8、なんか見覚えのあるモザイク
顔合わせ当日。
俺は指定された場所に行ってみると城みたいにデカイ建物。
これが学園というのだから大層驚くしかない。
◯リー・ポッターにでも出てきそうだ。
俺は門の前に立っていた門番らしきオジさんに書類を見せると、地図を渡されて、指定のところまで行くように案内された。
「ここであってるよな?・・・うん、間違いない」
地図頼りに1人心細く言われた場所まで向かい、そんなこんなで辿り着いたわけであるのだが。
『第一修練場』
「・・・なんで修練場?」
面接や説明をするのであれば、普通は会議室とかでいいのではなかろうか。
まあ、もしかしたら異世界、というかこの学園ではこういった場所で打ち合わせするのが習わしで、おかしくないのかもしれない。
それに、自分は他国からの紹介だし、特殊なのもある。
とまあ、とりあえず理由をつけて納得させた誠一。
さっそく入って挨拶をしたいのだが・・・
バガッ、ガガガガッ、チュドーンッ!
先程から修練場の中から爆音などが聞こえてくる。
扉も衝撃がここまで届いているのかビリビリと震えている。
てなわけで、自ら進んで入りづらい。
入ろうかどうか迷っていると、『ボゴン!』とここ一番の爆音が聞こえたかと思ったら、先程までが嘘のように突然音が止んだ。
俺は嫌々ながらも、扉をノックした。
「し、失礼しまーす。クロス王国から推薦された誠一・沢辺です。入室してもよろしいでしょうか」
『・・・入りたまえ』
俺は高鳴る胸を押さえて
いざ、就職の扉を開けた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
修練場はまるでコロッセオのようであった。
円形の広大なフィールド。
それを囲むように段々の観客席が見える。
本来であればその観客席が人で埋まり壮観であるのだろうが、人の姿はなくガランとしている。
そして代わりに、その闘技場の真ん中にポツンと置かれたひとつの長机。
そこに肘をかけ手を組む1人のナイスミドルの男性がいた。
「はじめまして。君がセーイチ・サワベだね。私はイダート学園学園長のミゲル・カルケットだ。よろしく」
ナイスミドルの男性、は無表情で事務的に淡々と自己紹介をした。
「・・・誠一・沢辺です。よろしくお願いします」
「よろしい。では、今から簡易的に学園の説明を・・・」
出来ることならこのまま話を進めたい。
だが、コレばっかりは性分だ。
いや、性分でなくても普通なら見逃せない。
「あの!・・・すみません。その前にどうしても聞きたいことがあるんですが。よろしいでしょうか」
「構わない。何かね?」
「・・・あれは何ですか」
指を向けた先には、
地中から生えている股間丸出しの男と、その股間を執拗に杖で殴る車椅子の女性がいた。
(※股間にはセルフモザイクがかかっていますので、安心して下さい)
ナイスミドルはそちらをチラリと見て、
「・・・気にしないでくれ」
「気にするわッ!!あれ見てそれだけで済まんでしょ!」
「そうか。ならモザイクと女性のオブジェだと思ってくれ」
「無理だよ!」
なんでこの人はこんなに落ち着いているんだよ。
というか、あのモザイク見覚えがある。
思い出したくもないが、心当たりがある。
「そこのモザイク、もしかしなくてもイルクさんですか?」
すると、案の定股間が喋った。
『おお、ひさ、っオッフ、しぶりだね、セーイチ君、っアウチッ!元気、っテェ、だったか、ヌゥアア!?』
「股間叩かれながら喋んな!そっちの貴女もそんなバッチいもん叩かないの!」
『はっはっは、安心してくれセーイチ君!毎日しっかりモザイク洗ってるからバッチくないよ』
「そこじゃない!」
足を掴み、地面から引っこ抜く。
そしてモザイクも股間に付き従い上下に動く。
見たくも無いモザイクを見てしまった。
「ところで、何故ここに」
「君の面接官として」
だったら、せめて服を着て来てくれ。
「で、こちらの女性は?学園の関係者の方ですか」
不思議な女性だ。
年齢は20代後半、陶磁器のように白い肌。
その肌と対照的に紅い長髪。
白い肌だからこそ、その紅髪がより映える。
服の下から覗くふくらはぎは異様に細く、しかし、彼女に病的や儚げといった言葉は似合わなかった。
俺はモザイクを殴っていた車椅子の女性について、イルクさんに伺う。
「学園の関係者と言えば、そうでもあるけど。まあ、自分の上司。というか、この国のトップ」
「・・・・・・はい?」
トップ?国の?
てことはもしかして。
「貴賎がクロス王国から推薦された者か。・・・思っていたよりもパッとしないな。余がこの国を統べる者、ルルリエ・リ・パルティナである」
あーはいはい。このパターンね。
◆
開幕早々、偉そうである。
いや、偉いのである。
まさかの女王降臨。
「・・・あんまり驚かないね」
「驚いてますよ。ただサプライズには慣れてるので」
前例もあるし。
開幕モザイクスタートでこちとら驚き疲れてんだよ、こっちは。
ただ、考えてみれば俺をこの学園に推してくれたのは他国の王様。
であれば、その案件にこの国の王様が関わっててもなんら当たり前である。
しかし、女王様であるならば対応も変えねば。
俺は膝をつき頭を下げて、ルルリエ様に挨拶をする。
「陛下とはつゆ知らず、誠に無礼な態度を取ってしまい申し訳ございません。私の名は誠一・沢辺と申します。本日はクロス王国ウェルナー陛下の紹介の下、此方に参上した次第であります。今までのご無礼をどうかご容赦ください」
ツラツラと対上級貴族向けの礼節をとる。
もしかしたら、道を歩いていたら拉致されて、いきなり王様に会うかもしれない。
そんな時のことも考えて、ビルゲイ協力のもと練習を積んでいたのだ。
冗談半分でやってたが、役にたったぜ。
ちなみに練習中の姿を見た知人達からは、
「ぶふぉッ。超絶的に似合わんのw」
「セーイチ。人には向き不向きがあるものだわ」
などと言われ(誰が言ったかはお察しの通りである)、殴り合ったのは今となってはいい思い出である。
そんな少なからず喜びを感じているセーイチだったが、
「善い、許す。そして、堅苦しい話し方もせずに善い」
「え………?で、ですが、私めのような下々の者が礼儀を払わなければ、陛下に対して失礼かと」
「それがどうした?」
ルルリエ・リ・パルティナは悠然と言い放つ。
「貴殿が敬意を払わぬくらいで落ちる格ではない。もし、それで品位が落ちたというのであらば、それは私の怠慢めが招いたこと。故に貴殿が心配する余地は無い」
さも当たり前に、そして揺るがぬことを信じての言葉。
か、カッコいい………イケメンだよ。いや、イケ女だよ、この女王さま。
「仰せの『善いと申した筈だ』………分かりました」
気をつけぬと、ルルリエ様から溢れ出るオーラに思わず畏まった言葉になりそうだ。
さっきまでモザイクを執拗に殴ってたベルナン枠の変人としか思ってなかったが、考えを改めなければ。
………………ん?
「そういや、イルクさん。何で頭が地面に埋まってたんですか?」
そもそも修練場入る前に聞こえたあの戦闘音。
もしかして、イルクとルルリエ様が戦闘してた?
だが、なんで?
すると、イルクはよよよとハンカチ片手に語り出す。
「聞いてくれよセーイチ君。これには聞くも涙語るも涙なワケがあってね」
「あーはいはい。そーですね。分かったので簡潔にお願いします」
「よ、容赦無いなあセーイチ君!」
「簡潔に言えば、服を着ろという余の忠告を無視した為、余自らが灸を据えたのだ」
「はっはっはっ酷え話だよ全く」
ルルリエ様の簡潔な説明に、思わず乾いた笑いが出ていた。
するとイルクさんが憤慨して反論をしてくる。
「何を言ってるんだ!私の姿をよく見ろ」
「目が汚れるので見たくありません」
「本当に容赦無いな、君!」
誰が好き好んで男の裸体〜モザイクを添えて〜を見るものか。
だが、「ほれほれ!」と股間に合わせてモザイクを振ってくるのでしょうがなく見ることにする。
「………特にこれといって変化は見当たりませんが」
以前と変わらず、裸体にモザイク。
だが、
「何を言う。ちゃんと面接用におめかししてるだろ!」
「あ?一体どこがおめかしして────」
そういってイルクさんは自分の首元を指差して、
そこには蝶ネクタイがつけられていた。
…………………
「何でこの人クビにしないんですか?」
「変態ぶりに目を瞑れば有能なのだ。それに5年前までは服を着ていた」
「この5年で何があったんだ!?」
人は5年でこうまで退化するのか。
しかも、国お抱えの魔術師とは世も末だ。
「………あれ?」
そう言えば何かを忘れてるような。
「そろそろ宜しいかな、御三方」
ナイスミドルな渋い声がした方を向くと、学園長のミゲルさんの姿が。
………ヤバイ、完全に忘れてた。
誠一、学園生活波乱のスタートとなった。