15、女性に歳を聞くのは失礼よ
宴会を終えた誠一はアンと共に宿に戻ると、
「ア〜ラ〜。セーイチにアンちゃん、お帰りなさーい♡」
ゴリラ系メイドがポージングして待ち構えていた。
相変わらず顔面濃いなと思いつつ、挨拶を返す。
「ただいまです」「ただいまー!」
慣れとは凄いものである。
異様な光景に違和感をもう抱かず、日常の一部となっている。
「学校どうだった?友達はできたかしらぁ?」
「うん!リエラちゃんっていうの!」
「まあ!それは良かったわねぇ!」
すると、仲良くなった他の筋肉主義の宿泊客達も騒ぎ出す。
「それは目出度い!ならば、私たちから門出の祝いを込めて」
「「「フロント・ダブル・バイセップス!!」」」
皆一同に同じポージングをしているが、何故それが門出の祝いとなるのかは理解できない。
「筋肉のおじさん達もありがとー!」
……アンちゃんも動じなくなった。
悪い人達ではないのだが、アンちゃんの教育として良くないのではないかと、今更ながら悩む誠一であった。
◆
アンを寝かせた誠一は、一階のカウンター席に座っていた。
そして、誠一の前にはジョディが立ち、水の入ったグラスを渡す。
「今日はお疲れ様ね、セーイチ」
「どうもです、ジョディさん」
誠一は礼を述べ、水を一息に飲む。
ジョディは誠一が飲み干すまで待ち、本題について聴き始める。
「で、どうなのよセーイチ。何とかなりそうなの?」
「うーん……まだ何とも言えないですかね」
誠一のどっちつかずの濁した言い方。
「あら?随分と弱気ねぇ。そんなんでやっていけるのかしら?」
「うっ……」
ジョディの指摘に反論出来ず、口を一文字にする誠一。
誠一は面接の時のことを思い出していた。
ルルリエ様から現在のバランスを崩せと言われた誠一。
そして、学園長のミゲルさんから、それをクリアする為にはどの様にすれば良いのかを聞かされた。
ややこしいので簡単にまとめると、自分がしなくてはいけない事は以下の通りとなる。
・文化祭でのクラス対抗戦にて戦い、Aクラスに勝つ
・分野は問わず、研究を発表
・Fクラスの成績向上
・文化祭でのクラス対抗戦にて戦い、Aクラスに勝つ
文化祭とは1週間もの間、学園を開き一般市民の立ち入りを許可し、生徒各自で催し物を展示するのだ。
そして、恒例の文化祭イベントの1つとして、力を競い合うクラス対抗戦が決まってある。
文化祭には全生徒だけでなく、国賓の方など偉い人も来る。
大勢の人の前でAクラスに勝つことで、Fクラスは劣っているという概念を壊すのが狙いだ。
これが上手くいけば、生徒間での思想を崩せるが、しかし、当然ながら3つの内コレが1番の難題である。
・分野は問わず、研究を発表
端的に言って、誠一の箔付のためである。
Aクラスの教師は貴族であり、クラス王国の推薦だとしても、平民のしかも教師としては成り立てで実績の無い誠一では学園内での発言力が低い。
何かしらの問題があった時に、それでは困るとのことで些細な抵抗だとしても、実績をつけておかねばならない。
研究、発明品などはミゲル学園長に相談しながら、作ることとなっている。
・Fクラスの成績向上
Fクラスの成績向上は言わずもながら、Fクラスの立場を変える為であるが、どちらかというとヤル気を出させろとのこと。
今日確認したが、教室の設備の時点で違う。
上位クラスとの格差でFクラスは授業への意欲が低い。
これの改善をまず第一にせよとのことだ。
『才能が無い。貴族では無い。立場が下なのだと、無いことに甘えてはならん。持っていないことは、やらなくて良いという免罪符足りえないのだ』
面談の際、国王であるルルリエ様はそう言っていた。
厳し過ぎないか、と思う反面、理解していた。
言い換えれば、
才能がないからと、位が無いからと、行動に意味が無いとは思ってない。諦める義務は無いのだと、国王は宣言したのだ。
この言葉は一喝であり、叱咤の言葉でもあるのだ。
そして、これは今の不安になっている自分にも当てはまる。
先程の己の弱音も甘えだなと、不安を払拭し自分を戒める。
……自分が自分を信じてやれなくて、誰が自分を信頼できると言うんだ。
そんな誠一の心の変化に気づいたのか、ジョディは笑顔で聞いてくる。
「あら、ちょっと良い顔になったじゃない。覚悟は決まったの?」
「いえ、再認識しました。覚悟がブレない為に」
「……うふふ。これなら心配ないわね。このままクヨクヨしてた情けない顔だったら、私の熱いベーゼと抱擁で喝を入れてたわ」
ジョディの本気の言葉に(特に最後)、ゾゾゾと背中に寒気が入る。
…………無自覚だが、なんとか生存ルートを選択していたようだ。
ありがとうルルリエ様。貴女の言葉のおかげで、私はゴリラの抱擁とキスによる圧迫&ショック死を免れることが出来ました。
誠一がもしもの未来を想像して怯えているのに、気づいてないのか気にしてないのかジョディは話をつづける。
「ミゲルちゃんも結構な無理難題ふっかけたけど、あの子がそれほどセーイチに期待してるってことよ」
「そう言ってくれると、嬉しいもんですね……ん?」
ジョディの話し方に違和感を感じ、誠一は質問する。
「ちゃんって。ジョディさん、ミゲルさんの知り合いなんですか?」
「うーんと、まだ彼が学園長じゃなくて普通の講師だった時にね。ここによく友達と一緒に来てたのよ。最近は研究三昧でめっきり来なくなっちゃったけど」
この宿に来てた?学園長のミゲルさんが?
そんなシーンを思い浮かべて、しかし、超絶に場違いな想像が浮かぶ。
似合わない。
思わず口がへの字になる。
「本当ですか?にわかには……」
「あ、信じてないわね!嘘だと思うなら、イダート学園の図書館に行ってみなさい。そこの司書の子が当時一緒に来てた友達だから」
ジョディは自信満々にそう言い切る。
信じ難いが、どうやら本当のようだ。
今度、図書館には行くつもりだったし、余裕があればついでに聞いてみるとしよう。
それはそうと、もう一つ気になることが出来た。
「……ジョディさん。今、歳いく」
「殺されてぇのか、ガキ……アラ、やだぁ!ゴメンなさーい!でも、レディに対して不躾に聞くセーイチも悪いのよ」
つ、と続けて言葉を出そうとしたが、殺気により口が止められた。
心臓止まるかと思わせるほどの殺気。
冷汗がびっしょりと背中を濡らす。
レディとオカマに年齢聞くのは二度とやめようと固く心に刻む誠一であった。




