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18、クルーラータイプも好きだよ

キーンコーンカーンコーン


「よーし、今回はこの辺で。おつかれー」


「「「はーい」」」


料理のための科学の授業を終え、生徒達が立ち上がりそれぞれのメンバーで集まりだす。


「さて、昼飯でも……ん?」


誠一は自分で作ってきた弁当を取り出して、食べようとするが違和感を感じて手を止める。


ほとんどの生徒が教室を出て行こうとしない。


……日本とかだったら、混みだす前に購買や食堂に向かって急ぐもんだが。


見た限りでは、誰もかもが何処かの学外の店舗で買ってきたであろうスライスされたゆで卵、干し肉、トマトを挟んだサンドイッチ。

そして、各自持参している動物の胃で作ったであろう水筒。


何というか、皆似たり寄ったりの物を食べている。


気になった誠一は近くにいたアンディーに声をかけ、聞くことにする。


「なあ、アンディー。皆して同じ物食べてるが、それは?」


「あー、これっすか。これはビル商会が経営しているパン屋で買えるもんで。安くて人気なんすよ」


「ビル商会って……あ、ホントだ」


アンディーの持っているパンが入っていた紙袋を見ると、袋に【いつもニコニコ ビル商会をご贔屓に】と文字が書かれていた。


色々な商品を取り扱っているとは言っていたが、パン屋なども経営してるのか。相変わらず手広くやってんな、あの人は。


「購買や食堂とかは?たしか学園内にあったよな」


「購買なんて買えるもの売ってないし。学食なんかAクラスかBクラスくらいしか使わないよ、あんな所」


「……何だって?」



「たしかに、アレは酷い」


昼休みの終わる前に(くだん)の購買も学食を見てきた。


購買と学食。


アンディーの言う通り、確かに一般生徒は使わない。

というか、使えない。


値段がとにかく高かったのだ。


まずは購買。

ノートやインクに羽根ペンなどの筆記用具は普通の値段なのだが、食品関連が全て高価なものばかりである。

しかも、あった品は紅茶、クッキー、スコーンなど貴族がお茶会で飲食するようなものばかりであった。


そして、食堂。

風格ある歴史を感じるほどの厳かな食堂。

そして、そこで優雅にランチを食事する者たち。


確かに建物に相まって、格式高い絵になる光景ではあるが、自分が知ってる学食とはかけ離れていた。


それに、値段。

分かりやすく換算すると、1食に2万円。

普通学生のことなど考慮していない値段設定。


……これは貴族以外は利用しないな。


今は経済、と言うと堅っ苦しく聞こえるが、実際は算数と地理の授業中。

どこにこの国があるのか、そこでの政治状況、勢力、特徴、名産品などを学ぶと共に、他の国の貨幣を両替したらいくらになるのかと、これから生きてくのに必要な知識である。


今は最後の課題を終えた者から自由となっており、課題を解けた物にはご褒美にドーナツを渡している。


ドーナツには種類があるが、今回のはイーストドーナツである。

揚げた後に粉砂糖をまぶしたシンプルな物ではあるが、ほのかな甘みとフワフワした食感、おやつにはもってこいである。


課題を終え、ドーナツの味を満喫しているジーン、カレン、アビゲイル、ココに話をし、学食について説明を求める。


「何であんな高価なんだ、購買も食堂も」


「さあ、知らない。私が中等部の頃からあんなだったわ。アビゲイルは知ってる?」


「いいえ、私も知らないわココちゃん。私も昔から貴族の子達がいつも利用してるイメージよ」


もう何年もずっとあの状態らしい。


それじゃあ詳しいことは知らないかと思っていると、ドーナツを食べながらジーンが喋り出す。


「……15年前、他国の王族がこの学園に留学することになったらしい。それにかこつけて、この学校に子供を通わす貴族の親どもが学食のグレードを上げにかけた」


一回区切り、ドーナツを飲み込む。


「子供に平民と同じ物でも食べさせたくなかったのか。それとも単なる親バカか。取り敢えず、その案は通ってしまって、少しずつ少しずつ高級志向になって今に至るわけだ」


「なるほど……。ところで、ジーン。何でそんなに詳しく知ってるんだ?」


「一応は同じ部類に入るわけだし。恥くらいは知っておかないとな」


ジーンがそう言うと、誠一を除く他の3人は納得した表情。


課題を終えて新たにこちらにやってきた生徒にドーナツとお手拭きを渡しながら、誠一はジーン達に聞く。


「すまん……俺だけ分からないんだけど」


「俺も貴族なんすよ。爵位低いけど」


最後の一欠片を口に放って、ジーンが何気無しに言ったが、こちらは驚きの情報である。


「冗談……じゃないか」


「まあ、その反応だよな。ぶっちゃけ貴族に見えないだろ、俺」


ジーンの言葉を肯定するようだが、確かにそうは見えない。

喋り方や、制服の着崩し方から、貴族というよりは少しツッパリ入った男子学生がしっくりくる。


「ちなみに、カレンも俺の家と同じ爵位の貴族だ。まあ、そっちはシックリくるだろ」


まさかの、もう1人貴族様がウチのクラスに所属していた。


「まさか、貴族の御子息と御令嬢がいるとは。話す時敬語の方がいいか?」


「いいよ、面倒くさい。それに今更敬語使われても気持ち悪いだけだし」


そう言って貰えると正直スゴイ助かる。


すると、ジーンと話してると、カレンが困り顔で話してきた。


「あの……先生?僕、男です。御令嬢じゃないです」


「「「いいじゃん、どっちだって」」」


「良くないですよ!全然違います!あと、3人も乗らないでよ!」


確かに令嬢と呼び間違えたが、カレンの容姿を見て、訂正する気がなくなった。


元気だなぁ、と思いながらも目の前の生徒達のやり取りを眺める。


……貴族でも、やはり色々なんだなぁ。


そんなことを思いながら眺めていると、カレンを宥めたアビゲイルがこちらに話を振る。


「ところで、セーイチ先生。先生は料理がお得意なんですよね」


「……ん?ああ、そうだけど。それがどうしたかな?」


「でしたら、セーイチ先生が食堂の改新をしてみるというのはどうでしょう」


アビゲイルの提案に驚き、しかし、それが可能であるのなら悪くないと思う。


いきなり食堂の現状を改革するのは難しくても、購買に置く食品を増やすというのは行けるかもしれない。


誠一がアビゲイルの提案を考えていると、課題を終えドーナツを食べていた生徒達も同調する。


「確かに、その案良くね?」「宴会の時の飯も美味かったよな」

「だよな。俺、購買に唐揚げ売ってたら何個でも食べちゃうぜ」「ビル商会のパンばっかってのもな」「悪くはないんだけど、飽きてくるわよね」


それは未だに課題中の生徒達も同様なようで、


「先生の飯、何でも美味いしな」「桃のしゃーべっと?も良かったよね」

「というか、早くドーナツ食いてぇ」「さっきから漂ってくる甘い匂いが、ヤバい」「もう、ダメだわ」

「皆、諦めちゃダメだ!……まあ、課題を終えた俺は優雅にドーナツ食べてながら愚民の君たちを応援することにするよ。じゃあな」

「「「貴様ァァ!」」」


最後の方、なんかもう関係なかったけど、結構食堂には不満を抱えているようだ。


運の良いことに、明日の夕方、報告を兼ねてミゲル学園長と会う予定がある。


その時に相談してみようと誠一は決意する。



キーンコーンカーンコーン



「おお。もう時間か。それじゃあ、授業はそこまで。課題出来てない奴は宿題で明日持ってこいな。あと、残ったドーナツは課題終わってる者で分けろよー」


「「「ヨッシャー!」」」


「「「クソッーーーーー!!」」」


その後の授業の間、ドーナツの甘い匂いだけが教室に残り、食べれなかった者達は血涙流しながら授業を受けたのであった。

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