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21、学園創始者の勇者

司書が突然の逃走を図り、誠一は慌てて追いかけたのだが、


「はぁ……!はぁ……!」


「……思いのほかに早く済んだ」


それから1分もしない内に追いついた。


この司書の男性、フォームは良かったのだが、いかんせん体力が無いようだ。

今も息切れを起こして、壁に背を預けている。


……まあ、見た目からしてヒョロいし。


屋内での仕事が多いのか、肌は白く、線も細い。


とりあえず回復するまで待つことにする。


「大丈夫ですか?」


「い、いいから!俺に近づくな!はぁ…はぁ…」


さいでっか。


でもまあ、そろそろ息が落ち着いてきたので、理由を聞くことにする。


「あのー?なんで突然逃走を?」


「お前が女装ゴリラの使いだからだ!」


ソッコー原因判明。


……あーはいはい、ジョディさんねー……。


つまりは、目の前の司書が、ジョディさんの言うミゲル学園長の友人であることが確定である。


先程の丁寧な喋りはどこへやら。

今の方が素なのだろう。


というか、ジョディさんの使いとは。

あのメイド服着たゴリラ系の何かと同じククリにされるのは、心外だ。


「いや、でも、自分はあそこの宿に寝泊りしてるだけの一般人なんで、安心して下さい」


「あの狂人率高めの所に平気で居座ってる奴が信用できるか!一般人なら泊まらねえよ!」


「ぐふぅ……!」


正論である。

まさかの精神的不意打ちに膝をつく。


宿泊客は筋肉崇拝者で、宿の経営者親子が戦闘狂である。

そして、経営者の1人は更にメイド&オカマのジャンルを取り入れている。


否定のしようがない。


しかも、ここで「自分はマトモだ!」などと言っても説得力に欠ける。むしろ警戒心が高まる。


ならば、別路線から攻める。


考えろ、考えるんだ誠一!


今、司書である彼は孤立をし、不安になっているんだ。


人間とは本来群れる生物、それ故に孤立を恐怖する。

しかし、この図書館には2人しかいない。


しかも、勘違いとは言え、彼にはこちらが敵に見えており、それが余計に不安を煽る。


ならば、することは1つ。

こちらが敵ではなく、仲間であると証明すれば良い。


共通点。共通点にこそ、光がある。

趣味しかり、宗教しかり、応援チームしかり、キノコ・タケノコ派しかり、人間は共通するということに安心を見出し、それは所属人数の少なさに比例して大きな仲間意識を持つ。


目の前の人物と自分の共通点。

情報量は少ない。なにせ、自分はこの司書の名前すら知らないのだ。

だが、あるはずだ……彼と俺の共通点が。

共通点、共通点、共通点……学園、ジョディ、ゴリラ、ミゲル学園長、友達、アモーレ、朝、司書、筋肉、一般人、教師、狂人…………あった!


彼がミゲル学園長の友人で、ジョディのことを知っているならば確実に()()だ。


「ひとつ、これだけは言わせてくれ」


「…………何だ?」


「俺もジョディさんと寝て朝起きたことがある!つまり、俺たちはあの肌の温もりを知ってる同じ穴の───」


言いかけ、続くムジナが出ない。

勢い止めないために、親しい関係を示す言葉が頭に浮かび、代わりに言う。


「そう!同じ穴の兄弟だ!」


そう言いきって。

そして、「あれ?違くね?」と今更思う。


司書を見る。


そう言うと、彼は尻を守るように両手で押さえ、


「───────ッッ!!!」


瞬息で逃げられた。


失敗したので、また追いかける。

さっきより速く、長い時間逃げられた。





あの後、何とか司書に話を聞いてもらい、誤解を解くのに成功した。


……未だに距離を取られ続けるのは気にしない。


「……というわけで、ジョディさんから聞いたんですよ」


「なるほど。……すまな、すみません。少し取り乱して正気を失っていました」


司書の彼は、素の喋り方から始めの丁寧な受け答えに戻して、


「自己紹介が遅れました。自分はウォーレス・リドル。この学園図書の司書を勤めています」


「これはご丁寧に。俺は誠一・沢辺という名前で、今年からFクラスの担任をしています」


「Fクラス……君か。クラス王国から派遣された教師というのは」


どうやら少しは噂になっているらしい。

だが、それよりも気になる事がある。


「あの、質問いいですか?」


「自分はノーマルだ」


「まだ聞いてないし、違うわ、そして俺もノーマルだ。……ミゲル学園長の学友なんですよね。その割には若く見えますけど」


ああ、そのことか、とウォーレスは言うと、自分の髪をかきあげて、こちらに耳を見せてくる。


何をと思い、そして、彼の耳が普通よりも長く、上へととがっていることに気づく。


「まさか、エルフ?」


エルフは滅多に人間社会に出ることは無いと聞く。

まさかの第1エルフ発見かと思いきや、


「半分正解ですね。正確には人間とのハーフでしてね」


「……ハーフエルフ」


エルフは純血を重んじる種族であるが、人間と身を結ぶ者も稀にいるとは聞いていたが。

だが、失礼ながらウォーレスはパッと見では、只人に見える。


「と言っても、恥ずかしい話、只人とあまり変わらなくて。エルフは弓と魔法に長けた種族であるのに対して、自分は魔法の才能は引き継げず、あるとすれば、この耳と長い寿命なことくらいでね」


本来のエルフの半分の寿命ですけどね、と自嘲してこちらへ告げる。


なるほど。

だがらミゲル学園長に比べて、若いのか。


「この長寿のお陰で、死ぬまでに本が沢山目を通せるのは幸運でして。本好きなこともあってか、ミゲルに司書を任されています」


「ビブリオマニアにとって、ここは天国でしょうね」


「それはもう。……それで、本日はどのような本をお探しで?」


「え、……えーと?」


ウォーレスの言葉に、誠一は内心慌てる。


……今日はただ図書館の中を見に来ただけなんだが。


これから色々と調べるのに使うだろうし、とそんな軽い気持ちで来た次第だ。


ただ、ウォーレスの顔を見ると、


……めっちゃ紹介したいって書いてあるー。


本好きは本当なのだろう。

目からはウズウズとしている感情が隠れてない。


誠一は咄嗟に何か言わないと、と思い、


「が、学園の……そう!学園の創始者の勇者について詳細が書かれた本を読みたいなと思って!」


「なるほどなるほど。そうですね……希望に当てはまる書籍は25冊ありますが、その中の1冊をこちらでおススメを選ぶ形でよろしいでしょうか?」


「それでお願いします」





勇者ジョージ・ベルフウッドは辺境の村の出身であった。彼は己のことを神から遣わされた転生者であると発言しており、それを示すかの如く才能に溢れていた。


彼は齢12にして最上級魔法を行使し、また、剣の腕前についても国に仕える聖騎士を圧倒するほどであった。魔法は独学で習得したとあるが、剣術の師はいたと本人が証言したとされている。しかし、その者をジョージ・ベルフウッド以外に見たという者は誰もいない。


18歳でギルドに所属、2年と経たぬ内にSSランクに登りつめる。


それから更に3年後に人類と魔族の戦争が勃発。


そして、10年に渡るこの大戦争こそが、ジョージ・ベルフウッドが勇者と呼ばれるキッカケとなった。


(中略)


ジョージ・ベルフウッドは個人の戦力だけだなく、研究においても目覚ましかった。

学園の設立。奴隷法の改善。霊魂誓約書の発明。弾劾されていた獣人、鉱人(ドワーフ)森人(エルフ)など亜人の救済及びに権威を確保。精霊の存在証明……etc.


彼ほど魔法の発展、並びに戦力の育成に貢献した勇者はいないであろう。


〈著者:パバリス・ピルス〉





「凄え人だな、ジョージ・ベルフウッドってのは……」


ウォーレスから手渡された書物。

そこにはある男の一生が、そして偉業が記されていた。


だが、1つ気になることが。

誠一はウォーレスに尋ねる。


「ところで、何故この本がおススメなんですか?」


「情報の信憑性です。裏表紙を見てください」


言われた通り裏表紙を見ると、何かの模様の枠に囲まれたサインが、そこに書かれていた。


そこに書かれていた名前は、


「ジョージ・ベルフウッド……このサイン、本物ですか?」


「ええ。この作者と創始者は知己の間柄だったらしく。記念にとサイン入りの一冊をこの図書館に贈呈したそうです。そして、何よりこの本の凄い所は、創始者様直々の魔法がかけられています」


「魔法って……」


魔法が施されているのに、全くその事実に気づかなかった。

非常に精密に隠匿された魔法、このことから勇者の技巧の高さが鑑みえられる。


「この本、全く劣化しないどころか、傷がつかないようになっています」


「それはまた大層な魔法で……」


本1つにそこまでするとは、恐れいった。


勇者の力を見せつける、または、後世に誤った歴史を産ませないための工夫か。


……まあ、もしかすれば、ただ単に自分の活躍を見せたかっただけなのかもなあ……。


誠一はジョージ・ベルフウッドのサインを見ながら、そんな下らないことを考えて、




「────────え?」




ある事に気づく。


「……?どうかしました?」


「い、いやっ、何でも無いです」


誠一は慌てて誤魔化す。

ウォーレスの反応からして、やはり知らないのだろうと判断。


そして、もう一度【ジョージ・ベルフウッド】のサインをよく見る。


模様に囲まれた名前自体には特におかしな点はない。


だが、逆だ。


サインを囲み彩る、模様の方に細工があったのだ。

これは模様のように見えて、模様ではない。


文字だ。


標準から崩された形であったが、確かに文字だ。

模様に見せかけた文字が、サインの周りに書かれているのだ。


この事に気づけたのは半ば偶然である。

だが、ウォーレスがこの事に気付いておらず、誠一が気付いた大元の理由は別にある。


この文字は、誠一には慣れ親しんだものであり、しかし懐かしくもある、


「…………()()()()だ、これ」


日本語の文字で書かれていた。

次話は20時更新です

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