13、友情とはナンダッケ?
……行った!
誠一の左腕を拘束しているカレンはそう確信した。
レジナルドの箱、魔法速射装置(何やら魔道具らしいが詳しい事は難しくて分からなかった)はファイヤーボールを誠一に向かって放つ。
炎は誠一目掛けて一直線へと迫る。
もし、模造刀で魔法を防いでも、盾ならまだしも、今あるのは剣だ。
ファイヤーボール自体防げたとしても、余波で少なからず爆発を食らう。
……どうです!
しかし、カレンは誠一の行動を見た。
自由な方。
剣を手にした右手を動かした。
剣で防いでも無駄だというのは誠一も分かるはず。
なのに、何故?
そして誠一は剣を振り、しかし、カレンの想像を裏切る。
模造刀を投げた。
それもレジナルドに向かって。
当然、投げられた模造刀は誠一へと向かっていたファイヤーボールと当たり、
「………!」
誠一とレジナルドの中間、誠一に届く前に、小さな爆発が起きた。
◆
……あんな道具持ってんのかよ!
内心ヒヤヒヤヒヤしていた誠一であった。
ファイヤボールの余波により、髪が靡く。
だが、それだけだ。距離があった為、爆発のダメージはない。
……二発目は撃たせない。
レジナルドの優先度が上がる。
左手の拘束はまだ離れていない。
だからこそ、これを利用する。
握ることで左手に全力で力を入れる。
こちらに巻きつく髪を更に右手で掴み、
「ホントにごめんよー!」
「え?わ、わわ、わっ!?」
ジャイアントスイングの要領で(向きは真逆だが)、カレンごと身体を回転させる。
突然のことにカレンは仰天し、為すがまま振り回される。
2回高速回転、そして遠心力をつけ。
まず狙うはレジナルド。
「生徒との友情(強制)カカトキック!」
「それ絶対友情じゃな、ぶべらっ!!」
「ああっ!?ごめんねレジナルド!」
遠心力に耐えられず伸ばされた足先がレジナルドの横っ腹を打つ。
レジナルドの抗議とドップラー効果が効いたカレンの謝罪が聞こえるが、今は気にしてはいけない。
更に向こう、開始から動かないココとアビゲイルの2人。
しかし、2人の前には魔法陣が出現し、魔力が蠢いてる。
間も無く魔法が放たれるが、今から向かっても間に合わない。
だから、
────生徒の力を借りよう(ゲス顔)
イメージはジャイアントスイングからハンマー投げへ変更。
遠心力は十分溜まった。
「生徒との友情(強制)Ver.2!」
「わ、わわ、あーーーーー!」
投げる瞬間、手を離すと同時に腕の力を抜く。
直前まで力を入れていた腕は弛緩されることで細まり。
遠心力足す拘束の緩みにより、カレンは天高く飛ばされる。
向かう先は、魔法発動手前の2人。
「「「………え」」」
直後、キャアアアと3人分の悲鳴が聞こえる。
詠唱を中断されたことにより、狙い通り魔法は不発に終わる。
……一応、コンプライアンス的に、擁護のため言っとくが、投げる前にカレンには衝撃緩和の魔法をかけてあるので、3人とも骨折どころか擦り傷すら無いので安心して欲しい。
まあ、それでも女子生徒髪掴んで、武器みたいにぶん回して、挙句の果てに他の女子生徒に向かってぶん投げた訳ですけど。
……字面に起こしてみると、スゲー鬼畜野郎だな。
日本ならソッコー体罰認定からのタイーホ案件だ。
と、良心の呵責に苛まれていた誠一だったが、不意に一歩横へズレる。
すると、先程までいた位置に剣が振り下ろされた。
蹴りから回復したジーンが、足音を殺し接近していたのだった。
「……チッ!」
最後の1人となったのに、まだ彼は勝とうと行動している。
抜け目なく、勝利への欲求が凄まじい。
だからこそ、こちらも手を抜くわけにはいかない。
振り下ろし直後で隙が生じたジーン目掛けて蹴りを放つ。
「………あれ?」
蹴りを外した。
いや、外されたのだ。
それに気づいたのは、自分が後ろへ倒れ始めていると自覚してからだ。
片足とはいえ地に足が着いているのに、身体に妙な、しかし経験のある浮遊感が働き、後ろへ倒れていく。
蹴り足を戻し、転ばぬよう両足に力を込めるが、
……止まらない!
足の力が抜けた訳でもない。
地面が沈む訳でも、無くなった訳でもない。
「……足が、付かない!?」
足が地面に着くというのに、地面に付くことができない。
異様な状態に戸惑い、誠一の頭上、影が射した。
ジーンだ。彼が倒れこむ自分の真上へと飛び込み、腹部目掛けて一撃を入れようとしていた。
現在、誠一は宙に浮いているような感覚、いや、状態であり、身体を動かすことができない。
「────オラアアッ!」
突き出された剣。
しかし、剣は誠一ではなく地面を突いた。
剣が繰り出される直前、誠一は足を地面に向かって出していた。
何故かは分からないが、今、自分は宙に浮いている。
だから、それは足を着く為ではなく、蹴るように足を踏み込む。
不可思議な状態。
だとしても、それが掛かっているのは自分であり、大地が不動なのは変わらない。
宙に浮いた状態だからこそ、踏み込んだ衝撃を反動とし、弧を描いて足を上げる。
バク転だ。
ケツをスレスレで模造刀が掠るのを感じる。
「バク転!からの!」
「…………!」
回転の途中、両足でジーンの頭を挟む。
唸れ物理の力『遠心力』、踏ん張れ俺の6パック『腹筋力』。
男なら誰しもが一度はやってみたい技の1つ。
挟んだ頭を、そのまま回転に任せ、
「フランケンシュタイナー!」
「グボァ?!」
ジーンの頭部は地面へと突き刺さり、動かなくなる。
コボルトがタタタタタとこちらに近寄り、1、2、3と床を叩くが、ジーンに反応はない。
誠一は立ち上がり、右手の親指、人差し指、小指を立てて、
「ウィイイイイイイ!」
「「「おおおおおおおお!」」」
右手を上げ、勝鬨をあげた。
すると、つられるように観戦していた男子生徒も声をあげる。
うむ。プロレスに国境は無い。
というかノリいいなFクラス。
と、念願の夢であったフランケンシュタイナー決めてテンション上がってた誠一であったが、
「…………(チーン)」
「あ…………」
ジーンが白目剥いて、よだれ垂らして気絶をしていた。
やり過ぎた。
◆
「…………ッイッゥ、あ?」
ジーンは頭に走る、鈍い痛みにより起きた。
辺りを見渡すと、ここは修練場ではなく見慣れた2ーFの教室だ。
そして、そこではクラスの皆がお皿を片手に何か食べていた。
どうやら意識を失っていたらしく、いつの間にか宴会を始めていたらしい。
というか、こちらガン放置で、全員飯にバクついてるんだが。
長い付き合いだろ。少しは心配しろよ、お前ら。
……それにしてもいい匂いだな。
今までジーンが嗅いだことない匂いだ。
非常に食欲をそそり、お腹がグゥゥと鳴る。
自分も食べに行こうとして、立ち上がり、
「やっと目が覚めたのね。アンタ、1時間くらい寝てたわよ」
「……クズノハか」
見れば狐の獣人であるココ・クズノハが側に立っていた。
「あーあ、結局銀貨を貰い損ねたわね」
「そうだな……」
ジーンが抱くのは銀貨が手に入らなかった残念さ、ではなく、負けたことによる悔しさ。
負けたな、と先程までの戦闘を振り返る。
完敗だ。
一撃も入れることが出来なかった。
そして恐らくだが、実力を出していない。
ジーンにとってその事実が重く、心の中に居座る。
……こんなんじゃ、いつまで経ってもアイツに追いつけないぞ……。
ジーンはココから見ても分かるほどに落ち込む。
その姿を見て、ココは面倒くさそうにため息を吐く。
「……気にすることないわよ。私たちが弱いってのもあったけど、あれは先生が強いってのもあったわ」
「……なんだ、慰めてくれんのか?」
「ただの事実よ、馬鹿。私達の不出来は今に始まったことでもないでしょ」
一瞬虚を突かれたような顔をし、そして自虐とも取れるココの悪態に思わず苦笑。
「はは。そうだな。…………よし、腹も減ったし飯食うか」
「そ。なら、早くした方が良いわよ。……もう遅いでしょうけど(むしゃむしゃ)」
クズノハの最後の言葉は小さくジーンには聞こえなかった。
ジーンは料理が置いてあるであろう皆が囲む机の方まで行き、
「さーて、何があんのかな────あれ?」
しかし、既に料理は無かった。
「お。やっとお目覚めか、ジン(もぐもぐ)」
「凄い技食らってたな、お前 (もがもが)」
「カッコよかったよなー。あの、プロレス?っての(もきゅもきゅ)」
立ち尽くすジーンに声をかけるアンディー、レジナルド、セシル。
話しながらも食べる手は止めない。
3人とも皿に取った料理がこんもりと山盛りに載せてある。
そして、3人だけではない。
見れば、周り全員、自分の分の料理を確保している。
「ん、どうしたジン?(フォークを止めずに)」
「いや、料理が全く無いんだが」
「しょうがない。非常に担任が用意してくれた飯が美味くてな。争奪戦になったわけだ。いや、ホントに旨い(唐揚げを口に頬張りながら)」
「うんまうんま!海老のサクサクしたやつウマー。なんかサクサクするピザ、マジうんまー!(海老フライとクリスピー生地のピザを交互に食べながら)」
「…………なあ、ちょっとく」
「「「…………(プイッ、もぐもぐ)」」」
言いかけてる途中で、そっぽ向きやがったコイツ共は。
俺は他のクラスメイトを見ようとするが、
「「「………(ばくばく)」」」
こ、コイツら、皆して壁の方向いて目線合わせないつもりだ!
「おいー!そんなに薄ペラい関係だったんか俺らの仲は!」
「落ち着けって、冗談だジン。俺らの分けてやるって」
空腹と、クラスメイトの塩対応に泣きそうになるが、アンディーがこちらを宥めにやってくる。
続けてレジナルドとセシルも声をかける。
「そうだな。なんたって今回のMVPだしな」
「しょうがないなあ」
「お、お前ら……」
そう言って各々の皿から一品ずつジーンに渡していく。
……やはり、持つべきものは友だな。
・添えてあったパセリとレモン
・唐揚げの下にへばりついてたレタス
・海老フライの尻尾の部分
「「「いらねえから、やる」」」
「よし戦争だな。戦争したいんだな!」
この3人、生かしちゃおけねえ……。
「ジ、ジーン落ち着いて!」
「まったくもう。何をじゃれてるの貴方達は」
「カレンに、アビゲイル。いや、止めてくれるな!」
2人に止められるが、ここで許してはいけない。
男にはやらなくちゃならない時がある。
「ちゃんと僕とアビーが、ジーンの分も取っておいたから。ね、だから、落ち着いて」
「貴方の事、忘れるわけないでしょ」
「………お、おおぉ!」
ジーンは2人の背後から後光が射していると錯覚した。
神はいた!
「ありがとう!2人は正しく俺にとっての天使と聖母だよホント!」
カレンとアビゲイルの手を取り、拝み倒す。
「て、天使って!そんなに感謝しなくていいよ。友達なら当然だし」
「そうね。……ところで、なんで私、聖母?見た目?見た目年増して見えるから?ねえ?」
「よし!2人に感謝しながら、飯を頂くぞー!」
カレン、マジ天使。
あと、アビゲイルが聖"母"の言葉に引っかかりを覚え追求してきたが、話をそらす。
深く触れないのが吉だ。
俺は2人が用意してくれたであろう料理を取りに行き、
「あれ……?なんで無いの?」
カレンが確認すると、そこには空の皿だけがあった。
「ほ、ホントだよ!アビーと一緒にちゃんとここにピザと唐揚げと海老フライを置いてて……」
「……なあ、カレン。名前からピザの後のがどんな料理か想像出来ないんだが────もしかして、あの3人が食ってるのがそれか?」
ジーンが3人、アンディー達の方をクイッと顎で指す。
「え?そ、そうだけど。それがどうした……の」
カレンは言ってる途中で気づいたようで、言葉が尻すぼみになる。
「おい、お前ら。今の内に言えば殺すだけで済むぞ」
「話しても手加減しないんだ!」
ジーンが握り拳を握りながら、問い詰める。
「おいおい、冤罪だぞジン。あ、おいピザよこせ。お前はジンのからピザとり過ぎなんだよ」
「そうだ、証拠でもあるのか?あ、コラ勝手に取るな!唐揚げ、ジーンから取った唐揚げと交換、1:2のレートな」
「そうだそうだ!因みに犯人コイツら」
「「テメェもだろ!?」」
「か、隠す気ゼロ!証拠丸出しだよ、この3人!」
ついでに悪気もゼロである。
故に酌量の余地なしと判断。
「テメェらの腹かっさばいて、食べたもん出させてやるわああ!!」
「食事中に暴れるな」
「おぶッ……!」
アンを中等部に迎えに行き、戻ってきた誠一がズビシとジーンの頭にチョップ入れて中断された。