9、不穏な流れ
イダート学園。
その歴史は200年以上前にまで遡る。
イダート学園は1人の転生者、つまるところの勇者によって作られた。
勇者がいた当時の時代。
現在と違い、亜人差別は激しく、迫害・拉致・奴隷化・売買などがされ、人権などまるで無かったに等しい。
また、人間社会内でも、貴族や豪族が独裁政治の如く圧政をしき、格差による貧困問題なども挙げられた。
その状況を憂いた勇者は長い年月をかけ亜人差別、ならびに格差問題を改善させ、そして1つの学園を設立した。
亜人、只人は関係なく、そして貴族も平民も関係なく、知識・魔法を学べる場。
それがイダート学園である。
◆
「────と、これがこの学園の成り立ちだ」
これから勤める場所の沿革をミゲルさんからざっくり語られたのだが、まさか勇者が関わっていたとは。
しかも転生者とは、俺と同じの境遇。
後で暇な時により詳しく調べてみるのもありだな。
「故に現在は平民、貴族、獣人、森人、鉱人関係なく、身分による上下などなく一生徒としてイダート学園で勉学を学んでいる」
「なるほど。素晴らしい方針の学園ですね」
俺が実直な感想を述べると、急に3人とも黙ってしまった。
…………え、何かまずいこと言った俺?
突然の沈黙に不安になっていると、はぁとイルクさんはため息を吐いた。
「そう、素晴らしい方針なんだよ。けど、それは過去の話でもある」
「どういうことですか?」
「最近は格差や差別がある、ということだよ」
イルクさんの言葉に続いて、ルルリエ様にミゲルさんが説明を繋げていく。
「例えば獣人。彼らは身体能力の高さの代わりに魔力量が少ない。率直に言って、魔法を使うことには不得手だ。これは種族故の特性だ。平民に関しても稀に特殊な才能などが生まれるが、それは稀な案件である」
「対して、貴族。魔法を扱うにも才能が必要とされ、才能を身に付ける最もな手段として血筋が挙げられる。貴族は古くから才能を持つ者と交わるようにしてきた為、自然と貴族には魔法が長けている者が多い」
ならば特出して貴族の方が魔法の才がある。
平民との差異がある。
「イダート学園ではそれぞれのレベルに適した教育をする為に、魔法の技量毎に上からA・B・C・D・E・Fとクラスが振り分けていって。総じてAクラスには貴族が多く、Fには獣人や平民が多い形となったんだ」
「なんでそんな形態に?」
尚更、格差を助長させかねない構図だ。
「始めは良かったのさ。どのクラスも平等に教えられていた。だがある年に戦争が起き、即戦力が必要となった。するとどうなる?」
即戦力。
魔法に秀でているか、いないか。
ならば魔法に長けた者に期待と金をかけるのは必然。
なればこそ、
「Aクラスなどの上級者の教育に力を入れます。国の一大事なら」
「そう。その名残もあり教育に格差が生まれてしまった。今では戦争の記憶だけ消え、この教育の差は『自分達が貴族や才能があるから』などと勘違いする子達が後を絶たないんだよ」
「教育内容を元に戻せばいいのでは?」
そう聞いてみたが、ミゲルさんは首を横に振った。
「それをするには、成果を上げ過ぎていた。実際、学会や戦争などでも現在の教育内容にしたことで、上位クラスの者たちが多く結果を残している」
なるほど、面倒くさい話である。
しかも、Aクラスは貴族。
当然、その子達の親は貴族。
教育内容を元に戻すということは、教育のレベルを下げるということ。
貴族たちはいい顔をしないだろう。
それに貴族側が不満を持って更に貴族と平民の間に壁が生まれそうだ。
この問題の解決には、やはり下級クラス、獣人や平民の生徒の技量の底上げしか無いのではないだろうか。
しかし、問題はそこをどうするのかだ。
それが難しいから、この現状である訳だし。
「だが、このままではいかぬ。今でこそママゴトであるが、これが成長した場合。この阿呆な考えを引きずったまま社会に出れば、獣人だけでなく平民にも軋轢を生じる。一度染み付いた価値観は時間が経てば経つほど拭えなくなる。故に、余は命令を下す」
ルルリエ様様がそう言うと、三人揃って俺を見た。
………え、何でこの流れでコッチ見てんの。
嫌な汗がダラダラと流れてきた。
「クロス王国からの使者セーイチ・サワベよ。イダート学園Fクラスの担任となり、現在の状況を打開せよ」
一休さんでももっとマシなお題出されるぞ。