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22、伝説って?ああ!

誠一は図書館を後にし、街道を歩いて帰路についていた。

既に日は沈みかけ、早く戻って夕食の準備をしなくてはならない。


しかし、その顔は心ここにあらずといった具合に呆けている。


現在、誠一の頭の中を支配するのは、図書館でのこと。

書籍の裏表紙に隠された、平仮名で書かれていた文字。


平仮名で書かれた文字。

つまり、それを書いたジョージ・ベルフウッドは、


「────日本人」


同郷の可能性が高い。


いや、言われてみれば、ヒントは多々あったのだ。


この学園の名前からしてそうだ。

イダート学園、これを逆さから読むとトーダイ、東大と読めなくはないか。


学園のチャイムもそうだ。キーンコーンカーンコーンと子供の頃から聞き慣れたリズムの鐘の音。だが、これは日本特有の音だ。

学校と言えば、このチャイムの音だと勝手に決めつけていた。


そして、ベルフウッド。

これは若干当てこすりのような考えだが、ベルフウッド、雑に分けるとベルとウッド。

そのまま直訳すれば、日本では聞き慣れた苗字。

鈴と木で、鈴木だ。


1つ1つならば偶然といっても良いが、3つも同時に揃えば一笑して蹴飛ばすことは難しい。


それに何よりも、書かれていた内容。


それは適当に並べていたのではなく、意味のある文章であった。


"ぜろじに このほんをもつて としよかんへ ゆうしや あああより"


直すと、


「……0時にこの本を持って図書館へ、勇者 あああ より」


……メッセージ、ってことだよなぁ。


そうなると本に施された劣化防止の魔法も意味が違ってくる。


自分が死んだ後、同郷の、日本人にだけ分かるようにメッセージを残すため。


しかも、最後の。


あああ


RPGで勇者の名前を付ける際の、有名なやつだ。

日本の身内ネタである。


「不意打ちすぎるだろ、ジョージさんよぉ……」


深呼吸をして、落ち着かせようと試みる。


そもそも、極論を言ってしまえば、ジョージが同じ日本人だとして、自分の生活には何も弊害は無いのである。


……例えるなら、胃カメラ作ったのが日本人だと知った、みたいな……。


驚きこそすれ、その後は、へぇー、と同じ日本人である事に尊敬か感動をして終わりだ。


だが、その偉人からメッセージがあり、そして、それが自分に向けられたものであると、大きく違う。


「メッセージ通りにしたとして、……一体何があるんだ?」


いや、そもそも何故あの本に。

メッセージを残すのが目的としても、あの雄大な数の本がある中で、あの一冊を手に取る可能性は流石に低すぎないだろうか。


誠一は再び思考の海へと沈みそうになり、


「お帰り、お兄ちゃん!」


「お?アンちゃん?た、ただいま?」


突然のアンに声をかけられ、意識が戻る。


アンに挨拶を返しながら、見ればそこは誠一が寝泊りする宿の前であった。


どうやら考えている内に、宿に到着していたらしい。


「そうだ、お兄ちゃん。今ね、お兄ちゃんの生徒の人がいるよ」


「生徒?」


アンに手を引かれるがまま、アモーレの扉を開けると、


「こんちわっす、先生」


「ジーン?何でここに?」


そこにはFクラスのジーン・カーターがいた。





何故かジーンが宿アモーレにいて、こちらに挨拶をしてきた。


そして、ジーンをよくよく見れば、所々擦り傷が見え、ボロボロである。

疲労もしているようだが、


「どうしたんだ、その怪我?まさか喧嘩か?」


自分の生徒が何か事件に巻き込まれたかと心配するが、すぐに否定が入る。


「お客さん、俺が組手をしてたんですよ」


ジョディの息子。

ガルダナだ。


「ガルダナ。組手って、何でまたそんな事を」


組手というと、恐らく誠一が毎朝やっているように、アモーレの裏にある修練場での訓練だろう。


ガルダナはカウンターの奥から水を持って現れ、ジーンに手渡しながら、こちらの言葉に答える。


「こっちのジーンにお願いされてな。週一で稽古つけてやってんだわ」


一応ジーンにも確認を取る。


「そうなのか?」


「まあ、はい。俺から頼んで、かれこれ1年はお世話になってますね」


ジーンは問いにそう答え、そして、同時になるほどと誠一は納得していた。


……だから初日の模擬戦で戦闘慣れしてたのか。


投擲技術から、人の嫌がる戦い方、それに瞬時の判断など、あれは一朝一夕では身につかないものである。


戦闘能力の高さはガルダナの教えによるものか。


だが、


「それにしても。よくもまあ、このアモーレで教えを請おうとしたな。ここの店主の常識破壊力凄まじいだろ」


ギリギリ人類よりのゴリラがメイド服着て現れる宿だ。どんな絶滅危惧種だよと思う。


誠一の疑問に、ジーンは恥ずかしそうに答える。


「実は、ガルダナさんには俺が喧嘩してた時に助けてもらいまして。喧嘩の理由は、まあ絡まれて、無視すればいいのにキレちまって。そのまま返り討ちくらったわけです」


キレて喧嘩って。

ジーンは見た目や言動とは違って、冷静な生徒である。

なので、その過去の出来事を聞いて、誠一は少し驚く。


「相手が3人がかりでな。他人の、しかも子供の喧嘩に手ェ出すのは悪いが、魔法まで放とうとしてたからさ。流石に止めたんだよ」


「その時のガルダナさんの手際に惚れて、弟子入りしたわけなんすよ」


確かに、ガルダナは戦闘センスで言えば遥か高みにいるからな。

3人そこら、しかも子供の素人相手なら軽くあしらう姿が容易に想像できる。


「しかし、子供の喧嘩って。もしかして、喧嘩の相手は学園の生徒か?」


「そうですけど。先に言っときますが、イジメじゃねえっすよ。貴族の取り巻きしてるAクラスの平民と道端で肩ぶつけて。そこで俺が喧嘩腰だっただけだぜ」


自業自得なだけだ、とジーンは自嘲気味に言って、立ち上がる。


「じゃあ、俺はそろそろ。飯を買いに行かなきゃならないんで」


ジーンは帰宅の準備をし、しかし、誠一はそれに待ったをかける。


「夕飯まだなら、ちょっと待ってなジーン」





あまり待たせてはいけないので、ちゃちゃっと作っていこう。


作るのはホットサンド。


まずは中の具を作っていこう。


1つはシンプルに。

トマトは輪切り、レタスは手でちぎり、ベーコンはちょっと厚めに、そして、オニオンを薄くスライス。


鉄板を二枚上下に合わせたフライパンのようなシンプルな構造をしたホットサンドメーカーを取り出し、火にかけ、バターを溶かす。


熱した片面に、薄く四角くにカットしたライ麦パンを乗せ、マスタードを。

そして、さっき用意した野菜とベーコン、胡椒をひとかけ、最後にもう一枚ライ麦パンを重ねて、


「プレスしてと……よし。もう一品をこの内に」


火にかけて、五分焼く。


その内にもうひとつの具を作る。

こっちはちょっと変わり種。


まずはヘタを切り落としたナスを斜めに薄くスライスしていく。

カットしたら少し多めに油を引いて加熱したフライパンで揚げ焼きするように炒める。


そして、作り置きしていた肉味噌を取り出す。

おろしたニンニク、生姜、鶏のひき肉をごま油で炒め、そこに味噌、砂糖、醤油を加えたものだ。


それをナスの入ったフライパンに投入。


ジュワァと気持ちいい音と共に、味噌の香ばしい匂いが広がる。


……米食べてえ。


この肉味噌、鳥でなく豚肉でもいいし、この肉味噌に刻んだ大葉とゴマを混ぜて、オニギリを作ると最高に美味い。

それを半分残して、出汁とワサビを入れて茶漬けにするのも最高にそそる。


「……と、今は目の前の料理に専念、専念と」


ナスと肉味噌の炒める火を止め、ホットサンドメーカーを開ける。


モワッと湯気と共に、綺麗な狐色にカラーチェンジしたホットサンドが現れる。


芳醇な香りを放つそれをまな板へと取り出し、ホットサンドメーカーにバターを再度溶かす。


バターを引いた鉄板に、パン、ナスと肉味噌、チーズ、パンを乗せてプレス。


そして、BLTホットサンドを半分にカットして包み紙で包む。


肉味噌ナスチーズの方も、五分後、取り出して同様に包んで、完成だ。


外はカリッと仕上げ、中身はズッシリ。

食い応えがある2品である。


誠一は出来立ての料理を手提げに入れ、ジーンに渡す。


「ほれ、持ってきな」


「ありがとうございます、先生」


ジーンは受け取り、こちらへ礼を言う。

こちらとしては休日に鍛錬を積み重ね、努力する姿を見て、自分なりの応援をしたかっただけであるから、礼など言わなくて大丈夫なのに。


「いいっていいって……あ、そうだ!ジーン、図書館で何か変な噂とかないか?」


「噂……って。例えばどんなっすか?」


「あー、そうだな。図書館には勇者の秘宝が眠ってるとか、地下に何が封印されてる、とか。そんな感じの」


誠一は学園の生徒なら、もしかしたら何か知ってるかもしれないと期待して聞いてみたが、どうやら心当たりが無いようだ。


「すまないですけど、そんな話は聞いたことは無いっすね」


「うーん、そうか。いや、変なこと聞いたな」


やはり、自分で調べるしかないかと思ったが、ジーンが何かを思い出したらしく、声を上げる。


「…………あ、そんなんじゃないけど。学園に伝わる伝説ならあったわ」


「伝説……?」


ジーンは与太話ですよと加えて、告げた。


「イダート学園7不思議って知ってるか、先生」

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