いい。


「いざ、夢の国へ!」


誠一は瞬間移動の魔法をかけ、宿から目的地まで一瞬で飛ぶ。





誠一の目の前に広がる光景が宿の部屋から、ガラリと変わる。


「……ここは、倉庫か?」


何やら様々な物が置かれている。


椅子やら皿やら、お酒に、魚の干物。


それに、


「お、おおっ…………おおおっ!!」


俵が、米俵が、お米があった。


いや、藁の俵が積んであるだけなので、中身は見えないが、俺には分かる。


アレこそ、正に、俺の探し求めていた、愛し求めていた、米だ。


そして、自分の頰を何かがつたって落ちているのに気づく。


頰を指で触れる。

涙だ。


無意識に泣いていたのだ。


その事実にふっと少し笑い、涙をぬぐう。


「……よし!ここが倉庫ってことは、ジョージが言っていた人の持ち物かな」


とりあえず、ここを出て挨拶をしようとし扉を目指して、


「ん?………スンスン」


何か焦げ臭いなと思ったら──────倉庫ごと大爆発した。


目の前が爆炎に塗り潰され、誠一は吹っ飛んだ。

次の更新は1週間後です。

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