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13、友情とはナンダッケ?

……行った!


誠一の左腕を拘束しているカレンはそう確信した。


レジナルドの箱、魔法速射装置(何やら魔道具らしいが詳しい事は難しくて分からなかった)はファイヤーボールを誠一に向かって放つ。


炎は誠一目掛けて一直線へと迫る。

もし、模造刀で魔法を防いでも、盾ならまだしも、今あるのは剣だ。

ファイヤーボール自体防げたとしても、余波で少なからず爆発を食らう。


……どうです!


しかし、カレンは誠一の行動を見た。


自由な方。

剣を手にした右手を動かした。


剣で防いでも無駄だというのは誠一も分かるはず。

なのに、何故?


そして誠一は剣を振り、しかし、カレンの想像を裏切る。


模造刀を投げた。

それもレジナルドに向かって。


当然、投げられた模造刀は誠一へと向かっていたファイヤーボールと当たり、


「………!」


誠一とレジナルドの中間、誠一に届く前に、小さな爆発が起きた。



……あんな道具持ってんのかよ!


内心ヒヤヒヤヒヤしていた誠一であった。


ファイヤボールの余波により、髪が靡く。

だが、それだけだ。距離があった為、爆発のダメージはない。


……二発目は撃たせない。


レジナルドの優先度が上がる。


左手の拘束はまだ離れていない。

だからこそ、これを利用する。


握ることで左手に全力で力を入れる。

こちらに巻きつく髪を更に右手で掴み、


「ホントにごめんよー!」


「え?わ、わわ、わっ!?」


ジャイアントスイングの要領で(向きは真逆だが)、カレンごと身体を回転させる。

突然のことにカレンは仰天し、為すがまま振り回される。


2回高速回転、そして遠心力をつけ。

まず狙うはレジナルド。


「生徒との友情(強制)カカトキック!」


「それ絶対友情じゃな、ぶべらっ!!」


「ああっ!?ごめんねレジナルド!」


遠心力に耐えられず伸ばされた足先がレジナルドの横っ腹を打つ。

レジナルドの抗議とドップラー効果が効いたカレンの謝罪が聞こえるが、今は気にしてはいけない。


更に向こう、開始から動かないココとアビゲイルの2人。

しかし、2人の前には魔法陣が出現し、魔力が蠢いてる。


間も無く魔法が放たれるが、今から向かっても間に合わない。


だから、


────生徒の力を借りよう(ゲス顔)


イメージはジャイアントスイングからハンマー投げへ変更。


遠心力は十分溜まった。


「生徒との友情(強制)Ver.2!」


「わ、わわ、あーーーーー!」


投げる瞬間、手を離すと同時に腕の力を抜く。

直前まで力を入れていた腕は弛緩されることで細まり。


遠心力足す拘束の緩みにより、カレンは天高く飛ばされる。


向かう先は、魔法発動手前の2人。


「「「………え」」」


直後、キャアアアと3人分の悲鳴が聞こえる。

詠唱を中断されたことにより、狙い通り魔法は不発に終わる。


……一応、コンプライアンス的に、擁護のため言っとくが、投げる前にカレンには衝撃緩和の魔法をかけてあるので、3人とも骨折どころか擦り傷すら無いので安心して欲しい。


まあ、それでも女子生徒髪掴んで、武器みたいにぶん回して、挙句の果てに他の女子生徒に向かってぶん投げた訳ですけど。


……字面に起こしてみると、スゲー鬼畜野郎だな。


日本ならソッコー体罰認定からのタイーホ案件だ。


と、良心の呵責に苛まれていた誠一だったが、不意に一歩横へズレる。


すると、先程までいた位置に剣が振り下ろされた。

蹴りから回復したジーンが、足音を殺し接近していたのだった。


「……チッ!」


最後の1人となったのに、まだ彼は勝とうと行動している。

抜け目なく、勝利への欲求が凄まじい。


だからこそ、こちらも手を抜くわけにはいかない。


振り下ろし直後で隙が生じたジーン目掛けて蹴りを放つ。


「………あれ?」


蹴りを外した。


いや、外されたのだ。


それに気づいたのは、自分が後ろへ倒れ始めていると自覚してからだ。


片足とはいえ地に足が着いているのに、身体に妙な、しかし経験のある浮遊感が働き、後ろへ倒れていく。

蹴り足を戻し、転ばぬよう両足に力を込めるが、


……止まらない!


足の力が抜けた訳でもない。

地面が沈む訳でも、無くなった訳でもない。


「……足が、付かない!?」


足が地面に着くというのに、地面に付くことができない。

異様な状態に戸惑い、誠一の頭上、影が射した。


ジーンだ。彼が倒れこむ自分の真上へと飛び込み、腹部目掛けて一撃を入れようとしていた。


現在、誠一は宙に浮いているような感覚、いや、状態であり、身体を動かすことができない。


「────オラアアッ!」


突き出された剣。


しかし、剣は誠一ではなく地面を突いた。


剣が繰り出される直前、誠一は足を地面に向かって出していた。


何故かは分からないが、今、自分は宙に浮いている。

だから、それは足を着く為ではなく、蹴るように足を踏み込む。


不可思議な状態。

だとしても、それが掛かっているのは自分であり、大地が不動なのは変わらない。


宙に浮いた状態だからこそ、踏み込んだ衝撃を反動とし、弧を描いて足を上げる。


バク転だ。


ケツをスレスレで模造刀が掠るのを感じる。


「バク転!からの!」


「…………!」


回転の途中、両足でジーンの頭を挟む。

唸れ物理の力『遠心力』、踏ん張れ俺の6パック『腹筋力』。

男なら誰しもが一度はやってみたい技の1つ。


挟んだ頭を、そのまま回転に任せ、


「フランケンシュタイナー!」


「グボァ?!」


ジーンの頭部は地面へと突き刺さり、動かなくなる。


コボルトがタタタタタとこちらに近寄り、1、2、3と床を叩くが、ジーンに反応はない。


誠一は立ち上がり、右手の親指、人差し指、小指を立てて、


「ウィイイイイイイ!」


「「「おおおおおおおお!」」」


右手を上げ、勝鬨をあげた。

すると、つられるように観戦していた男子生徒も声をあげる。


うむ。プロレスに国境は無い。

というかノリいいなFクラス。


と、念願の夢であったフランケンシュタイナー決めてテンション上がってた誠一であったが、


「…………(チーン)」


「あ…………」


ジーンが白目剥いて、よだれ垂らして気絶をしていた。


やり過ぎた。




「…………ッイッゥ、あ?」


ジーンは頭に走る、鈍い痛みにより起きた。


辺りを見渡すと、ここは修練場ではなく見慣れた2ーFの教室だ。

そして、そこではクラスの皆がお皿を片手に何か食べていた。


どうやら意識を失っていたらしく、いつの間にか宴会を始めていたらしい。


というか、こちらガン放置で、全員飯にバクついてるんだが。

長い付き合いだろ。少しは心配しろよ、お前ら。


……それにしてもいい匂いだな。


今までジーンが嗅いだことない匂いだ。

非常に食欲をそそり、お腹がグゥゥと鳴る。

自分も食べに行こうとして、立ち上がり、


「やっと目が覚めたのね。アンタ、1時間くらい寝てたわよ」


「……クズノハか」


見れば狐の獣人であるココ・クズノハが側に立っていた。


「あーあ、結局銀貨を貰い損ねたわね」


「そうだな……」


ジーンが抱くのは銀貨が手に入らなかった残念さ、ではなく、負けたことによる悔しさ。


負けたな、と先程までの戦闘を振り返る。

完敗だ。


一撃も入れることが出来なかった。

そして恐らくだが、実力を出していない。

ジーンにとってその事実が重く、心の中に居座る。


……こんなんじゃ、いつまで経っても()()()に追いつけないぞ……。


ジーンはココから見ても分かるほどに落ち込む。

その姿を見て、ココは面倒くさそうにため息を吐く。


「……気にすることないわよ。私たちが弱いってのもあったけど、あれは先生が強いってのもあったわ」


「……なんだ、慰めてくれんのか?」


「ただの事実よ、馬鹿。私達の不出来は今に始まったことでもないでしょ」


一瞬虚を突かれたような顔をし、そして自虐とも取れるココの悪態に思わず苦笑。


「はは。そうだな。…………よし、腹も減ったし飯食うか」


「そ。なら、早くした方が良いわよ。……もう遅いでしょうけど(むしゃむしゃ)」


クズノハの最後の言葉は小さくジーンには聞こえなかった。


ジーンは料理が置いてあるであろう皆が囲む机の方まで行き、


「さーて、何があんのかな────あれ?」


しかし、既に料理は無かった。


「お。やっとお目覚めか、ジン(もぐもぐ)」


「凄い技食らってたな、お前 (もがもが)」


「カッコよかったよなー。あの、プロレス?っての(もきゅもきゅ)」


立ち尽くすジーンに声をかけるアンディー、レジナルド、セシル。

話しながらも食べる手は止めない。


3人とも皿に取った料理がこんもりと山盛りに載せてある。


そして、3人だけではない。

見れば、周り全員、自分の分の料理を確保している。


「ん、どうしたジン?(フォークを止めずに)」


「いや、料理が全く無いんだが」


「しょうがない。非常に担任が用意してくれた飯が美味くてな。争奪戦になったわけだ。いや、ホントに旨い(唐揚げを口に頬張りながら)」


「うんまうんま!海老のサクサクしたやつウマー。なんかサクサクするピザ、マジうんまー!(海老フライとクリスピー生地のピザを交互に食べながら)」


「…………なあ、ちょっとく」


「「「…………(プイッ、もぐもぐ)」」」


言いかけてる途中で、そっぽ向きやがったコイツ共は。


俺は他のクラスメイトを見ようとするが、


「「「………(ばくばく)」」」


こ、コイツら、皆して壁の方向いて目線合わせないつもりだ!


「おいー!そんなに薄ペラい関係だったんか俺らの仲は!」


「落ち着けって、冗談だジン。俺らの分けてやるって」


空腹と、クラスメイトの塩対応に泣きそうになるが、アンディーがこちらを宥めにやってくる。


続けてレジナルドとセシルも声をかける。


「そうだな。なんたって今回のMVPだしな」


「しょうがないなあ」


「お、お前ら……」


そう言って各々の皿から一品ずつジーンに渡していく。


……やはり、持つべきものは友だな。



・添えてあったパセリとレモン

・唐揚げの下にへばりついてたレタス

・海老フライの尻尾の部分



「「「いらねえから、やる」」」


「よし戦争だな。戦争したいんだな!」


この3人、生かしちゃおけねえ……。


「ジ、ジーン落ち着いて!」


「まったくもう。何をじゃれてるの貴方達は」


「カレンに、アビゲイル。いや、止めてくれるな!」


2人に止められるが、ここで許してはいけない。


男にはやらなくちゃならない時がある。


「ちゃんと僕とアビーが、ジーンの分も取っておいたから。ね、だから、落ち着いて」


「貴方の事、忘れるわけないでしょ」


「………お、おおぉ!」


ジーンは2人の背後から後光が射していると錯覚した。


神はいた!


「ありがとう!2人は正しく俺にとっての天使と聖母だよホント!」


カレンとアビゲイルの手を取り、拝み倒す。


「て、天使って!そんなに感謝しなくていいよ。友達なら当然だし」


「そうね。……ところで、なんで私、聖母?見た目?見た目年増して見えるから?ねえ?」


「よし!2人に感謝しながら、飯を頂くぞー!」


カレン、マジ天使。

あと、アビゲイルが聖"母"の言葉に引っかかりを覚え追求してきたが、話をそらす。

深く触れないのが吉だ。


俺は2人が用意してくれたであろう料理を取りに行き、


「あれ……?なんで無いの?」


カレンが確認すると、そこには空の皿だけがあった。


「ほ、ホントだよ!アビーと一緒にちゃんとここにピザと唐揚げと海老フライを置いてて……」


「……なあ、カレン。名前からピザの後のがどんな料理か想像出来ないんだが────もしかして、あの3人が食ってるのがそれか?」


ジーンが3人、アンディー達の方をクイッと顎で指す。


「え?そ、そうだけど。それがどうした……の」


カレンは言ってる途中で気づいたようで、言葉が尻すぼみになる。


「おい、お前ら。今の内に言えば殺すだけで済むぞ」


「話しても手加減しないんだ!」


ジーンが握り拳を握りながら、問い詰める。


「おいおい、冤罪だぞジン。あ、おいピザよこせ。お前はジンのからピザとり過ぎなんだよ」


「そうだ、証拠でもあるのか?あ、コラ勝手に取るな!唐揚げ、ジーンから取った唐揚げと交換、1:2のレートな」


「そうだそうだ!因みに犯人コイツら」


「「テメェもだろ!?」」


「か、隠す気ゼロ!証拠丸出しだよ、この3人!」


ついでに悪気もゼロである。


故に酌量の余地なしと判断。


「テメェらの腹かっさばいて、食べたもん出させてやるわああ!!」


「食事中に暴れるな」


「おぶッ……!」


アンを中等部に迎えに行き、戻ってきた誠一がズビシとジーンの頭にチョップ入れて中断された。

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