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12、原石達

「そいっ、と」


「……あうっ!」


最後に残った女子生徒にチョップを入れて、4回目の戦闘を終了した。


あの後も生徒達に一撃も入れさせず着々と勝利を重ねていった。


生徒達の戦闘パターンは大体、物理と魔法が8:2くらいである。

やはり聞いてた通り、魔法が苦手なのか。使ったとしても身体強化魔法か初級魔法のファイヤーボールなど。

魔法を発動させようとすれば、コボルト達の妨害によって止められていた。


「さて、次はと……」


既に4チームと戦い、残すは1チーム。


最後のチームの面子を誠一は確認する。


〈アンディー・ランドルフ〉

〈セシル・ウッド〉

〈レジナルド・ライト〉

〈カレン・ウォーカー〉

〈ココ・クズノハ〉

〈アビゲイル・クルス〉


そして、〈ジーン・カーター〉


彼等は真っ先にチームを組み、そして順番は最後を選んだ。

一見、今までのチームと変わらぬように見えるが、


……匂うな。


空気ではない。気配だ。

何かを企んでいる、そういった気配。


……ベルナンさんが良く発してた気配だよな。


ベルナンのは悟られないようこの気配希薄であったが、今までの経験から誠一は感じ取る。


それに、戦闘の順番決めの際、ジャンケンには参加せず、1番最後を希望していた。


誠一達の戦い方を観察する為か、それとも偶然か。


「これは油断出来ないかもな」


誰にも聞こえぬよう誠一は呟く。

その顔には嬉しそうに笑みがあった。



「それじゃ、始め!」


審判役の生徒が合図をすると共に、動きがあった。


「「わふっ!?」」


右にレジナルドが、左にカレンが走り、ぶつかるようにそれぞれコボルト達と相対する。

それを後ろからココとアビゲイルが後方から支援。


コボルト達が突撃まがいの接近にたじろぐ。

その隙に、


「やるぞアンディー!セシル!」


「「おお!」」


ジーンを筆頭にアンディーとセシルの3人が模造刀片手に誠一目掛けて駆けてくる。


アンディーとセシルは身体強化の魔法を使っているのかこちらへと素早い動きで移動し、ジーンはその2人の後を追う形である。


……急戦仕掛けて、頭だけ集中攻撃か。


しかし、最初の獣人の生徒と比べると遅い。


近距離からの不意打ちとしては効くが。

3人と誠一の距離は少し遠く、相手に考える時間を与える。


慌てずに対処されてしまうのであれば、この策は下策だ。


「水よ、敵を穿て─────」


接近する3人に対処するため、初級である水魔法【ウォーターボール】を発動しようとし、


「シャアッ!」


────詠唱を遮るように、先頭を走っていたジーン・カーターが模造刀を投擲した。


「………!」


それは野球の外野選手が2、3歩ステップを踏んで投げるように、模造刀を逆手に持ち替え、全身をしならせて誠一目掛けて投擲。


完全に虚を突いた一手。

しかも、


……上手い。


タイミングもだが、投擲がである。

模造刀は回転するでも、的外れな方に行くわけでもない。


直線的にこちらの心臓目掛けて。

剣先がぶれることなく真っ直ぐ誠一へと迫っている。


誠一は魔法の照準を3人から投擲された模造刀へとずらし、


「ウォーターボール」


誠一の手に魔法によって水球が形成され、放たれた水球は模造刀をなんなく撃ち落とされる。


だが、


視線を前に戻す。

アンディーとセシルの接近を許してしまった。


2人はセシルが前、アンディーが後ろとなり、縦に並びこちらへと向かっている。


……1人を捨て身にした玉砕特攻か。


「初お姫様抱っこの仇ー!」


地味に根に持ってたのかい。

気の抜ける掛け声と共に突撃してきた。


セシルが上段からの袈裟斬りを仕掛け、セシルに隠れるように後ろのアンディーは脇をしめ、刺突の構え。


誠一は現状から落ち着いて判断する。


……余裕を持って対応できるな。


セシルの剣は弱く遅く、軸もなっていない。


誠一は考える。

セシルの剣を左手で受け取り、捻ることでセシルをフラつかせる。

そのまま腹に前蹴りを食らわすことで、後ろのアンディーを巻き込ませ倒す。


行動を考え、実行した。


セシルの剣を軽々左手で受け止め、捻ることで、


「………ん?」


手応えがなかった。

スカッと、誠一の予想以上に抵抗がないことに違和感を覚える。


左手を見る。

模造刀を掴んでいる。


だが、その先、(つか)の部分。


……剣しかない?


不可解なことに思わず呆ける。

剣は誠一しか掴んでいない。

なら、本来の模造刀の所有者は?


前を見る。

セシルを注視してしまう。


模造刀を振るい、だが、そのまま手放したセシルは、


「光よ、道を照らせ。ライトニング!」


誠一の戸惑いのなか、光魔法を唱え、光が生まれる。


「──────!」


誠一はそれを真正面からモロに食らった。



アンディーは誠一がセシルの光魔法を真正面から受けたのを見た。


これで数秒は視界を奪ったことになる。

前方、魔法を食らわせたセシルがガッツポーズを取っている。


「ヨッシャ!───ぶべっ!?」


そして、すぐに誠一の横蹴りを食らって飛んでいく。


……やっぱアホだなアイツ。


目を潰せても、声出したら場所がバレる。


まあ、あいつも自爆で目潰し食らってるからなあ。

結局のところ、避けられない。

だからこそ、悪態をつくのは後に控える。


蹴りを終えた相手側に動きがあった。


「……ハーーー」


魔力を発し、鼻歌でも歌うように小さく声を出し続ける。

アンディーは誠一が魔法の詠唱をしようとしていると考えた。


……やらせるか!


好機は前に。


なればこそ。

地を踏みしめ、右腕を限界まで伸ばし、刺突を繰り出す。


しかし、示した結果は。


「……な!?」


刺突は左脇腹スレスレで躱され、アンディーの突き出された手首を誠一の左手が掴んでいた。



馬鹿やった。


アンディーの突きを脇に挟むことで防ぎつつ、誠一はようやく回復した視野を慣らしつつ反省する。


絵に描いたようにまともに引っ掛かるなんて。

ベルナン辺りがいたら指さしてゲラゲラと笑うのだろう。

いや、笑うな絶対。「ぶふふ、あれぇ?あんな見え見えなの食らっちゃうのかセ〜イチ。ぶっふぉ、ウケるんじゃけど」とか言って数日はいじってくる。

……今思い出してもイラつくな、やっぱ。


しかし、そのベルナンのお陰で目が見えなくとも攻撃を防ぐことが出来たのだから、苛立ちが燻る。


……あの人の能力突破するまで、色々と試行錯誤したからなぁ……


今回行ったのも、その経験の過程で生み出した技だ。

聴覚を強化させ、声の反響からどこにいるか探知する荒技。

経験が今回モノを言った。


前の4チームで、無自覚に侮っていたのだろう。

反省すると共に行動に移す。


誠一はアンディの手首を掴んだまま体を左回転させ、アンディーを引き寄せる。


距離は縮まり、そして回転の勢いを乗せた誠一の右肘がアンディーの顎下を捉える。

だが、"当てる"のではなく"(かす)らせる"。


衝撃は脳を揺らし、アンディーは立つこともままならなくなり、その場に倒れる。


残すはあと5人。

向こうは既に2人の戦力を失っている。


だが、それはこちらも同じ。


「「……ゎふ」」


申し訳なさそうに鳴く2匹。

見ればコボルトも武器を奪われリタイアさせられていた。


さてこれからどう動こうものかと思ってると、こちらに向かってくる姿がある。


先程模擬刀を投擲してきたジーンだ。


彼は移動しながら、撃ち落とされた自分の剣を取るとそのままこちらへ切りかかってきた。


こちらもアンディーが落とした模造刀を握り対応する。

ここはあえてジーンが繰り出す攻撃を受ける。


速くはない、だが、数度剣筋を見て、


……戦闘慣れしている。


誠一はそう確信した。

腰を低く落とし、上から下へ振るのではなく、下から上への攻撃。


上段からよりも下段からの攻撃の方が防ぎ難い上に避け難い。


しかも、剣が狙ってくる部位が手首や、足首、ふくらはぎなど、いやらしい。

相手の嫌がる所を知っている、堅実な戦い方である。


しかも、後ろも動き出している。


ジーンの背後の方で魔力が動くのを感知。


「──────」

「──────」


見れば後衛組のココとアビゲイルが詠唱し、魔法の用意をしている。時間がかかっていることを見るに先程の初級魔法ではなく中級魔法でも放とうとしているのか。


そして、コボルトを倒したことで自由になったレジナルドとカレンの2人がこちらに向かっている。


「そろそろ攻めないと、まずいな」


わざと足首に隙を生ませ、ジーンの攻撃を誘う。

そして、誘惑にかかった剣を踏みつけ、地面へと固定。


「ふっ!」


「グウゥッ!?」


剣を踏みつけた足を軸に回し蹴りをし、蹴りを受けたジーンは後ろへと飛んだ。

ダメージはあるが、まだ動けるようだ。


剣を踏まれた瞬間、すぐに手放したからこそ衝撃を軽減出来たのだろう。


誠一はジーンに背を向け走り、レジナルドとカレンの2人へ向かう。


2人は模造刀は持っておらず、両者共に丸腰である。


……丸腰でコボルト達を倒した?


どうやって、と疑問を抱きつつも、しかし、答えが出るより先に、敵が来た。


先にこちらに届くのはカレン。


得物無しの女子相手に模造刀での攻撃は、流石に良心のハードル高い。

模造刀ではなく、左手からのストレートを放ち、


攻撃を止められた。


誠一は止められた瞬間、何が起きたのかが分からなかった。


相手、カレンは両手を使ってない。

足も同様だ。

横のレジナルドが行った訳でもない。


だが、眼前、突如黒い壁が現れ、誠一の左手を遮った。


疑問は一瞬。

だが、壁を観察することで、すぐに理解できた。


壁と思ったそれはよくよく見れば一本一本細い糸のようなものの集合であり、全てがカレンの方から伸びている。


つまり、


「────髪か!」


カレンは髪を操り、こちらの攻撃を防いでいた。



願掛けみたいなもの。


案内途中に、確かそう言っていたことを誠一は思い出す。


……まさか、魔法の媒体とは。


髪を操る魔法。

この学園に来る前に色々と魔法については勉強していた誠一。


だが、今目の前にある魔法は知るのも観るのも初めてである。


しかも、ただ操るだけでは無い。

髪だというのに、鉄でも殴ったような感触。

察するに硬度も変えられるのだろう。


髪の盾に気を取られていた誠一。

そして、横にて動くものを確認。


レジナルドだ。

レジナルドはこちらから剣が届かない離れた距離を保ち、右手を向けた。


何を?と思った所で相手が無手でなかった事を知る。

その右手には、何か小さな箱が、黒板消し程のサイズの箱が握られていた。


そして、こちらに向けた面。

その真ん中に穴があるのを誠一は視認し、


……ヤバい!


瞬時に浮かんだイメージは銃口。

脳裏に不安な予感が走る。


魔法を放つには一歩遅い。

誠一は瞬時に後退しようとするが、


「行かせません!」


「…………な!?」


邪魔された。

理由は己の左手だ。


盾の一部、髪の毛がこちらの左手に巻きつき、動きを拘束している。


そして、レジナルドの箱から詠唱も無しに炎の玉が現れ、


「──────!」


来た。


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