11、とりあえず一発いっとく?
「この度、このクラスの担任になりました誠一・沢辺です。どうぞよろしくお願いします」
Fクラス総勢35名が思った。
この教師只者じゃない、と。
………いや、まあ、オーラを感じ取ったとかそういうことではなく。
天井を見る。
そこにはセシルが天井にプラーンと刺さっていた。
窓から落ちたと思ったらすぐに戻って勢い余って天井に刺さりそのまんまである。
だというのに、この教師は教室の扉を開け、教壇に立ち、話を始める。
この光景を前に平然とノーリアクション。
それどころかそのまま自己紹介を始めたではないか。
故に、只者ではない。
◆
「まだ至らない点もあるけど、よろしく頼む」
生徒に自己紹介をしながら、全員の顔を見渡す。
……事前に聞いてた通り、獣人が多いな。
見た限り1/3が獣人、あとは只人。男女比は4:1と、男子多めだ。
先日、女王のルルリエ様に言われたクリアするべき課題を思い起こすが、未だ不安はある。
誠一はチラリと卓上に置かれた紙を見る。
生徒たちの顔写真と名前が書かれた名簿だ。
そして、成績内容もそこには載っていた。
最高評価は10で、最低が1。
そして、見た限りでは、
……平均して3くらいか。
正直に言って低く、ほぼほぼ1である。
これは才能による向き不向きもあるのだろうが、根底にはやる気の無さによるものであろう。
誠一はカレンに案内される前にコッソリとAクラスの教室を偵察していた。
椅子は革張りに、照明はシャンデリア。
貴族らしき生徒の横には世話係の従者が付き添うように側で立っていた
貴族の親などが教室改修の出資者でもあるとは聞いていたが、やり過ぎだろうというのが見た感想である。
学園側としても、ほぼほぼ出資者からの資金によりタダで学園施設がグレードアップするとなれば断る理由もない。
Aクラスから嘲られ、あちらの方が善い待遇。
一年毎に成績でクラス替えを行うようだが、Fクラスから滅多に上のクラスに上がれた者はいない。
……だから、この現状に慣れてしまったんだろうな。
こうも見せつけられれば、ヤル気の維持も難しいものだ。
では、FクラスはAクラスの生徒を超えることは不可能か?
─────いや、まだそうと決めるのは早い。
紙の上でだけ見れば、平均評価3と低い。
だが、現実をどうこうするのは成績表ではなく生身の人間だ。
ならば、早速実行に移すが吉。
「では、今から簡単なレクリエーションをしましょう」
◆
ココ・クズノハはFクラスの全員を代表して挙手をした。
「あのー、先生。質問いいでしょうか?」
「はい、クズノハさん」
ココの声に誠一は応答する。
レクリエーションをしよう。
そう言われ、誠一に連れられ、言われた通りココ達は準備し、その適した場所へ移動してきた
ちなみに天井に刺さっていたセシルは回収済みである。
「レクリエーションの流れでしたよね」
「お互いのことを知ることは必要だからね」
続けてココが質問する。
「何故、修練場に?」
「……?お互いを知るために必要だから。殴り合った方が早いじゃん」
(((ヤッパリこの教師ぶっ飛んでる)))
生徒の気持ちがこの瞬間1つになった。
生徒たちの引いた反応に、慌てて誠一は弁明を図る。
「え、殴り合わない?ほ、ほら、挨拶的な流れで」
「「「しないよ!!」」」
◆
あれ?と誠一は生徒達の反応に訝しむ。
……あんまり日常的に戦闘しないものなのか?
ここは先日、ミゲルなど3人と談合をした修練場だ。
このままスンナリと戦闘移行を想像していた誠一は生徒たちの反応に面食らう。
ベルナンさんとは呑みに行こうと騙され不意打ち夜襲かけられてから、朝まで飲んでたし。
レヌスからの口添えで変態どもの巣窟〈紳士淑女の会〉に付きまとわれ正当防衛で殴って、そのあとレヌスと殴り合って、その後夕飯食ったり。
ここ一年の日常シーンを思い出す。
……うん。戦うのは普通のことだよね。
まあ、仕返しに座った時に椅子が壊れる細工したり、ドアノブに静電気を起きやすくしたり、角に小指をぶつけやすくする魔法かけたり、衛兵やギルド役員に有る事無い事いって連行させていたが、2人に比べればかわいいものだ。
俺もやられたからノーカンである。無罪を主張する。
しかし、気をつけねば。
なるほど一般人はすぐに挨拶する要領で殴り合いには移行しないのか。
毒されていたことに自覚し、戒める。
「……そうか。それは失礼した。というわけで、戦闘しよう」
「せ、先生、何も前進してませんよ!」
……変人たちはここらで「よしやるか」と乗り気になるのだが。
これが一般の反応なのであろうが。
開幕、親方空から男の子が!状態スタートだったので、変人枠と定義していたのだが、どうやら正常なようだ。
誠一は考えを改めて、生徒の為に説明を付け足す。
「正直なこと言うと、君たちがどこまで戦えるのか個人的に知りたくてね。でも、書類だけじゃ分からないから、実際に戦おうと思ったわけさ」
「……なるほど、まあ、そういことなら。最初からそう言ってくれれば」
ココも含め生徒全員、どうやら少しは納得してくれたようだ。
「まあ、模擬戦後に少しはお菓子や飲み物、料理も用意してあるから、宴会前の腹ごなしでもと思ってくれていいよ」
誠一が食べ物があると言うと、男子陣から「おおっ!」声が上がり、目に見えて模擬戦に乗り気になっていくのが分かる。
女子の方もお菓子と聞いて、目がキラキラし始めた。
食べ盛りの時にはタダ飯は有難いものであると、誠一は己の経験から知っているので、それを見越して用意していた。
それに、これから授業に料理を教える事を鑑みて、少しでも興味を持ってくれたらと考えていたのもある。
「よっしゃ!それじゃサッサと終わらせてパーティだ!」
「「「おお!」」」
……飯目当てと包み隠さない言い方するな、あの子。
苦笑しながら名簿を見て、彼がアンディー・ランドルフという名前だと知る。
アンディーはそのまま誠一に話しかける。
「で、先生。模擬戦って言ってるけど、どんな感じにすんの?」
「ああ、形式的には生徒7のコッチ3で戦う形で行こうと思ってる」
「……?何人か俺らの中からそっちに行くのか?」
「いや、俺のメンバーは既にいるよ。おおーい」
誠一は観客席側へと声を送る。
生徒達もそちらを見るが誰もいない。
「「わふー!」」
しかし、応じる声があった。
小さい2つの影がこちら側へと跳んできた。
シュタタと誠一の前に着地し、そこで2つの影の正体を確認できた。
2人、いや、2匹は生徒達よりも小さく、ふりふりと可愛い尻尾を振っていた。
「このコボルト達が俺のチームだ」
「「わん!」」
最弱モンスターと名高いコボルトであった。
2匹はその小さな手に模造刀を掲げ、やるぞーと言わんばかりに吠える。
「今から皆にはこのコボルト2匹と俺1人を相手に戦ってもらう」
その2匹を見て、始めは戸惑っていた生徒達であったが、コボルトであると知ると気分が和らいでいくのが見て取れる。
「おいおい、先生。いくら俺たちがFクラスだからってナメすぎだろ。こんな貧弱なコボルトに負ける訳───」
「ワンッ!」
ズビジと模造刀がアンディーの股間に打ち付けられた。
アンディーしばし硬直後、パタリとその場に倒れる。
「アンディー!」
……フラグ回収早いなー。というか君たち、唐突に何してんの。
「ワフ」
「なになに?『ナメるな』だってよ」
一仕事終えたような満足気な顔で、そう言ってのけるコボルト。
「……だ、だからって、股間はや、やめて……んぉ」
悶絶しながらも抗議の声を出すアンディー。
その腰辺りをセシルが「ここか?ここがええのか?」と言いながらトントンと叩いている。
誰もセシルの行動に意識取られてないようなので、コレは通常運転なのだろう。
「まあ、油断するなということだ。この子達、特訓とかしててゴブリンぐらいだったら普通に倒せるしね」
まだまだ弱いが、確実に強くなっている。
コボルトがゴブリンに勝てると聞いて、本当かよ?という言葉があがる。
にわかに信じ難いのだろう。
ならば、百聞は一見にしかず。
誠一は持ってきた模造刀(能力で作って余ってたものだ)を提示する。
「やってみれば分かるだろうし。とりあえず各々で7人チーム作ってくれ。そっちの勝利条件は俺にダメージを与える一撃を入れること」
すっと手が上がる。
カレンだ。
「それは魔法、剣、どちらでもですか?」
「ああ、得意な方で来てくれ。そして、一番最初に俺に一撃を入れた人には賞品をあげよう」
そして、誠一は銀貨1枚を取り出し発破をかける。
「で、どのチームからやる?」
動きは顕著であった。
ワッと生徒達はチームを組み始めた。
◆
「準備はいいかー?」
「「「バッチコーイ!」」」
その後五分と経たずにそれぞれチーム編成は終わり、ジャンケンによる1番争奪戦へと移行した
見事ジャンケンを勝ち抜けた1番目のチームは、7人とも男子生徒、しかも、その内3人が獣人だ。
7人は既に銀貨を何に使うかと話している。
舐められているなぁと思いつつ、しかし苛立ちはない。
むしろ微笑ましくあるのは、傲慢であろうか。
……頑張らないとな。
誠一は審判役の子に目で合図を送る。
「それじゃあ行きまーす。よーい、始め!」
開始の合図。
それと共に7人が一斉にこちら目掛けて駆け抜ける。
2人はコボルトによって阻止されたが、残り5人はコボルトを置いて走る。
その内、3人、獣人の生徒達は既に誠一に手が届く距離まで近づいていた。
……速いな。
流石は獣人。身体能力の高さは随一だ。
「「「喰らえええ!」」」
左、右、正面。
模擬刀による三方向からの攻撃。
ただ、
「正直過ぎるな」
フェイントもなく全力で一刀を振っている。
力を入れれば入れるほど次の動きに移し難く、隙となりやすい。
動く。
右に向かって足を、肩を、腰を深く沈ませ、横振りの剣下を潜るように相手の懐に入る。
掴むのは腕と腰。
更に前へ、下へと踏み込み、体勢を崩させ、
「ふん!」
「うわっ!?」「ぶぅッ!」
相手を利用して投げ、剣を振り切って隙が生まれていた1人へと投げた生徒をぶつけさせる。
「……!せりゃっ!」
決まったと考えていたのだろう。
残った1人は突然2人やられたことに驚きながらも、次の攻撃へと移る。
すぐに追撃するのはいいけど、慌てては駄目だ。
狙いが甘く、故に、避けない。
一撃目とは違い腰が入っていなく、剣が軽い。
タイミングを合わせ、靴底で剣を打ち上げる。
スポンと、剣は生徒の手を離れ飛んでいく。
何が起きたのか分かってない生徒は、
「ふっ」
「────ッンォ!」
鳩尾に軽く一発いれ、沈める。
一作業終え、呼吸を一拍。
前を見る。
後続でこちら迫っていた2人が足を止めていた。
その顔には戸惑いと、ほんのわずかな恐怖。
僅かな間にで3人が倒されるとは思いもしてなかった、といった感じか。
更に後ろを見れば、
「「わふー」」
コボルト達が相対していた2人に剣を突きつけていた。
助言されても生徒達は油断していたのだろう。
素早く、小さい的である。
仕留めるには苦難するものだ。
「……さてと」
誠一は駆け、慌てて模造刀を構える2人。
……先達らしいことを示して行きますか。




