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5、2度あることは3度ある・・・嘘だと言ってよ

イルクさんから離れた後、俺たちは宿を探すことにした。


拘束されていた為、日が暮れかけており、このままでは野宿なんてこともありうる。


それは御免被る。


「しかし、まあ・・・」


チラリと周りを見渡す。


このラハバキアという名の街は、王城も近いことがあってか、ソピア王国でも一二を争うほどに栄えている学園都市である。


学園都市とは聞いていたが、なるほど。

店々には何やら魔道具や薬品が並べられ、人を撲殺できるのではというほどの分厚い本を扱う店も見られる。はたまた、一見ごみにしか見えず、それは何に使えるのだと疑問を持ってしまうような物まで売られている。


例えるならば、○リー・ポッターの世界観と秋葉原が混じった感じか。


対して、街歩く人々は。

クロス王国とは違って獣人の姿はまるっきし見かけず。

服装は魔法使いでイメージするような真っ黒なローブを着ている・・・なんてことはなく。

例外を除いて普通の服を着ている。(少し質素な服が多い気がするが)


で、その例外とは。


「まさか、こっちで制服を見ることになるとは」


そう。制服だ。

自分の視線の先には、うら若き少年少女ら、恐らく学生であろう、が制服を着込んで街を闊歩していた。


その制服姿の後ろには従者らしき人を引き連れているため、自分としては違和感が否めないが。

貴族の子であろうか?


それに、なにより気になることが。


(・・・なんか少し見られてるような気が)


道行く人が先程からチラチラとこちらに視線を向けて来る。それはどこか不躾で、気分がいいものではない。


「この格好のせいかな?」


今の自分の格好はパーカーにジーンズと、神様から貰った初期装備である。

これのせいでお上りさんにでも見えるのだろうか?


補足ではあるが、毎日魔法でこまめに洗浄しているので安心してほしい。


とまあ、そんなどうでもいいことは後にして、まずは目先(やど)のことだ。


早速スマホのアプリ【ガルテアの歩き方】を起動させ、適当にキーワードを打ち込む。


「俺たちが泊まるのに適した宿、と・・・お、出た出た。名前は【Amore!】か」


「お兄ちゃん、お兄ちゃん。『あもーれ』ってどういう意味?」


アンちゃんがくりっとした目をパチクリとさせ、首を傾げる。


「たしか、イタリア語で「愛してる」、だっけ筈だけど」


これまた随分情熱的な店名である。

あと、アンちゃんが言葉の意味を聞いてきたところを見ると、明らかに(オレの)世界の言葉である。


そして、何故だろう。

名前からだろうか、それとも過去の経験からだろうか。



・・・・・・なんか嫌な予感がしてきた。



宿というと、どうしてもレヌスさんの例が頭から離れない。


だが、適している宿の検索でヒットしたのだ。

とりあえず、これは行くしかあるまいよ。


俺は重くなってしまった足を無理矢理上げて、目的地を目指すことしばし。


少し遠かったが着いた。

そして、宿を見た瞬間、着いてしまった、という後悔の思いに変わった。


「お兄ちゃん、なんというか・・・色がスゴいね」


「そうだね。俺もそれしか思えないよ」


この宿の特徴は一言で表せる。



『ピンク』だ。



そう。全体的にピンクであった。

壁から扉から屋根から、挙げ句の果てには看板さえピンク、ピンク、ピンク、ショッキングピンクと(いろど)られている。


只でさえ目立つというのに、宿の周りの家屋がなんの変哲もなく普通な造りのため、尚のこと存在感を放っている。


正しく突き抜けている。天元突破である。

ずっと見ていたせいか、目がシパシパしてきた。


そして、ピンクの看板にデカデカと黒字で達筆に【Amore!】と書かれ、その横に大きなキスマークが付いている。

ラブホでも、もう少しお淑やかではなかろうか。


もう嫌な気配を隠そうともしない。

そのショッキングピンク一色の宿の扉が、俺には新たなるカオスへの入り口にしか見えてならない。


入りたくないのは山々である。

しかし、ここまで来た道から鑑みるに、どうやらこの街は宿が少ないようだ。

辺りは暗くなり、今から別の宿を探すのは避けたい。


神様のアプリがここを指し示したのだ。

良くはなくとも、最悪なことはないはずだ。


頰をパンッと叩き気合いを入れ、いつ変態が向かっても良いように重心を落とし戦闘態勢に入る。

勇気を出して、いざ店内へ!


宿の扉を開けると共にカランカランと乾いたドアベルと言う名のゴングが、今まさに鳴った。


「いらっしゃ、い・・・お客さん、何でファイティングポーズ?」


「・・・・・・あれ?」


なんということだろうか。


俺は度肝を抜かれた。

店の外装とは裏腹に店内は至って普通。

普通の机、普通の椅子が置かれ、奥にはカウンターがある。

出迎えてくれたのも、変態係数が明らかに高いヤバい奴ではなく、ガタイが少し良いだけの普通の青年。


肩透かしを食らってしまった。


俺は念のため青年に確認をとった。


「すみません。この宿に変態はいますか?」


「お客さん、宿に何を求めてんだよ」


青年を真顔でツッコミされた。


うん、ごもっともである。

ツッコミのおかげで俺の精神は正常に戻った。


「あの、ここって宿でいいんですよね?」


「なんだ、お客さん知らずに入ってきたのか。よく、あの外装でここに入ろうと思ったな」


俺はファイティングポーズを解く。

「あの外装」と言ったのだ。この青年は間違いなくまともだと言えるだろう。


その青年は親切に説明してくれた。


「店の装飾は店長である俺の親父が決めたんだよ。この街は味気ないから少しでも鮮やかにしたかったんだと」


「な、なるほど」


少しでも鮮やかにって、あれで少し・・・?

しかし、確かにここへ来るまでの風景はどちらかといえば質素であった印象があるのは確かだ。

魔術の研究を重視しすぎて、オシャレとかは後回しなのか。


しかし、落ち着いてみると・・・先走って変な勘違いをしていた自分が恥ずかしくなってきた。

ファイティングポーズで入店して、変態いますかって。


ヤバい。顔が赤くなってきたのが分かる。


もう、駄目だな俺。次からは外観から決めつけないよう気をつけなくては。

深く反省。


と、1人で反省会をしていると、青年は俺らの後ろにまわった。

青年の少し妙な行動を訝しんで見ていると、青年は大きな声でカウンターの向こうに呼びかけた。


「おら、親父!久々のお客さんが来たぞー」


そんな青年の声に反応したように、カウンターの向こうからドスンドスンと足音が聞こえてきた。


挨拶をしようと、振り向く。



奥から身長2メートルでスカート姿の筋肉パンパンのオッさんが現れた。



「あらぁ、いらっしゃ〜い。ようこそ、愛の園【Amore!】へ!歓迎するわぁ」


体格だけで見たら、どこぞの有名なグラップラー的漫画にでも出てきそうな筋肉だ。

歩くたびにひらりひらりとスカートの下から見たくもない筋肉質の足とスネ毛が見える。


うん、オカマだ。


「あら〜、お客さん。急に膝をついてどうしたのぉ?」


「どうせこういうオチだって知ってたよ、チクショォォォォォッ!」


誠一の慟哭が宿に響く。

その背中に青年が声をかける。


「スゴいな、お客さん。たいていの場合、初見の人は親父のあまりのおぞましさに逃げるもんだけど」


そのコメントは息子としてどうなの。

そして、俺らの後ろに回ったのってお客がおぞましさで逃げださせなくするためだったんだね。


「アンちゃん・・・?」


嘆いていた俺だったが、隣のアンちゃんが無反応でいることに気付く。

その親父(オヤジ)さんをジーと見ていたアンちゃんがぼそりと呟いた。


「・・・女の人?」


「アンちゃんの思考がバグりかけている!」


「お嬢ちゃん、あんなのが女だったら世界が滅びてるから」


初めてオカマを見たせいか常識が追い付かないアンちゃん。

そして、さらりと毒を出す青年。


オカマ、もとい宿の親父さんがアンちゃんの存在に気付いた。


「あら、獣人の子ね。かわいい〜」


「あぬ、むぅぅ!む、胸がかたいぃ」


アンちゃんが化け物に抱きしめられ、逞ましい胸板を押し付けられている。


・・・どうしよう。

アプリだとここがオススメって出てたけど、別の宿にしようかな。


「ここの方が良いぞ、お客さん」


逃げ出す算段を組み立て始めていた俺に、息子さんが小声でそんなことを言ってきた。

俺、そんなに顔に出していただろうか。

しかし、何故ここが良いのか分からん。


「その様子だとやっぱ知らないか。言っとくが、他の所じゃ宿泊費を高くふっかけられて、サービスも雑になるのがオチさ」


「・・・それまた何で」


息子さんの不穏な言葉に質問すると、息子さんはちらりと親父さんに抱きしめられているアンちゃんの方を意味ありげに見た。

より正確に言うなら、アンちゃんの耳と尻尾のあたりを、だ。


「・・・獣人だからか」


「・・・・・・」


俺の言葉に息子さんは答えない。

だが、その無言こそが肯定を意味していた。


確かに、来る道中もジロジロと見られていた気がしたが、あれはアンちゃんのことを見ていたのか。


俺は未だに獣人への差別が残っているのも知識として知っている。


だが、国境ひとつ跨ぐだけでそうまで違うのか。

改めて、いや、俺は初めてその問題を目の当たりにした。


「お客さん、大方クロス王国か来た人だろ。安心しな。俺はそんなの気にしないし、親父もあの通りだしさ」


もしかすれば、アプリがここを勧めた訳はこれが理由だったのかもしれない。

流石は神様が作ったものだ。気が利いてる。


「とりあえず、一泊してから決めればいいし。どうする?他の所がいいなら構わねえけど」


「・・・いや、ここにするよ」


「毎度あり。部屋は一つでいいかい、お客さん?」


「ああ。ベッドは2つで頼むよ」


どうやら俺が思っていたよりも、根深く種族の差別問題とやらがあるようだ。

アプリで宿を調べといて、正解だったな。


ただなあ・・・・

俺はちらりと横に目をやる。


オカマがぐったり疲れたアンちゃんを脇に抱え、クネクネしながら自己紹介をしてきた。


「これからよろしくねぇ、お客さん。私のことはジョディって呼んでね♡」




神様、一生のお願いです。

どうか、普通の宿に泊まらせてください。

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